祭ばやしが聞こえる vol.1
vol. 45 2022-03-27 0
"いろいろ考えてたんです。"
もうすぐ、劇場公開に関する大きな告知ができそうです。今はまだ福岡県にいますが、東京に部屋もすでに押さえていて、少しずつ移動の準備も進めています。
いろいろ考えてたんです。
例えば、僕とヒロミさん(この映画を届けるためのパートナーであり、妻でもある)が会議してる模様をビデオカメラで撮ってyoutubeに上げよう、とか。いやインスタだtiktokだ、映像よりも音声、ラジオがいいんじゃないかとか。会議の模様を音声レコーダーで録って流すんだ、ラジオの『ジブリ汗まみれ』みたいにさ…なんて言ってみたり(実際に録って聞いてみたら、確かに熱気があり面白かった。ただ、外に出せないことをガンガン話していたり、あまりにストレートに物を言っているので気分を害する人がいるんじゃないかと…いや、カッコつけるのはやめよう、口が悪すぎて、これじゃとんでもねえ奴と思われちゃうんじゃないかと心配になったんです)。
そういったことで(どんなことやら)、監督であり、宣伝にも携わっている僕が、ときどき拙い文章を書くという、無難なところに落ち着いたというわけです。
さて、福岡には西南学院大学という名門の私立大学があるのですが、そこで開催されている映画祭に3/25、3/27と行ってきました。
お目当はRKB毎日放送のディレクター、故・木村栄文さんの作品群です。今回の映画祭では、高倉健が出ている『むかし男ありけり』自身の、精神薄弱児である娘さんを撮った『あいラブ優ちゃん』祭の縁日の世界を様々な視点から愛情深く撮った『祭りばやしが聞こえる』の三本を観ることができました。
以下、浅薄な私見を述べます。私は、ドキュメンタリーを撮るという行為は、生まれながらにして罪(原罪)を背負った行為だと考えます。なぜなら、懸命に生きている人のかけがえない生、あるいは現代の矛盾が煮こごったような社会問題を映像に捉え、編集を施し、自分の(自分達の)「作品」などというものにしてしまうからです。なぜ、懸命に生きている人の切実な生の営みが「作品」などというちっぽけなものになりうるのか。なぜ、たくさんの人が苦しみ、解決することなど半永久的になさそうな社会的事象が「作品」なんぞになりうるのか…。
僕自身、葛藤しながらドキュメンタリーに向かわせてもらってきているし、今でもずっと、悩んでいます。いろんな作り手が、その作り手なりの筋の通し方、オトシマエのつけ方をしていると思いますが、中には、練磨しきってない未成熟な自意識が作品や作り手から漂ってくるものもあり、ドキュメンタリーって一体なんなのだろう、人間って一体なんなのだろう…と、悩みは深くなるばかりです。
さて、木村栄文さんの何が凄いか。僕はその「テーマや被写体へのオトシマエのつけ方」だと思います。それは『あいラブ優ちゃん』に顕著だと思いますが、ご自身の娘さんを撮って、ご自身がナレーションをあて、また出演もされている作品です。その中で、木村栄文さんは、時に公平性を失います(それはそうです、ご自身の、それも障がいを持っている娘さん…優ちゃん…との日常を撮っているのだから、優ちゃんの幸せを願えば、冷静でいられない時もあるでしょう)。
もしこれが、よその障がいを持っているお子さんを撮ったドキュメンタリーだったら、作り手が公平性を失い偏った視点で捉えることは、許されないことでしょう。しかし『あいラブ優ちゃん』では、まさにそここそが強烈に観る者の胸を打ち、忘れられない余韻をもたらすのです(書いている今もジワッと涙腺がゆるみます)。
スクリーンから伝わってくるのは優ちゃんへの愛情、心配、これまでの葛藤、そしてそれを「作品化」することへの覚悟(それは親・夫としての覚悟でもあり、作品にするからには観ごたえのある物を作るという作り手としての覚悟でもあるように見えた)。これらの前では、外野からの文句など意味をなしません。また、この作品に限らず、木村栄文さんの作品は、氏ご自身の体温や身体リズムのようなものが感じられるのが特徴ではないかと思います(評論家の方が木村栄文作品を「美しさと哀しさが特徴」と言っていて、それはその通りだと思いますが、その根っこには氏の体温、身体リズムがあるのではないかと思っています)。
それは、氏が様々なテーマを自分に引きつけて、氏なりに咀嚼してから、頭ではなく「腹」というか、全人間的な氏自身を通して、作品づくりに臨んでいたからではないかと思うのですが、いかがでしょうか。木村栄文さんの作品を観ると、ドキュメンタリーも、人間も、捨てたもんじゃないなと思わせてくれます。ご覧になれる機会がありましたら、ぜひ観ていただきたいです。
末尾ですが、今回のような気骨ある映画祭を企画・運営したRKB毎日放送に敬意を表します。会場に行くと、予想外に手作りの感じが漂っていて、素晴らしいなと思いました。
伊藤有紀