「眠る右手を」というモンスター映画
vol. 8 2014-09-22 0
2001年に制作した「眠る右手を」ご紹介。
『眠る右手を』(02年 / DV208min / 愛知芸術文化センター制作 / 香港国際映画祭・バンクーバー国際映画祭・IFF・ドイツ日本コネクション)
主演:草野康太 山崎君子 二見林太朗 平井賢治 沖本達也 齊藤剛 大鷹明良 岸燐 藻羅
撮影監督 井川広太郎 録音 木村恵子 照明 村野とおる 音楽 小松清人 絵画製作 大山慶 スチール 森榮喜 製作 江尻幸子 監督・脚本・編集 白川幸司
今考えるとスタッフの才能がハンパ無い。「恋人たち」監督の井川さん、W-inds,テゴマス、柴崎コウの作曲やWaTプロデュースの小松さん、カンヌ上映のアニメ作家の大山さん、今年の木村伊兵衛写真賞の森さん。イメフォ組の木村さん江尻さん、役者も3000人からのワークショップ形式オーディションで、「こぼれる月」坂牧監督と共に審査した。
当時はDVで撮るしか無く、どう物語の質感と整合性をつけるのか苦労した。多くの映画祭で上映。上映中は前編後編の間にインターミッション休憩も設けた。
(物語)画家のシンが突然不治の病に冒され右手が動かなくなり、この長編物語は幕を切って落とす。妻のケイはカウンセラーを仕事に持つが、感情というものを失っている。一人息子のコウは人の心が読める為、自ら心を閉ざし「言葉」を使わなくなっていた。そんな家族であったが、シンは病の為、次々と体の一部を失っていき、その姿は家族の関係性をも変化させていく。激情が蘇るケイ。自らの体に画鋲を刺していくコウ。破綻していく家族の元に、オカマの介護人ソラがやって来る。脳天気なソラより再び関係性を変化させられた家族が、その辿るべき道を模索している中で、周囲の人間達の嫉妬や駆け引き、裏切りから次々と悲劇や惨劇が襲いかかる。物語から脱落する人間を見送りながら、画家のシンは家族の絵を描き上げようとしていたが、そんな家族を見下ろす存在にコウだけが気付こうとしていた…。
(監督コメント)私はこの作品で、人間同士の愚かな駆け引きを描きたかった。狙いとしては、前半に傷付け合ってしまう人間達を滑稽に目まぐるしく描き、後半には突如として神のような存在(この作品中でも、ある人物が登場する)が現れ、我々を見下ろす事で、無常な人の世界を明確に打ち出そうとした。これまでの多くの作家が描いてきた「神の不在」的な世界観が私は好きなのだ。大半の観客は「救いの無い話」と簡単に切り捨てるかもしれないが、人間の存在とはそんなものである。この作品の登場人物達も、そんな人間の存在自体の無常感を抱いているのかもしれない。そして彼らは全員、誰かに救ってもらいたいと願い、その誰かを待ち続けている。だからこそ人間は、お互い探り合い、駆け引きをするのだ。作品では、駆け引きに破れた者達には悲劇と惨劇が襲いかかり、物語から消えていく。残された人々に救済が訪れるのかどうかの「瞬間」を迎えて、この作品は幕を下ろす。長い作品だが、観客に一番に感じて頂きたいのはこの「瞬間」である。(白川幸司)
(予告編)
http://youtu.be/10vnrlqKQMM