最高に楽しい公演延期とは?
vol. 14 2020-05-14 0
5月6日に行われた『12人の優しい日本人を読む会』の演出をされ、「小劇場エイド基金」の賛同人でもあるアガリスクエンターテイメントの冨坂さんに行ったインタビューです。全3回。
アガリスクエンターテイメントは新型コロナウイルスの影響で公演延期を決断されました。しかし悲壮感どころか、この状況を楽しんでいる印象さえ与える今の活動について伺いました。
屁理屈シチュエーションコメディ劇団。
一つの場所で巻き起こる事件や状況で笑わせる喜劇、シチュエーションコメディを得意としており、最近では大勢の人物がごちゃごちゃ理屈をこねたり議論をするコメディを作っている。
王道でウェルメイドなコメディを独自の理論で一捻り二捻りした作品が多いが、そんな中でも“劇場でウケること”を重視して創作している。
母体が存在せず、千葉県市川市の公民館で自然発生した野良劇団であるが、主宰の冨坂のルーツである千葉県立国府台高校を題材にした作品が多く、代表作の「ナイゲン」は各地の高校・大学の演劇部や劇団で上演されている。
演劇公演以外にも、コントライブの開催やFLASHアニメーションの製作などを手がけるなど、活動範囲は多岐にわたる。また、隔月程度の頻度で新宿シアター・ミラクルにて開かれる「演劇」×「笑い」のコントライブシリーズ、新宿コントレックスを主催する。
「アガリスクエンターテイメント」及び「Aga-risk Entertainment」が正規表記。「アガリクス」では無い。
冨坂友(とみさかゆう)アガリスクエンターテイメント主宰・脚本・演出
第1回「『12人の優しい日本人を読む会』の裏側は、どんな感じだったんですか?」
第2回「最高に楽しい公演延期とは?」(この記事です)
第3回「劇場での演劇。オンラインでの演劇。」
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アガリスクエンターテイメントによる『かげきはたちのいるところ』パイロット版朗読イベントは、『12人の優しい日本人を読む会』の1週間前、、、
はい、ちょうど1週間前に本番を行いました。
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これが本番を意識した初のZoom生配信ですか?
冨坂
ぼくがやったのはそうでしたね。
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生配信でパイロット版を行おうと思った経緯を教えていただきたいです。
冨坂
発端をお話すると、4/29〜5/10までサンモールスタジオで公演を予定していたんですけれども、これはまぁむずかしいだろうということで、1年後を目安に延期という形にしまして。
そうなったときに何かポジティブな延期の方法と言いますか、「申し訳ありません」「できなくて残念」という色だけじゃないメッセージを発信したいなと思って。
そこで「最高に楽しい延期をしよう」っていうキャッチフレーズをつけて、
本番はできないけど、新しくこういうことをするよっていうものを、まとめて打ち出そうと思いました。
その中のひとつが朗読生配信でした。
朗読生配信を4/29にやったのは、本番初日を迎えるという同時性を意識したものをやりたいなと思ったからです。
これをZoomでやるにあたって本編と同じ2時間はなかなかしんどいなと思ったので
短編だけで成立するものを新しく書いたんですけども。
どうしてもZoomという四角い画面の中でカメラに向かって話すので、動きのあるものとか位置関係を利用したお話ってむずかしいんですね。
そこで位置関係を利用するものは写真を組み合わせてアニメーションみたいなものを作って
千秋楽(5/10)までに公開しよう。っていうこの二段構えで、劇場ではできないものをやれたらいいなぁと思いました。
ーー
公演延期の決断については、劇団の方たちとどういうお話をされましたか?
冨坂
(3月中は)たぶんみんな「どうすんの?」っていうのと「なかなかむずかしいのでは?」っていう意見は空気としてあって、追々決めていこうって言ったまま、Zoomでの打ち合わせを重ねていたんですね。
で、4/2のタイミングで本格的に「さてどうしようか」ってなって、延期を提案したら比較的みんな同意って感じでした。
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切り替えがポジティブだなっていう印象があって、朗読生配信のテスト動画がYouTubeに残っていて、
冨坂
(笑)
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そこにすごい試行錯誤が詰まっていて面白かったんですけど、配信されちゃってることを途中で気づきましたよね?
