本日最終日!
vol. 23 2023-12-13 0
僕はなぜグリーンランドに執着したのかをふり返る。
遠征を始めた当初は極地への関心と、先住民文化へのあこがれがあった。
けれど、すぐに気がついたことがあった。
伝統精神に基づいたイヌイットの文化と暮らしが間もなく終わる。
気候変動の影響ももちろんあったが、それとは別に資本とシステムによって民族としてのアイデンティティーは変容していた。
良いとか悪いとかの話ではなく、
極北の辺境地まで行って目にしたそれらの現実は、僕らが生んだ需要がどのように世界に影響していくかを眺めているようにも感じた。
写真家として抱いていた憧れや関心は、使命感にも近い感情に変わっていった。
カユアングアにはあえて聞かなかったが、彼が発展していく村から、故郷であった消滅集落に戻った理由は僕にはわかる気がした。
彼は首都ヌークの街でさらに近代的な暮らしをしていたこともある。
祖父はシャーマンで、亡くなったお父さんも一人でカナダまで犬ぞりで遠征する偉大な猟師だった。
カユアングアは今でも父を尊敬していた。
貨幣経済が到来し、彼が青年期のある時期から集落に酒や嗜好品が出回るようになり、娯楽の少ない集落では泥酔した人々による問題が多発した。
もともとアルコール耐性の弱いイヌイット。彼の父も例外ではなく、家庭は崩れた。毎日泣いていたという妹はやがて自ら命をたってしまった。
カユアングアは酒もタバコもやらない。
「酔い」が人のエゴを増幅させることを僕に静かに伝えてくれた。
このような場で私的なことを公表することに異論もあるだろう。
ただ、この話は世界で起きている問題や、オルタナティブな動きとの共通点があるように思える。
僕は極北の消滅集落で懸命に生きるこの友人の姿に感化されたのだ。
現地の言葉で「犬の遠吠え」を意味する「MIAGGOORTOQ」は僕が友人として導かれた個人的な狩猟体験から自問を繰り返し、自分の手で命をいただく狩猟と近代化とを考察した作品。
僕はそこに見た血が美しいと思った。
クラウドファンディングは本日最終日となります。
目標額には届きませんが、おかげさまで現在70%達成となりました。
応援いただいた皆様へ心より感謝申し上げます。