「この地球上に生きるすべてのいきものたちへ」〜纐纈あや監督からのメッセージ
vol. 11 2021-11-13 0
このプロジェクトも残すところあと1週間となりました。
思いもかけないたくさんの応援・ご支援をいただいて、どんなに言葉を重ねても届かない思いでいっぱいです。
その応援・ご支援は、私個人というより、この世界に生きる声を発することができないものへ差し出されたものだと思います。
ほんとうに嬉しいです。ありがとうございます。
「杜人」をつくるにあたって最初の最初に応援してくださった方、そして、この方がいらっしゃらなければ映画は完成しなかった方から、今回メッセージをいただきました。
「祝の島」「ある精肉店のはなし」など、骨太な社会へのメッセージを痛切に放ちながら、同時に個人のかけがえのない暮らしにぴったりと寄り添うあたたかい眼差しを湛えた作品をつくってこられた纐纈あや監督。
私が出逢うよりずっと前に矢野さんに出逢っていらして、私が「撮ってほしい方がいるんですが」と切り出したとき、とても驚かれていた方。
それから先の時間のことは、とてもここでは書き尽くせないのでまた場を改めます。
メッセージに書かれた「全身が共振する」「初めて聞くのに、なぜか懐かしい」感覚は、一度でも講座や現場を体験された方はきっと共感されるでしょう。
映像もそうですが、言葉一つにも真剣に向き合い、惜しみなく力を注がれる監督ならではの、深い洞察に溢れ、先の世界への希望も内包した力強いメッセージ。
身が引き締まる思いです。
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この地球上に生きるすべてのいきものたちに向けたメッセージ
前田せつ子さんとお会いして間もない頃、ふとイメージが湧いた。深い森の中のかわいらしい木のお家。窓辺には干した薬草などが吊り下げられ、部屋には道具や飾り、布、本が所狭しと置かれている。そして台所では、何やらグツグツ煮ている黒髪の女性の後ろ姿。そんな光景が目に浮かんで、ああ、前田さんは魔女なんだ、と思った。私にとって「魔女」とは、自然の力、見えない力の使い手であり、知恵とパワー、美を兼ね備えた女性の象徴だ。(「杜人」の編集作業のお手伝いでご自宅に通うことになり、台所に立っている彼女の姿を見た時、このイメージはやっぱり間違っていなかったと確認した・笑)
前田さんは凛としていて、いつも言葉がクリアで、気持ちいいほど潔い。そんな彼女が、「映画にしてほしい人がいるんです」と言った。聞けば、国立駅前の桜の街路樹の再生プロジェクトで出会った造園家の矢野智徳さんだと言う。私はその名前を聞いて心踊った。
遡ること2010年。当時、私は初めて監督した映画「祝の島」が完成し、なんとか劇場公開に漕ぎ着けたものの、食べていくことは到底できず、仕事を探さなくてはいけなかった。ここでまた会社員には戻るまいと心に決め、ならば、祝島に通いながら自分の中に生まれたひとつの「問い」を探求できるような仕事はないかと思い始めた。それは「自然の本質とは何か」ということだった。
山や海、自然を守りたい、そして自然とつながる暮らしを守りたいと、上関原発計画にずっと抗ってきた祝島の人たち。一方、海を挟んで対峙するのは、人間が作り出したお金と、自然に還ることのない放射性廃棄物を生み出す原発、それが幸せをもたらしてくれると主張する人たち。これからの未来を思い描くとき、自然の本質を理解することに大きな鍵があるのではないか、と思った。
そんな時に、友人を介して出会ったのが矢野智徳さんだった。矢野さんが語る言葉のひとつひとつに全身が共振するようだった。空気や水の流れ、植生や動物たちの話しは、矢野さんの豊富な経験と専門的な技術に裏打ちされたもので、初めて聞く話ばかりなのに、なぜか懐かしく、自分の身体は既に知っている、という不思議な感覚を覚えた。もっと知りたい、学びたい。気がつけば、お会いしたその日に、矢野さんのもとで働かせてください!と頼み込み、二作目の映画制作を開始するまでの8ヶ月間、矢野さんのお仕事を手伝わせていただくことになった。今、自分の軸として大切にしているものは、この時に学んだことが大きく影響している。
矢野さんの仕事ぶりは壮絶だった。まずは移動距離が半端ない。今日は上野原の事務所で道具整理のはずだったのが、午後3時も廻った頃に「これから京都へ行くからレンタカー借りて」となる。北から南まで、縦横無尽に駆け巡る。自然相手の仕事だから、日の出から日没までと思いきや、深夜までめちゃくちゃハードな土木作業が続く。傷みきった自然を目の前にして、矢野さんもスタッフも、一分一秒も無駄にできないと全身全霊の仕事が続く。人間の身勝手なルールや既成概念、建前や美辞麗句の対極にいる矢野さん自身が自然そのもので、その動きについていくのはとてつもなく厳しいものだった。
前田さんが矢野さんを映画にするべきだ、と言った時、心から同意したけれど、私にはまだその力はない、と怯んでしまった。それから2年ほど経った頃だろうか。前田さんから、「矢野さんを撮ろうと思います。映画を作るにはどうしたらいいですか?カメラは何がいいですか?編集は?」と相談を受けた。おおー、前田さんやるのか!「できるだろうか」ではなく「やります」ときっばり言い切る彼女は、そうして矢野さんが作り出す渦流に飛び込んでいったのだった。この情熱のチャレンジに、出来る限りの協力をしたい、と制作の始まりから関わらせていただいてきた。
この2年半、前田さんは自分の持っているものを惜しみなくこの映像制作に注ぎ込み、もうすぐ「杜人」というひとつの作品が誕生する。彼女をここまで突き動かしてきたものは何か。それは、この地球上に生きるすべてのいきものたちに向けたメッセージである。この「杜人」という映画が、硬直化した人間社会に風穴を開け、呼吸を取り戻す流れを生み出していくだろう。このクラウドファンディングで既にそれは始まっている。
纐纈あや(映画監督)