「ホットケーキブースができるまでの物語」
vol. 4 2025-08-21 0
パブリコに携わるひとびとの言葉もリレー形式で紹介していく”アップデート”。前回に引き続き、パブリコの設計を手掛ける「tantable」の丹治健太さんによるコラムの後編です。
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「ホットケーキブースができるまでの物語」
前回お話ししたpublicoの誕生から2年。
ここに、またひとつ新しい物語が加わりました。
きっかけは、近所で長く愛された「ホットケーキパーラー フルフル 梅ヶ丘店」の一時閉店でした。
銅板プレートとの出会い
フルフルが建て替えのため一時閉店することになり、
そこで使われていた銅板プレートがpublicoにやってきました。
60センチ四方、厚み30センチ、重さは40キロ近くもある大物。
既存のキッチンには収まりきらず、どうしても前に出っぱってしまいます。
アールの壁という答え
ただでさえスペースに余裕がないpublicoのキッチン。
そこで考えたのが、壁をアール(曲面)にして、出っぱりの圧迫感を消すという方法でした。
さらに、ブースの壁仕上げにも銅板を貼り、
親しみやすく、味わいがあり、生命感さえ感じる銅板の丸い壁にしました。
曲面の壁下地や引き出しは、大工さんにお願いしました。
近所に住む大工さんは、このアールに苦労しながらも、遅くまで頑張ってくれました。
銅板貼りはDIYで
銅板は0.4mm厚の屋根用。
素人でもずれや歪みが目立たないよう、ジョイント部分に目地棒を入れる工夫をしました。
そのおかげで、みんなで貼っても仕上がりは上々。
完成してみると、不思議なくらい空間になじんでいて、
「え?これ新しくできたの?」と気づかない人もいるほど。
屋台のようなカウンター、そして“育つ銅板”
ほんの少しだけ飛び出たブースのカウンターは、
なんだか屋台のカウンターのよう。
キッチンの中と外が自然につながり、
立ち飲みバーのような雰囲気も生まれました。
そしてこの銅板は、子どもたちの手垢や触れた跡が少しずつ残っていきます。
それが時間とともに色や艶を変え、ここで過ごした時間の記憶そのものが表面に刻まれていくのです。
もうひとつの贈り物──タブの木のカウンター
フルフルから譲り受けたのは、銅板だけではありません。
もうひとつ、この場所の象徴ともいえるものがありました。
それは、厚み7センチもあるタブの木のカウンター。
長さは2メートルもあり、今回のキッチン改修では使えないかと諦めかけていました。
ちょうどその頃、「テーブルを新しくしたい」という話が持ち上がり、
このカウンターをいくつかに切り出せば、テーブルになると気づきました。
そこで、キッチンブースのアールの壁に合わせ、
有機的な曲線を描くテーブルへと加工。
合わせると大きなテーブルになる“つながる形”にしました。
表面に空いた穴は、かつてカウンターを支えていたボルトの跡。
それもまた、この木が歩んできた歴史を伝える記憶として残しました。
新しいステージへ
こうしてpublicoに生まれた、銅板のホットケーキブースとタブの木のテーブル。
どちらも“引き継がれた素材”が、再び人を集め、会話を生む場になりました。
おいしい香りが人を呼び、手の跡や小さな傷が思い出になっていく。
ここから、publicoの新しい物語が始まります。