劇場での演劇。オンラインでの演劇。
vol. 15 2020-05-15 0
5月6日にWeb会議サービスZoomとYouTube Liveを利用してリモート読み合わせを生配信した。三谷幸喜さんの傑作会議コメディ『12人の優しい日本人』を特別に許可を得て5月6日にWeb会議サービスZoomとYouTube Liveを利用してリモート読み合わせを生配信した。
これは『12人の優しい日本人を読む会』の演出をされ、「小劇場エイド基金」の賛同人でもあるアガリスクエンターテイメントの冨坂さんに行ったインタビューです。全3回。
屁理屈シチュエーションコメディ劇団。
一つの場所で巻き起こる事件や状況で笑わせる喜劇、シチュエーションコメディを得意としており、最近では大勢の人物がごちゃごちゃ理屈をこねたり議論をするコメディを作っている。
王道でウェルメイドなコメディを独自の理論で一捻り二捻りした作品が多いが、そんな中でも“劇場でウケること”を重視して創作している。
母体が存在せず、千葉県市川市の公民館で自然発生した野良劇団であるが、主宰の冨坂のルーツである千葉県立国府台高校を題材にした作品が多く、代表作の「ナイゲン」は各地の高校・大学の演劇部や劇団で上演されている。
演劇公演以外にも、コントライブの開催やFLASHアニメーションの製作などを手がけるなど、活動範囲は多岐にわたる。また、隔月程度の頻度で新宿シアター・ミラクルにて開かれる「演劇」×「笑い」のコントライブシリーズ、新宿コントレックスを主催する。
「アガリスクエンターテイメント」及び「Aga-risk Entertainment」が正規表記。「アガリクス」では無い。
冨坂友(とみさかゆう)アガリスクエンターテイメント主宰・脚本・演出
第1回「『12人の優しい日本人を読む会』の裏側は、どんな感じだったんですか?」
第3回「劇場での演劇。オンラインでの演劇。」(この記事です)
ーー
劇場での演出とZoomでの演出は、どのような違いを感じていますか?
冨坂
オンラインでやった時に、「生でその瞬間に生成しているのか、録画なのか」ということは
「劇場で生でやるのか、Zoomでやるのか」っていうのとおなじぐらい距離が離れているものだと思っていて。
オンラインの演劇のときに、時間を決めて役者がその場で言葉なり表情なりを生成しているっていうのと、お客さんがそれをリアルタイムで受けている、おなじ時間を共有している、っていうことはかなり演劇らしい。
YouTube LiveのチャットなのかTwitterなのかでお客さんが加担ができる行為なので、
これはかなり演劇に近い行為だなと思っていて。
おなじオンラインでも、事前に撮っていたものを組み合わせて編集して映像作品にする。
これだと、劇場でやっていないとかZoomを使っているということは一緒なんですけど、かなり違いのある行為だなと思っています。もちろん、それぞれにそれぞれの良さはあると思います。
ーー
Zoomでの演劇の可能性というのは、どういう印象をお持ちですか?
冨坂
『12人の優しい日本人を読む会』の本番や稽古の時に思ったんですけれども
今回の上演に関しては、誰がどっちにいるっていう位置関係を示すのを首の振りでするっていうのをやめたんですよ。
というのも、誰がどう配置されるかが分からないんで。
右向いてるのに相手がこっちにいるっていう可能性もあるので混乱するかもしれないってことでやめて、基本的には画面の方をぼんやり見るかカメラをがっしり見るか目を伏せるか。をしていただいたんですね。
「誰がどう配置されるかが分からない」を身振り手振りで説明してくださる冨坂さん
特に『12人の優しい日本人を読む会』だと最後ハケていくときに、
基本的にみんなが誰か共演者を見ようとしたら画面の方とかカメラを見ることになるので、
西村さん(9号役)の歯医者さんが相島さん(2号役)に話しかけるところとか、
宮地さん(10号役)が2号に話しかけるところとか、お互いの表情を見せることが可能になるんですね。
これがぼくはすごくZoomでやったことの強みが出たなと思ってまして。
舞台でやるとおそらく、
横とか斜めを向いてひとり佇んでいる2号に後ろからそっと近づく10号
みたいな形になるんですね。
絵としてもちろんドラマチックでエモーショナルではあるんですけども
やっぱり2人の表情を同時には注目しづらい部分があると思います。
ぼくは、1992年の渋谷パルコスペースパート3でやった時の記録映像を見せていただいたりとか、2005年にPARCO劇場でやったバージョンだったりとか映画版だったりとかを観る中で、一番2号と10号の印象が強まったのは今回のZoomを使ったバージョンだったんじゃないかなと思ってます。
それは画角とか前を向いているという制約によって生まれた効果なのかなと思ってます。
ーー
その目線の話も伺いたかったんです!
どうしても目線を見ようとすると画面を見ちゃうので目線が落ちるじゃないですか。
でもみなさんカメラに向かって話されている印象があって、そのあたりも話されてたんですか?
