「『演出は、お料理と一緒です』と言った大学教授の、お話」
vol. 31 2020-04-09 0
こんにちは。劇場職員の烏丸です。
演劇にまつわるコラムを書くにあたって、何かいいネタが無いものかと人生を振り返っていたときにふと思い出した言葉がありました。
上京してきて日本大学の芸術学部に入学し、一人の教授が最初の頃の授業で言った言葉。
「演出は、お料理と一緒です」
別に、この言葉が胸に響いて、今の私に影響を及ぼしている、とかではないんですけど。
詳しくはこうです。
「演出は、お料理と一緒です。食材、演劇においては脚本や役者が食材ですね。それらは演出家の調理法や味付けによってフレンチにも中華にもなるんです。ね?お料理みたいでしょう。だからね、お料理のセンスが無い人は演出家になれないんですよ。ははは」
これを聞いた当時18歳の私は「は???」とキレていました。
というのも、田舎から出て来た18歳、バッキバキに気合を入れて「東京で演劇をやるぞ!!!最強になってやる!!!」と思っていた私の料理の腕は壊滅的でした。
初めての一人暮らし、一通り調理器具なども買いましたが、私はマジで料理が出来なかったのです。炊飯器は持っていましたがお米の炊き方がわからず、母に実家で炊いて冷凍した白米を週一で送ってもらうくらい駄目でした。
というか、今思えばめっちゃめちゃ甘やかされてるな、私。お母さん、ありがとう……
そんなわけで、上京早々「料理が出来ないお前は演出家になれない」と言われた(ような気になった)私は一人静かにブチ切れていたわけなのです。
しかし私は素直な18歳だったので、「やってやらあ!!!」という気持ちでその日の帰り道スーパーマーケットへ寄り、豚肉とカット野菜、焼き肉のタレを買って鼻息荒く帰宅したのでした。
結果、理由は不明ですが壊滅的に不味い野菜炒めが完成し、完全に不貞腐れた私はそこから一年以上料理をすることはありませんでした。
あれから9年、演出も料理も同じくらい出来るようになりました。どっちも上手いわけではありませんが、まあまあ出来ます。先ほど理由は不明と書いたのですが、今なら何故あの野菜炒めが不味かったのかもわかります。私はシティガール気取りで炒め油にオリーブオイルを使い、まだフライパンが冷たいうちに焼き肉のタレも入れてしまい、使用した肉は固くなりやすくて料理初心者には扱いにくい豚小間で、火が怖いという理由でカット野菜を弱火でじっくりと炒めたのです。その結果、お肉は固く、風味は悪く、ベシャベシャの野菜炒め(煮?)が完成したんですよね。まあ当時の演出も似たようなものです。
もしかしたら教授の言っていたことってホントなのかも。
でもその理論だと世のシェフは皆優秀な演出家ということになってしまうし、料理の出来ない優秀な演出家は存在しないことになってしまうので、やっぱり違いますよね。
あれは教授の、ただの授業の掴みで、ジョークだったのに、その夜一生懸命に不味い野菜炒めを作った18歳の私はまあまあ可愛いんじゃないでしょうか。
もうちょっと料理の話でもして終わろうかと思います。
私はこの花まる学習会王子小劇場の職員になって料理をする機会がグッと増えました。劇場職員になって料理の機会が増えるってどういうこと?とは思いますが、脚本合宿やサマースクールなど、劇場主催事業ではちょくちょく職員が手料理を振舞うことがあるのです(安上りなので……)。
こういった際、最近は主に私が料理を担当しています。この前も、劇場で牛乳消費レシピの料理動画を撮るという企画が職員から提案され、担当として私に白羽の矢が立ちました。
動画、見て下さいましたか?慣れない撮影で、死ぬほど緊張しました。
こんな感じのものを作りました~。
私、料理はあんまり好きではないんです。嫌いって程でもないけど、めんどくさいし。だから自分しか食べないのに料理をするということはほとんどありません。一人で食べるご飯とか、ひどいものです。冷蔵庫の残り物をただ塩で炒って、フライパンから直接爪楊枝で食べたりします。侘しいものですね……
私は、食べてくれる人がいて初めて楽しく料理が出来ます。それって演劇と一緒だなあと思うんです。美味しいとか、面白かったとか、そう言って笑う顔が見たいからお料理も創作も出来るのです。料理と演劇はイコールではないけれど、私の中で通じるものはあるのかも、とこのコラムを書いていて気が付きました。人が元気に生きていくためには、美味しいごはんと心躍る娯楽が必要です。また劇場で楽しいお芝居を安心して観られるその日まで、お家で美味しいごはんを食べて力をつけておいて下さいね!私たちも頑張ります!クラウドファンディングへのご協力もまだまだお待ちしておりますので気に掛けていただけますと幸いです。それでは!烏丸棗でした。