『12人の優しい日本人を読む会』の裏側は、どんな感じだったんですか?
vol. 13 2020-05-13 0
三谷幸喜さんの傑作会議コメディ『12人の優しい日本人』を特別に許可を得て
5月6日にWeb会議サービスZoomとYouTube Liveを利用してリモート読み合わせを生配信した。
出演は1992年東京サンシャインボーイズでの上演版のオリジナルキャストを中心に、
吉田羊さん、Prayers Studioの妻鹿ありかさん、渡部朋彦さんを加えた豪華メンバーで行われた。
演出は三谷幸喜フリークの若手演出家・アガリスクエンターテイメントの冨坂友さん。
これは「小劇場エイド基金」の賛同人でもある演出の冨坂さんに『12人の優しい日本人を読む会』本番の翌日に行ったインタビューです。全3回。
一つの場所で巻き起こる事件や状況で笑わせる喜劇、シチュエーションコメディを得意としており、最近では大勢の人物がごちゃごちゃ理屈をこねたり議論をするコメディを作っている。
王道でウェルメイドなコメディを独自の理論で一捻り二捻りした作品が多いが、そんな中でも“劇場でウケること”を重視して創作している。
母体が存在せず、千葉県市川市の公民館で自然発生した野良劇団であるが、主宰の冨坂のルーツである千葉県立国府台高校を題材にした作品が多く、代表作の「ナイゲン」は各地の高校・大学の演劇部や劇団で上演されている。
演劇公演以外にも、コントライブの開催やFLASHアニメーションの製作などを手がけるなど、活動範囲は多岐にわたる。また、隔月程度の頻度で新宿シアター・ミラクルにて開かれる「演劇」×「笑い」のコントライブシリーズ、新宿コントレックスを主催する。
「アガリスクエンターテイメント」及び「Aga-risk Entertainment」が正規表記。「アガリクス」では無い。
冨坂友(とみさかゆう)アガリスクエンターテイメント主宰・脚本・演出
第1回「『12人の優しい日本人を読む会』の裏側は、どんな感じだったんですか?」(この記事です)
第2回「最高に楽しい公演延期とは?」
第3回「劇場での演劇。オンラインでの演劇。」
ーー
発起人は近藤芳正さんとのことですが、どういう経路で冨坂さんにお話がきたんですか?
冨坂
妻鹿ありかさんが近藤さんにぽろっと呟いたのが企画の発端みたいなんですね。
近藤さんが三谷幸喜さんに聞いてみたところ上演許可をいただいて、相島一之さんに声をかけて、渡部朋彦さんに声をかけて。
で、そのタイミングぐらいでぼくにお声がけいただいた形です。
近藤さんとは、前に(アガリスクエンターテイメントの公演を)劇場に観にきていただいたことがあって、たしか2回来て頂いて1回ご挨拶したくらいの仲でした。
で、共通の知り合いから連絡先を聞いたらしく、突然 LINEで連絡がきました。
ーー
そのLINEがきたのはいつ頃ですか?
冨坂
4月20日でした。
アガリスクエンターテイメントの稽古直前のタイミングで、Zoomを何分か前に立ち上げるじゃないですか?
あの作業をしている時にLINEがきて、「あぁ〜」っとなったまま、衝撃を受けたまま
「後ほどご連絡します!」って返事をして、あわあわしたまま稽古をした記憶がありますね。
ーー
近藤さんは、冨坂さんが三谷作品の影響を受けた方だとご存知だったんですか?
冨坂
だったんだと思います。
ま、観たら分かるっていうのと、共通の知り合いの、よく観にきてくださる方が伝えてくれたのかもしれないですね。
あと相島さんも何回か来ていただいたことがあって
『12人の優しい日本人』と一番似ているアガリスク作品で『ナイゲン』というのがあって
その時に相島さんに来ていただいて、少しお話しました。
(三谷さん主宰の劇団)東京サンシャインボーイズの中では近藤さんと相島さんが主になって
あとは妻鹿さんとで運営まわりのことをやっていたんですけれども
相島さんと近藤さんの共通の知人で作品のことも分かって、ネットのこととか分かりそうな若い人ってことでお声がけいただいたんだと思います。
ーー
お話があった時に受けるかどうかで迷ったりとかしませんでした?
