「人もまた自然の一部として美しい!」〜鎌中ひとみ監督からのメッセージ!
vol. 9 2021-11-03 0
9月18日(土)にスタートして、約ひと月半。
11月19日(金)満月、最終日を迎えるまで、いよいよあと半月となりました。
もったいないほどにたくさんの応援、ご支援をいただき、目標額を初日に達成、国際版をつくるネクストゴールも達成し、いま「子ども版」をつくる新たなゴールに向かって挑戦中です。応援してくださった方々、心を寄せてくださったみなさまに、心より感謝申し上げます。
ありがとうございます。
そもそも、ドキュメンタリーというものの力に初めて気づかされたのは、「六ヶ所村ラプソディー」という映画との出逢いでした。2006年秋、フリーランスの編集者として「リンカラン」という雑誌に関わっていた私は、料理家の辰巳芳子さんが「放射能を海に流してはいけません!」と烈火のごとく怒っていらっしゃるのを聞き、六ヶ所村再処理工場のことを調べ始めました。そして、事実を知るにつれ、子どもが小さかったことも加わって、大げさでなく世界がひっくり返るような衝撃を受けました。
いわゆるバブル期も経験し、気楽な人生を送っていた私は、原発は必要悪だと思い込むことで自分の安穏を守ろうとしていたのかもしれません。でも、私が社会を放っておいても、社会は私を放っておいてはくれない。いったい何ができるのだろう。毎日考えていた頃、「六ヶ所村ラプソディー」に出会いました。そして、「ヒバクシャ 世界の終わりに」に。
ドキュメンタリーは社会への痛切な、全身全霊のメッセージ。観た人の心の扉を開け、行動へと背中を押すものであることを、鎌仲作品は教えてくれました。雑誌や書籍では伝えきれない生々しい生の感触を内包した作品であり、メディアなのだということを。
2007年に監督とともに六ヶ所村を取材し(「リンカラン」で記事にしました)、「六ヶ所村ラプソディー」と「ヒバクシャ」を国立で上映して以来、「被爆」という理不尽さ、核という暴力に向き合い続ける鎌仲さんの作品は、全部上映しようと決め、そうしてきました。
想いと行動に1ミリのズレもない鎌仲さんは、いま長野県辰野町で新たなチャレンジをしていらっしゃいます。そして、たぶん必然として、矢野智徳さんと出逢っていらした……。
今回、鎌仲監督から、貴重な応援メッセージをいただきました。かつての里山を再生させる活動の実感から紡がれた言葉の重み、深さ。そしてこの世界を生きるひとりとしての眼差しの優しさ、志の高潔さ。最初の出会いから14年。その生き方を、心から尊敬し、応援します。
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人もまた自然の一部として美しい!
一年半ほど前に長野県に移住しました。これまでやってきた映画の仕事に加えて、農業と古民家民宿の運営を始めました。
これまで私は映画の上映会で全国を巡りながら日本の山河が荒れて続けていることを感じていました。その荒廃は私たち人間の営みがもたらしているとも感じていたのです。人間が自然に対してやっていることへの深い違和感がありました。
移住した辰野町では耕作放棄された土地がどんどん太陽光施設に入れ替わっていて、そんな中の一地域を地元の女性たちが反対運動を展開し、白紙撤回させた後に地主さんたちと話し合って、元の里山に復元させる環境改善活動を始めました。私もこの活動に参加しています。最初は「土中環境」を著された高田宏臣さんがワークショップに来られ、「大地の再生」的な指導を受けました。
私たちは、「自然の理」によってこの土地を回復させたい、自分たち自身が学びながら、試行錯誤しながら、やっていきたいと活動を続けてきました。
そんな中、今年の8月に豪雨水害が発生し、私たちの「蝶の森」も被害を受けました。
川の斜面が崩落し、大木が川に折り重なって倒れ込み、沢からは大量のガラが出て道を塞いだり、舗装道路が陥没したり、地域の様相は一変しました。
どうやって対処したらいいのか、途方にくれた私たちは矢野さんに見立てをお願いすることにしたのです。
何回か、矢野さんのワークショップに参加していた私たちの願いに矢野さんは二つ返事で来て下さいました。
地域全体の空気と水がどのように人工的に堰き止められ、滞っているのか、そしてそれらをどうやって改善していくのか、矢野さんの見立てと示唆は目からウロコの連続でした。矢野さんがどのように自然を観察し、自然そのものの化身のような眼差しで起きていることを見ているのかが伝わってきました。
辰野町のこの地域は天竜川上流域であり、諏訪湖を含めたもっと大きな地勢的な観点からもこの地域を改善することは意味が大きいとも言われました。
「やりすぎるな、しかし、やり切りなさい」と矢野さんは言います。
風の草刈りにしても、私たちの理解が浅かったこと、ミクロとマクロの視点を同時に持って、微細なことまで感じ切ること。矢野さんの教えは五感をフルに動かし、感じて動くこと。そのための人間の等身大の技術。風の草刈りをし、目通し、風通しをした後に感じるなんとも言えない清々しい気持ちよさ。それは目に見えない空気や水の流れが通ったから。でも本来、人間はそのような見えないものを感じる感覚を備え持っている。
自然の大きな摂理を無視し、力ずくで国土を人間の都合だけで開発してきたやり方は、今行き詰まり、大きな転換期にきていると思います。
もちろん、長い時間をかけていかねばならないだろうけれど、矢野さんが提唱し実践する「大地の再生」には大きな希望を感じます。
監督の前田さんは私の映画をずっと応援し、地域での上映会を主催してくださいました。前田さんが矢野さんに出会って、こんな素晴らしい映画を作られたこと、本当に嬉しいです。応援せずにはいられません。
人間はただ自然を破壊する存在ではない、人間もまた自然の一部として美しいのだ、と「大地の再生」の考え方と実践が広がることで、少しでもこの国からそうなっていけたら、と願います。
映像作家 百姓 古民家なないろ
鎌仲ひとみ