祭ばやしが聞こえる vol.8
vol. 55 2022-05-14 0
その逆を行く "氣功"
昨日は午前10時半に総武線の東中野駅へ。線路沿いにあるSpace&Cafeポレポレ坐で、5/20(金)にやる『人情噺の福団治』上映会の下見。外観から想像していた以上に落ち着く、上映会向きの場所で少し驚く。会場設営に関することや、ブルーレイの再生確認、音声についてなど簡潔に確認し、後にする。
約束の14時には早かったが、JRで五反田まで移動し、東急池上線(ヒット歌謡曲『池上線』が有名)に乗り換えて長原駅へ。12時ごろ着。しばらく散歩する。生活者主体の町で、来訪者はやや居場所の無さを感じるかもしれない。だがそれは町としてとてもまっとうなことだし、東京にもこのような町があるのだなとわかり安堵のようなものを覚えた。そして、そのようなことが珍しく感じられる「東京」は、やっぱりちょっとおかしいのではないかと思った。オリンピックというスーパーの一階のカフェでお茶。店員さんもあたたかく、コーヒーも食べ物も美味しかった。そしてリーズナブル。
14時少し前、出版社・コトノハさんのオフィス着。オフィスにはHさんがおられ、ポッドキャストの収録が始まる。編集長のHさんは『おれらの多度祭』の試写に来てくれて、後日この収録を提案してくれた。なんやかんやと喋る。録音されていたかどうかはうろ覚えだが、Hさんが「氣功を最近はじめたんです」とおっしゃる。僕は「2008年末まで東京にいたが(注・厳密には最後は神奈川の横須賀)もう少し東京に人間味があった気がする。まだスマホはなく、みんなガラケーだった。今は、スマホを持ってて当たり前…を飛び越して、さらにその先の状況にまで来ている。今回東京に来てよく見るのは、コードレスイヤホンでスマホを見ながら電車に乗っていたり、歩いている人たち。コミュニケーションが遮断されていて、まるで人間自身が "端末" になってしまってるように見える。だから、その逆を行く "氣功" というのはとてもいいんじゃないか」みたいなことを言わせてもらう。
終了後、Hさんに隣駅の「たこ焼き屋 笛吹」に案内してもらう。たこ焼きを中心に、ベーコン焼き、エビ焼き、ウィンナー焼きなどあり、安くお酒も飲める(地元の酒・ハイサワーが美味かった)。店主のIさんは渋さ知らズオーケストラの一員でもあると、Hさんから聞かされる。二十代の頃、渋谷かどこかのライブハウスにソウル・フラワー・ユニオンと渋さ知らズオーケストラの対バンを見に行ったが、完全にソウルフラワーを食っていた。他にも何かのフェスで見ている。Hさんはお酒をやめているらしく、少ししたらお帰りになったが、僕とパートナーは閉店過ぎの19時半までいて、入れ替わり立ち替わりやってくる常連さん、店主のIさんと楽しい時間を過ごさせてもらう。『おれらの多度祭』のチラシも置いてくださった。福岡八女の数々の名店、三重県の名店「たど村」に匹敵する、地域の愛すべき名店だ。
東京滞在も一ヶ月を超えたが、いろいろ動いてみて、届く人にはしっかり届き、取材、収録、記事掲載などもしていただく反面、相手にされていない媒体、人たちにはまるっきり相手にされていないという感覚がある。いや、相手にされていないというのは適切な語句ではなく、「彼らの視界に入っていない」というのが正しいように感じる。
東京に来る前にパートナーによく言っていたのは、「例えばマーベルのヒーロー映画なんかがステーキとかハンバーガーだとしたら、俺たちの映画は、どう頑張っても "漬け物" だからね。俺は、よく発酵した漬け物が大好きだし、そして今回の映画も唯一無二だと思っている。でも、きっと東京の人たちは "漬け物" というイメージで一括りにし、手に取ってくれない人が多いだろう。そういう人たちに漬け物の良さを理解してもらうのは難しいかもしれん。でも、中には僕たちみたいな感覚の人が絶対にいるはずだから、そういう人たちとどうやって出会っていくかだね」ということ。
まさにそんな感じになってきている。
上二枚:総武線 東中野駅のホームから見えるポレポレ坐。5/20の上映会はこちら
上二枚・ポレポレ坐 内部
伊藤有紀