冨坂
途中で気づきました(笑)。残しちゃおうと思って残しました(笑)。
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その時のみなさんの切り替えもすごい面白いし、舞台で、生で培われた対応力というか、
トラブルも楽しんじゃうというか、それがすごいなと思って。
冨坂
ここ最近のアガリスクエンターテイメントのスタンスとして、今回の公演は特にそうなんですけど、作っていく過程とか、ちゃんとできてないところからできていくところまでを
あんまり隠さないで見せていく。っていう方向にシフトしていて。
そこの創作過程を含めて追ってもらうっていう企画で今回はじまっていたので、それもあっていろんな形でポジティブに試行錯誤を見せる下地がすでにあったと思います。
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上手くいかない感じとか、伊藤さんが背景じゃなくて自分の色が変わっちゃうとか、面白い事件がたくさんあったんですけど
背景を変えたかったはずが、上手くいかない劇団員の伊藤さん
特に興味深かったのが冨坂さんがカメラ位置を指示している点でした。
冨坂
あ〜はい。
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もうちょっと映り方を揃えた方がいいんじゃないかと仰っていたのが印象的だったのですが
普段、演劇だと見え方までは細かく演出しきれない部分もあると思うのですが、
見ている人の視点は、どう意識されていますか?
冨坂
カメラ位置とかは、それぞれのスタートの位置がバラバラだと近づいたりとか離れたりとかする時の効果が薄れちゃうので揃えるのは当たり前っちゃ当たり前なんですけど。
ただ、最初から意識はしてなかったんですね。
なんですけど、配信時に注意すべきことという記事を見たことがあって、、
それを目にしたのがちょうどテスト配信の前日だったので(笑)。
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『かげきはたちのいるところ』パイロット版朗読イベントを観ていると、
短い時間の中でも小ネタの数々がたくさんあって、それをひとつのテーマに落とし込んでいて感銘を受けたんですけど、そういう知識はどこから得ることが多いですか?
冨坂
新左翼関係の新書を読んだりとか山本直樹さんの『レッド』っていう、
連合赤軍の総括からあさま山荘へ至るまでをひたすら追っていった漫画を読んでいたりはしました。
あと、普段からインターネットのインタビューはよく読んでいますね。
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いろんな方の発言などを自分の中に溜めていってるんですね。
冨坂
たぶん作家にしては、本を買って所蔵している量は圧倒的に少ないと思うんですけど。
ネットの記事、特にインタビューに感銘を受けたり、それを読んだ瞬間にお話を思いつくことが結構多いかもしれないです。
過激派の極左暴力集団と呼ばれている左翼の過激派の人たちの活動をコミカルに描くっていうのも、もともとネットの記事にあったものをモデルにしていて。
2〜3年前に、中核派と呼ばれる過激派の人たちが現代だとどういう生活をしているのか、
このご時世に革命とかどれぐらい本気で考えていて、どうやって活動しているかのロングインタビューが載ってたんですよ。
それを見て「あぁなるほど!」と思って。思想性が強かったりだとか極端なことを言っている人たちと、生活感という結びつかないものを合わせると面白いんじゃないかなっていうのは、そこで思いつきました。
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『かげきはたちのいるところ』はめちゃくちゃ生活感のあるやりとりですもんね(笑)。
冨坂
買い出しとか宅飲みの話にしたのは、公演延期をしてパイロット版を作ろうってなった時が、ちょうど3密を避けてそれぞれ家に個別にいるっていうことが推奨されはじめた時期だったので、
たぶんぼくら自身も飢えていたし、視聴者側も飢えているはずなので、人が無為に集まっていること自体が、ちょっと良きものというかドラマチックに見えるのではないか?と思いました。
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パイロット版と元々予定されていた公演との違いは、どんな点ですか?
冨坂
最近連続ドラマに興味があって、『フルハウス』とか『フレンズ』とか『ビッグバン・セオリー』とかそういった20〜30分の連続のシットコムを5本6本つなげたものを舞台でやろうと思っていました。
舞台にかけられないスピンオフのエピソードがたくさんあって、そのひとつをパイロット版として生配信しました。
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雰囲気は感じられるけど本公演とは違うものなんですね。
冨坂
登場人物はいっしょで、設定も完全にいっしょなんですけども、やりとり自体は公演するものとは別の日の話です。
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ありがとうございます。本公演を楽しみにしています!
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明日は、「劇場での演劇。オンラインでの演劇。」をお送りします。
おたのしみに。