応援しています!!(刑法学者・金尚均)
vol. 5 2018-10-25 0
2016年に部落差別解消推進法が制定された。部落・同和問題について日本社会はすでに克服したはずではなかったのであろうか。69年に制定された同和対策事業特別措置法を皮切りに多くの対策事業が行われてきた。これらによって部落問題は「もうすでに」過去の歴史上の事柄となったのはずではなかったのではないのか。残念ながらそうではない。解消法1条に「現在もなお部落差別が存在する」と明記している。
「現在もなお」とは、「もうすでに」と対置して、特措法成立以後もなお部落問題は未解決であると読み取ることができる。憲法14条は法の下の平等をと差別の禁止を定めている。差別は法的問題であり、平等の侵害に対して法的制裁が加えられなければならないはずなのに、差別は「心・やさしさ」の問題にすり替えられ続けている。
山本栄子さんは部落そしてこれを取り巻く不当な社会環境に対して阿(おもね)ることなく、不当な歴史を背負い、引き受け、これを自らと社会を変革するための原動力としてきた。矍鑠(かくしゃく)としたその話しぶりと思考展開は対談からにじみ出ている。おそらく彼女が引き受けた歴史とこれに対する怒りが途絶えることなく彼女を奮い立たせるのだろう。それだけでなく、一人の人間が自己の置かれた境遇から目を背けず、しかも荒れることなくしなやかに生きる作法をも教えてくれる。
金尚均(龍谷大学教員)