劇作家・演出家の佐野木雄太さんから応援コメントをいただきました!
vol. 8 2020-05-25 0
シアター・ミラクルを過去にご利用いただいたり、お世話になった方から応援コメントをいただく企画第7弾!
劇作家・演出家の佐野木雄太さんから応援コメントをいただきました!
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(filamentzプロデュース『Magnum Opus』(作演出・佐野木雄太)より)
(filamentzプロデュース『息を止めるピノキオ』(作演出・佐野木雄太)より)
演劇の歴史は4000年。乗り越えた危機は数知れず。
先日ニュースでヨーロッパの劇場主がインタビューに答えていました。
劇場を閉鎖するのは100年前のスペイン風邪以来――
演劇の街、下北沢の劇場街を支える本多グループは81年の開場以来初の全館閉鎖。
東京の劇場はこの4月5月、おそらくほぼ全て閉鎖か、もしくは閉鎖同然の状態にあったと思います。
シアター・ミラクルも同様、この2か月は閉鎖状態となっていたと聞いています。
日本の演劇の隆盛と歴史を語るのはあまりにも冗長となりますので割愛しますが、昨今人気の2.5次元舞台も、映画やテレビで活躍するキャストたちが出演する話題の舞台も、その発信に今でも大きく寄与しているのが、いわゆる日本の「小劇場」と呼ばれるカテゴリーの演劇です。
(個人的にはもうこのカテゴライズは発展解消した方がいいと思いますが……)
たとえあなたのオシのキャストが小劇場には1度たりとも出演したことが無くても、その舞台を支えるスタッフや共演者には小劇場出身の人が必ずいます。
よしんば作品のカンパニーメンバーにただの1人も小劇場にかすった人がいなくても、劇場の観劇文化、運営のノウハウ、劇場づくりのイロハは小劇場の歴史と先人たちが培ってきた経験が基盤となっています。
小劇場は日本の演劇界において今も昔も、無くてはならない存在です。
その中にあって、『新宿シアター・ミラクル』という劇場はなかなか個性的な小劇場の1つです。
劇場使用料だけを見れば都内で中の下、学生を卒業しようかという若手が「挑戦」として選ぶ小屋、中堅がどっしりと腰を据えて自分たちの思い描く作品を惜しみなく披露する劇場、というところでしょう。
特に若手にとってはぜひ劇場候補に加えるべき小屋です。劇場スタッフは皆、あなた方と同じように何も知らないところからスタートした演劇メイカーたちです。だからあなた方の挑戦への気概と不安が痛いほど、痛切なほどによくわかる。わからないことは何でも親身になって寄り添いますし、口出ししてほしくない部分は暖かい目で見守ります。問題が発生すれば解決への糸口を共に探してくれるでしょう。
歴史も育んできました。開館からそろそろ14年くらいですか、数えきれない物語がここで生まれ、多くの人に感動を届けてきました。
それと同じだけの想いや人々のドラマが、この劇場には宿っています。
ミラクルの最も個性的と言える点が1つあります。
劇場のスタッフはほぼ全員が劇作家ないし演出家であり、1年のうち数十日、彼らの作品を上演する劇場主催公演があることです。
日本の演劇メイカーたちは、実はあまり長く劇場には滞在しません。
稽古場で1か月程度の稽古を行い、本番のある数日だけ、すべての準備を整えて劇場に乗り込んできます。
その一回性の美学は確かにありますが、満を持して劇場に入っても時には失敗や計算ミス、想定外の事態に見舞われることがあります。それを工夫やアイデアで乗り越え上演にこぎつけるのも日本の演劇の実に日本らしい美点と個人的には思います。
しかし、広く世界の演劇シーンを見ればこのスタンスはあまりよろしくない。特に本番を観るだけのお客様にしてみれば、上演までの苦肉の創意工夫を想ってカンパニーメンバーを愛おしく感じることはあれ、本来上演されるはずだった、作家演出家キャストスタッフ全員が思い描いていた形とは別モノとなった作品を観るのは本意ではないでしょう。「この創意工夫を垣間見ることこそが観劇の醍醐味だ!」という観劇上級者もおりますが、長い目で日本の演劇人たちの成長と活躍を慮れば、このスタンスはゆくゆくは改善すべき点と思います。
その点、ミラクルのスタッフはみな若手の演劇メイカーたちです。
自分たちの庭で劇場の利点弱点もすべて知る若い演劇メイカーが、劇場の後ろ盾のもと大いに挑戦し、意欲的な作品を世に放つ機会をこのシアター・ミラクルは持っています。
私自身、数年前までミラクルの劇場スタッフとして劇場運営に携わってきました。
劇場主催公演にて作品を上演したこともあります。はっきり言って、やりたい放題です。(もちろんルールの範囲内で)
ここで得た知見やノウハウが今の私に1mlの零れも無く生きています。
個人的なことを言えば、本当にミラクルのおかげで今、この世界で生きています。
私は卒業しましたが、これからも若手の演劇メイカーたちがここを訪れ、滞在し、大いに実験し、大いに挑戦し、なにかを得て、また次世代に受け継いでいく劇場であってほしいと願います。
人類の演劇の歴史は一説には4000年、その間数えきれないほどの苦難があったことでしょう。
冒頭のスペイン風邪はもとより、それ以前にも演劇というジャンルそのものが消えてしまうような大事件が数多くあったはずです。
それでも演劇は今、生きています。
苦難を乗り越えてこれたのは勇気をもって立ち向かった演劇関係者と、それを支えてくれた人々です。
つくり手だけではなく、受け手の人々の支えがあって苦難を乗り越えてこれたのです。
これまでと同じような世界に戻ることはないかもしれません。
先人たちの勇気に習い、また新しい挑戦を演劇関係者は始めます。
どうかこの時、今同じ時代を生きる皆様に、手を差し伸べてもらえれば幸いです。
これまでの演劇と、これからの演劇を想って。
佐野木雄太
◆プロフィール
佐野木雄太
演劇作家・プロデューサー・演劇インストラクター
Stage Project ILLUMINUSクリエイティブディレクター
filamentzブランドディレクター
桜美林大学総合文化学群演劇専修卒。
大学時代より本格的に劇作・演出をはじめ、劇団銀石(長期活動故障中)を主宰。
現在はILLUMINUSにて公演製作の一端を担う。
またfilamentzブランドを立ち上げ、実力派の作家演出家とともに若手俳優の起用を中心としたプロデュース作品を上演。
インストラクターとして俳優育成にも力を注ぐ。
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【ミラクル支配人・池田より】
佐野木さんは、コメント中にもあるように、元ミラクルのスタッフであり、長らくミラクルを助けてくれました。
彼のコメントにもあるように、佐野木さんと一緒にやった劇場主催公演は、とても無茶が多かったけど、そういう実験的なことができるのもミラクルのいいところなのかもしれません。
そう言ってもらえる劇場を無くさないために、まだまだ頑張ろうと思います。
熱いコメントありがとうございます!