冨坂
こんな機会絶対にないんで、まぁこれはお受けしなければと思いつつ
ただものすごい緊張と言うか「大丈夫か?」っていうのは思いました。
ーー
そうそうたるメンバーですよね。
冨坂
どう考えても出演者の皆さんの方が『12人の優しい日本人』について詳しいわけで。
演出と言っても「今さら何を言えるんだろう?」とは思いました。
ーー
脚本を今回用にアレンジはされましたか?
冨坂
Zoomだと誰に話しているかを分からせることがむずかしいので
最初に「◯号さんどうですか?」みたいに補足をしてみました。
元になっているのが1992年に渋谷パルコスペースパート3で公演した三演(再再演)をモデルにしているんですけど
それよりもかなり長くてテンポが悪くなってしまっていたんですね。
稽古をしていく中で、これは次の人のリアクションを入れることによって、省けるんじゃないかという話になって、
最低限必要なところだけ足して結果的に92年の台本に戻ってきたという形ですかね。
ーー
期間も短かったと思うんですけど、稽古は大変でしたか?
冨坂
まずZoomに慣れるための2時間ぐらいの短い稽古が2〜3回あって
あと長めの稽古が2回あって本番でした。
ーー
近藤さんが冒頭に「Zoomにみんな入れた時に拍手した」と仰られてましたね。
冨坂
初回は全員がZoomに入るまで、1時間くらいかかりました(笑)。
演出面ではZoomでお芝居をする上で、どこに気を使うかという点は少し苦戦しましたね。
Zoomのフレームの中でどうすればお客さんにとって観やすいかという点での演出を
ぼくがしていくという感じでした。
楽しそうに振り返る冨坂さん
ーー
後半に比べると前半が延びてたのかな?という印象でした。
冨坂
前後半に分けているのが、ちょうど半分ではなくてですね、
東京サンシャインボーイズで稽古していた時に便宜上、1、2、3、4って4分割してやってたみたいなんですね。
その2と3の間で分けたんですけど、それが上演時間の半分よりもちょっと後ろにあったので、80分と55分に分かれました。
ーー
冨坂さんにとって三谷幸喜さんはどういう存在ですか?
冨坂
なんて言うんでしょう、、、ぼくはファンというよりもなんて言うんでしょう、、、
ひな鳥の刷り込みってあるじゃないですか?(笑)
あれに近いものだと思っていて、ぼくがもともと演劇全般が好きでここに辿り着いたわけではないんですよ。
三谷さん脚本のドラマがテレビで流れ始める時期が、ぼくがテレビをちゃんと見始める小学校低学年ぐらいで、最初はテレビドラマの面白いシリーズがあるなと思って何となく気になっていて。
小学校の学芸会で古畑任三郎のパロディみたいなものを書いたりとかはしていたんですけど。
ぼくが初めて三谷さんの長編を1本のお芝居として意識したのが、まさに『12人の優しい日本人』だったんです。
兄がいるんですけれども、兄が文化祭の出し物で劇をやるときに(上演許可をいただけないのでできないんですけど)なぜか『12人の優しい日本人』の映画版を借りてきてたんですね。
それを一緒に観ていて、そこで初めて「三谷幸喜」という名前をちゃんと意識して。
ひとりの作家として好きになるきっかけが、この映画をVHSで観たときだったんです。
そこから舞台作品とかを観て、こういうものを自分でも作ってみたいなって思って演劇を始めたんです。
意図的にパロディとしてやっているのもあるんですけど、
脳内に搭載されている辞書ソフトがそのまま影響を受けているので似ちゃうっていう感じです。
ーー
今回、三谷さんとお話はされましたか?
冨坂
三谷さんが「当日も協力したい」と仰ってることを聞いていて、何をお願いするのかを近藤さんともお話して。
前半の最初に作品解説をしていただくのと、後半はあえてピザ屋の出演シーンまで出てこない。という段取りをお話させていただいたという感じですね。
それが稽古の時だったので、他の方とのやりとりを三谷さんが聞いてらっしゃってて
ぼくがどういうことを考えているのか、とか、こいつ何者なんだ?というのをご覧になってたかもしれないです。
ーー
憧れの人が自分の演出を聞いてるって、やり辛くないですか?