冨坂
そうですね。近藤さんからのお話もあったりぼくからもお伝えしました。
たぶん画面を見てるのとカメラを見てるのって目線の動きは数センチなんですね。
なんですけど、結構印象が違うなと思いまして。
例えば舞台で最前列で客席の方に向かって話しかける演出があると思うんですけど
ぼくZoomだとずっと前を向いて誰かと喋っている状態からいきなりカメラをガッと見据えることによっておなじ効果が出るんじゃないかなと思ってまして。
いきなりカメラをガッと見据える冨坂さん
あと誰かに話しかけるとかパスを渡すみたいな、喋りかけているときに漠然と全員に対して喋るんじゃなくて「そこのあなた」って
指向性を強くして話す時ってあるじゃないですか。
そういうときにカメラをしっかり見るとか、そういった発話の仕方をカメラを見るか見ないかを使うと種類を分けれられるなと思っていて、Zoomで演劇をするときに使えるテクニックなのかなと思いました。
ーー
この短期間で、そこまでZoomや映像の特性を見つけて演劇的に落とし込めることがすごいなと思います。
冨坂
ありがとうございます。あれですね。新しいおもちゃを見つけたみたいな(笑)。そういう部分はありますけどね。
ーー
今後も劇場とは違う表現として、オンラインでの演劇の良さを見つけていくんだろうなって思いました。
冨坂
もちろん劇場の良さはあって、特にぼくらのようにコメディをやっているとお客さんの笑い声が音としてほしいっていうのはあるんですよね。
自分たちが聞きたいだけじゃなくて、お客さんに他のお客さんの笑い声を聞いてほしいっていうのがあるんですよ。
なんて言うんでしょう、、、舞台の音響としてお客さんの笑い声とか反応の声を入れたくなっちゃうんです。
こればっかりはオンラインでやっていると、どうしても入れづらいっていうところがあります。
ーー
反応が分からないっていうのは特徴としてありますよね。その点について役者さんたちが何か言っていたことありましたか?
冨坂
YouTube Liveのチャット上で「ジンジャエール」とか投稿してくれているのを見て、お客さんはたぶん、他の人といっしょに見てる感を文字情報ですけど感じることができてはいると思います。
役者自身がキャッチできないのは残念だったり寂しそうではありましたね。
ーー
むずかしいですよね。笑い声があれば、そこをもうちょっと膨らませたりとかいうのもあったりすると思うんですけどね。
冨坂
もっと大人数を入れられるプランにして、お客さんにも画面だけ消して入ってもらって、
音はミュートにしてもしなくてもいいです。
その代わり反応の音以外は出さないでねっていう、、、実際の舞台と同じですよね。
(実際の舞台もお客さんの誰かが舞台上に上がってきたら壊せちゃうわけで)
良心に任せるっていう本当の劇場の演劇のやり方でやってみたらどうなんだろうっていうのは、思ったことはあります。
ーー
『かげきはたちのいるところ』パイロット版の前説で「食事自由です」っていうところが本当の劇場公演の前説に近づくって感じですね。
冨坂
そうですね(笑)。
やってみようかなと思いつつ、まだ踏み込めてはないですけど。
ーー
冨坂さんやアガリスクエンターテイメントにとって劇場での演出でこだわっている点は、どんなところですか?
冨坂
ぼくらは劇場じゃないと演劇ができないというようなストイックに劇場信仰をしている方ではないのかもしれないですけど。
映像で演劇を観るのもアリ派なので。
カフェだったり民家だったり背景を借りてその場でお芝居をするっていうのも、それぞれの効果を期待できるなと思っているんですけれども、劇場は、虚構性や外の情報を一旦切り離してフィクションになる機能を一番持っている場所だと思っていて。
笑いやすいとか大きい声をだして一体感を持ってやるだとか、熱気がこもるしお客さんも湧きやすいというのは絶対的なアドバンテージがあると思っています。
やっぱりどうしてもどこかの背景を借りるとか自宅とかって、激しいやりとりがし辛かったりするんですね。
『12人の優しい日本人を読む会』の最後の相島さんの熱演とかはお芝居自体もとんでもなくすごいんですけど、これ自宅でやってるのすごいなって思ったんですけど、なかなか自宅だったり劇場以外のどこかでやる公演だと、激しい表現の似合わない作品になってしまうっていうのがあるので、そこの自由度っていう意味ではやっぱり劇場にはアドバンテージがありますよね。
自分たちもガチッとウケたい公演の時は絶対劇場でやるなと思っているので。
そういう意味では演劇を派手にやる自由にやるっていうことが法律的にも物理的にも許されている劇場っていう存在がすごく大事だなって思っています。
ーー
どちらが良いではなく、オンライン的演劇と劇場的演劇の違いが分かってきたという感じですか?
冨坂
ある程度やりやすさっていうのは、作品によって分かれてくると思います。
西田シャトナーさんが『12人の優しい日本人を読む会』の感想をTwitterでつぶやいていて
この考え方は確かにあるなと思いました。どこにでも制約もあれば強みもあると思います。
ーー
本日はお時間をいただき、ありがとうございました。
冨坂
ありがとうございました。
ーー
これからのご活躍と『かげきはたちのいるところ』の本公演を楽しみにしております。
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今回のインタビューを快く引き受けていただいた冨坂さんに感謝いたします。
オンライン演劇をあえて選ぶという状況になると、演劇がさらに広がりのある面白いものになるのではないかと冨坂さんのお話を伺っていて思いました。
劇場で演劇を観られる日が、早くきますように。