国際映画祭報告(アーカイブ)
vol. 12 2014-09-27 0
2006年5月4〜9日 @オーバーハウゼン(ドイツ)報告アーカイブ
(OpenArt記事より)
世界で最も歴史の古い映画祭、ドイツ・オーバーハウゼン国際短編映画祭。世界各地から作品・監督・ジャーナリストらが、この5日間一堂に介し、数千人の来場者が観客席を埋め尽くす大盛況ぶり。特に美術館のキュレーターら、アート的見地のプロフェッショナルが注目する映画祭で、上映作品も例年極めて芸術性の高い作品ばかり。
さてこの映画祭、今年は「日本」で湧きました。というのも、本年はopenArt作家作品、和田淳作品『鼻の日』、白川幸司作品『SPICA』(現在作品 openArt未公開)の2作品が、映画祭の華コンペティション部門に選出され上映。こと映画祭最終日のトリに上映された白川作品『SPICA』は、作家やクルーらも現地入りし、前評判も高く大注目。日本人がこれほど来場し注目されたのも初めて、という話がでるほど。(左写真/白川幸司監督と、主演女優・鈴木薫)さて、どんな様子だったかというと...
●オーバーハウゼン映画祭
「オーバーハウゼン国際短編映画祭は、私が映画監督になるための、最初にして最も重要な一歩でした」(ロマン・ポランスキー)
「オーバーハウゼンでの経験が、映画監督になる決意するのに力を貸しました」(ヴィム・ヴェンダース)
日本のGWの後半は、ドイツでも新緑が芽吹き心も華やぐ季節。地元のサッカーチームの試合が続くのを横目で見ながら、ドイツ西北デュッセルドルフやケルンに近い小さな街に、世界から短編映画が集まります。今年で52回目。短編映画祭としては世界で最も歴史のある映画祭です。10の国際コンペティションを始め、ドイツ国内コンペティション、若手作家・子供向け作品コンペティション、MusicMovie、スペシャルプログラム等が、連日朝8時半から夜中まで上映され、更には朝までDJを入れてのパーティが続くという毎日。映画最終版には頭も体もへとへとになるのは、いづこも同じ。
●コンペティション作品
欧州各国はもとより、アフリカ、中近東、アジア、北南米と、各国から作品が。ドラマは少なく、アーティスティックなエクスペリメンタル作品や、世界の横顔を切り取るドキュメンタリー作品が多く、世界の「今」をかいま見る作品群なのが特徴。
コンペティション作家の多くが映画祭に来場し、約8割近い出席率。政情不安定だったり、経済的にも不安定な国の作品が多く選ばれていることを鑑みると、この出席率は驚異的。(写真
右、会場となったオーバーハウゼンのシネコン。一日中人が集まる)
●白川幸司「SPICA」
コンペティション最終日に上映される本作は、作品を見た選考委員の評もあって、上映前から前評判も上々。映画祭の中盤に、白川監督を始め、出演した役者さんやカメラマン、照明らスタッフも映画祭現地入りして大注目。一般的に、日本の監督さんらが映画祭に来ると、慣れない雰囲気に引きこもりがちになる人も多いのが現実。しかし、この白川組は違います。世界各地から来た他の監督や地元の人たちとまで、誰彼となく話し、交流し、酒を飲み、映画祭の中でも大人気!! ものすごい国際交流になりました。
最終日の上映のあとは、オフィシャルのディスカッションにも参加。国によっての表現や受け止め方の違いなどを背景にした質問が飛び、ひとつひとつ白川監督もそれに答えてゆきます。欧州風のダイレクトなディスカッションに躊躇しながらも、詩的な世界観が周囲にも伝わった模様。
作品上映後のロビーやパーティでは、白川監督らを捕まえて話そうとする人が続出。選考委員の中には「ぜひ白川作品を全部みたい」とリクエストする方も。また主演女優の鈴木さんが着物のあでやかな姿を披露して、そこかしこで輪が出来て、写真会へと発展?ともあれ、一日中白川組の周囲には、人々の笑い声が耐えない盛り上がりを見せておりました。(写真右、艶やかなSPICA主演女優鈴木薫さんを囲んで、イタリア人監督Gianlucaらと撮影)
●受賞作品
各賞ドキュメンタリー作品が本年は受賞するといった形になり(これは今年のみの特徴。例えば2年前には、openArt DVDにも収録されている心に染み入るドラマ「WASP」が大賞を受賞し「発掘」され、結果オスカー受賞にまで至っている)、「SPICA」は残念ながら賞を逃してしまいました。前評判が高かったので、残念。
大賞を受賞したのは、ベルギー作品・Burkina Faso監督『N12°13.062‘/W001°32.619‘ Extended』。タイトルはGPSコードからきたもので、この数値によって示される名も知らぬアフリカの砂漠の、言葉なき壮絶な自然と人を強く映し出した、ドキュメンタリーの枠を超えたアート作品です。人智を超えた、自然の驚異と美しさと共に、人間の生命力の強さ美しさを、心深く響かせる素晴らしい作品です。さすが大賞受賞作。いつか日本でもご紹介したい作品です。
●映画祭を終えて
「もうみんなと別れて帰るなんて、寂しい」という声があちこちから聞こえる中、映画祭は無事終了。
『SPICA』の受賞は逃したものの、世界中の作品を見、ディスカッションをし、自分たちの作品に自信を深め、また大きな刺激を受けたと語る、白川組のみなさん。確かに賞をとれたら晴れがましいけれど、会場に足を運び、積極的に疲れた体をおして多くの人々と語り合った経験は、必ず次の作品に生かされるはず。
まもなくこの作品、openArtよりの選出でカンヌ映画祭にて上映されます。監督らはカンヌへは行けませんが、きっとまた新たな機会につながるようopenArtも努力します!
詳細は、openArtのブログでまたご紹介しますので、これからも展開をお楽しみに!!! (写真右、白川組と、フィリピンの監督Khavn。なんと今年のクレルモン国際短編映画祭で審査委員もつとめた)