冨坂
ま、緊張はしましたけど、、
明らかに若輩者で誰だこいつ?っていうのが演出をしているんですけど、出演者のみなさんが、ちゃんと立ててくださったというか、いろいろぼくの意見を汲んでくださったので、やり辛さは感じずにできました。
ーー
三谷さんがドミソピザ屋さんをノリノリで演じてられてた印象で
冨坂
はい
ーー
ひとりだけ明らかに朗読してないというか
冨坂
(笑)
ーー
小道具まで持って、、他の出演者のみなさんも笑ってた感じがしたんですけど
三谷さんの出演が内緒だったって訳ではないんですか?
冨坂
みなさん知ってはいたんですけど、ただ小道具を作ってくるとか衣装を用意してるっていう
登場の仕方は知らなかったので(笑)来るのは知ってたんですけれども、、、
ピザが大きすぎて顔がフレームインしてなかったじゃないですか?(笑)
どちらかと言うとあれに戸惑ってたっていう感じです。(爆笑)
ーー
最後に三谷さんが画面上に残って音符の入った帽子が見えた時に「あ、ドミソになってる!」って爆笑しました。あれは三谷さんが勝手に、、、?
冨坂
そうですね。三谷さんの所にいるスタッフの方から「ノリノリで準備中です」って伺って、
ノリノリで準備中とは一体?って思ってました。
ーー
冨坂さんもご存知ではなかったんですね。
冨坂
知らなかったです。
何かを着てくるのかな?とは思いましたけど、まさか作ってるとは思いませんでした。
ーー
悔しい思いをしてた出演者の方もいらっしゃったかもしれませんね(笑)
冨坂
(笑)
ーー
あと、最後のZoom式のカーテンコールの演出が素晴らしくて鳥肌がたちました。
冨坂
ありがとうございます。カーテンコールっぽく見えるかどうか不安だったので、いくつかプランとして迷って。
もう1案、最初に近藤さんが出てきて「ありがとうございました」と言って、ひとりずつ呼びこむっていうのも考えはしたんですけれども、
このお芝居の終わり方だったら、「はい、ここからお芝居じゃない体でしゃべります」って一気に切っちゃうよりも
あの曲とあの余韻の中でひとりずつ入ってくる方が良いかなぁと思って。
で、やってみたらカーテンコールっぽく見えたので、あの形にしました。
あとZoomのひとりずつ退室をして消えていくっていうところに情緒というか叙情性があるなと思っていて、
『12人の優しい日本人』のひとりずつハケていくところとの親和性があるような気がしたっていうのがあります。
最初に演出のお話をいただいてやるって決めたときに、Zoomでやる意義を持たせられる部分って何かな?って考えると、『12人の優しい日本人』のひとりずついなくなっていくっていうところが
Zoomでみんな正面を向いたまま、ひとりずつ画面が消えてどんどん数が減っていくところが相性が良いなと思いました。
ーー
人が出たり入ったりする演出はどのようにされてるんですか?
冨坂
あれはですね、ぼくらの前にオンラインでお芝居をやったカムヰヤッセンの北川さんの
オンライン会議劇「『未開の議場』-オンライン版-」。
あの作り方をnoteに公開していて、ビデオをオフにするとYouTubeLive上からは画面ごといなくなる、枠ごと消えるっていうことが書いていて知りました。
ーー
そうなんですね。
冨坂
劇団で(『12人の優しい日本人を読む会』の)1週間くらい前にも30分ぐらいの新作を作って同じくZoomでやったんですけども、そのときに試して「なるほど!これができるんだ!」って思ってたっていうのがありますね。
ーー
なるほど。じゃあ冨坂さんもあのZoomに参加されていてビデオオフにしてるから見えてないってことなんですね。
冨坂
そうです。
ーー
この使い方はZoomも考えてなかったでしょうね。
冨坂
これは本当に『未開の議場』とか、ぼくらより前にやっていたオンラインの演劇のノウハウをオープンにしてくれていたところとか、
アガリスクエンターテイメントで1回やったとか、そういったことでどうにか今回活かせた形だと思いますね。
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明日は「最高に楽しい公演延期とは?」をお送りします。
この記事の最後に出てきたアガリスクエンターテイメントの生配信のお話も。
おたのしみに。