忘れられない映画『ノーボーイズ,ノークライ』
vol. 13 2021-10-06 0
和田浩章です。クラウドファンディングが始まって3週間、合計350万円以上ものお金を寄付してくださったこと、本当に感謝しております。ありがとうございます。
今日は少し自分語りをさせてください。いつまでも心に残り続けている大切な映画の話です。
僕は幼い頃から中学生までアトピーで入退院を繰り返していました。中学では激しいイジメに遭い、モンスター図鑑と書かれた落書きの中に僕の絵が描かれていました。ですので殆ど学校には行ってません。唯一の救いがレンタルビデオ屋さんで見つけた『ジョゼと虎と魚たち』。2003年公開の、渡辺あやさんが脚本を担当された映画です。中学生の時に出会ったこの作品をきっかけに僕は映画の世界にのめり込んでいきました。
(C)2003「ジョゼと虎と魚たちフィルムパートナーズ」
高校では誰も知らない場所で新たな人生を歩みたいと思い、私立の推薦を蹴って、当時一番偏差値の低い高校に進学しました。そこで友達になったのがKでした。Kには二人の妹と引きこもりの兄がいました。お母さんのパートだけで家計をなんとか凌いでいます。アパートの中は物が溢れかえって滅茶苦茶、6畳の部屋に5人が雑魚寝。思春期のKにはプライベートゾーンと言える場所はありません。Kはアルバイトをして妹たちにクリスマスプレゼントとお年玉をあげるためにあくせく働きました。「自分は貰った事ないからせめて妹にはあげたいんだ」と自虐的に笑うKの顔は切なさを帯びていました。病気で行き場のなかった僕の魂と家族を背負い行き場のなかったKの魂。孤独のシンパシーが生まれ、自然と毎日過ごすようになっていました。夜遅くに誰も来ない駐車場に集まり朝方まで話す事もしばしば…。Kは僕よりもずっと勉強も出来ました。ですが、家庭の事情で高校卒業とともに働きに出る事にしたのです。
一方、僕は大学に進学する事が出来ました。
ここから徐々にKとの距離が出来、やがて疎遠になってしまいました。大学生活を送る僕自身も負い目を感じていました。Kは誰よりも人の痛みがわかる人だった。だからこそ歯がゆかった。
そんな時です。同じく渡辺あやさん脚本の『ノーボーイズ,ノークライ』に出会いました。2009年に公開された作品です。
(C)「The Boatフィルム・コミッティ」
妻夫木聡くん演じる亨(とおる)はKにダブって見えました。亨の家庭は認知症のおばあちゃん、ヤリマンの妹、その妹が抱える3人の子どもが狭いアパートで暮らしています。その3人の子どものうちのひとりは人工呼吸器をつける難病を抱えています。亨は家族のため、闇稼業の仕事をしています。そこで出会ったのが韓国からオンボロボートで麻薬を運んでくるヒョングという男。ヒョングは身寄りがなく自分が麻薬を運んでいる事も知らずに利用されていました。亨とヒョングは成り行きで少女の誘拐に巻き込まれます。少女は「助けてくれたらパパからお金を渡す」と交渉され、亨は難病を抱えた子の手術費を工面したいという想いからそれを引き受けます。「俺はあいつら(家族)のためだったらなんでもやってやるよ!」と言う亨。ヒョングとの奇妙な関係が始まります。共に過ごす亨とヒョングは韓国と日本という国境を越え、やがて友情に繋がっていきます。
終盤、計画通りにいかなくなった亨はヤケクソになってカラオケ大会に出て「アジアの純真」を歌い、怒りや恨み悲しみを歌にぶつけます。そこに乱入して何故か一緒に歌い出すヒョング。怒りに満ちていた亨は何故だか笑ってしまいます。カラオケ大会に出ても何も変わらないし、なんの解決にもなりません。ですが、やるせなさを超えた人との繋がりを感じるシーン。声を上げて泣いてしまった。Kと僕がここにいる。僕はもう映画にノックアウトされました。
(C)「The Boat」フィルム・コミッティ
僕は今でも時々、Kの事を思い出すと「アジアの純真」が聞こえる。
カラオケ大会で歌っているのは亨とヒョングじゃなく、僕とKだ。
Kは今どうしているだろうか。元気にしているだろうか。
携帯を閉じて映画を再生する、あの時過ごした確かな時間が流れてくる。
《泣くなよ王子 もし俺の目が覚めたら笑ってやるよ》