「絶望」から「希望」への道標〜温野まきさんからのメッセージ
vol. 8 2021-10-24 0
温野まきさんに初めてお会いしたのは、鎌倉の辰巳芳子さんのお宅でした。季刊書籍「自然栽培」の編集長をされていたとき、辰巳さんが80歳で始めた運動、「大豆100粒運動」の取材にいらしたのです。そのとき、私はその運動の世話人のひとりとしてご挨拶をしただけでしたが、その次にお会いしたのが2019年夏。「あぶくまの里山を守る会」設立10周年記念の講演会のときでした。
「成功するまで失敗し続けた男たちの奇跡!」(タイトルが秀逸!)と題し、木村秋則さん、中洞正さん(山地酪農)が講演をされた後、矢野智徳さんを交えて三人のトーク・セッションが行われました。その際、進行役を務められたのが温野さんだったのです(その講演会は撮影させていただき、映画にもごく一部ですが入っています!)。
今回、温野さんが応援メッセージを寄せてくださいました。温野さんの小さな頃からの想いに触れ、胸を熱くしています。どうぞ、お読みください。
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「絶望」から「希望」への道標
私は子どもの頃、大切にしていた里山の秘密の場所が、ある日ブルドーザーによって造成されてしまうという経験をして以来、“人は自然を破壊する生きもの”と思うようになりました。大人になっても、人の経済活動が続くかぎり自然は破壊され、自業自得で人類は絶滅するという思いが消えることはありませんでした。
ところが奇しくも2011年、東日本大震災の年に仕事を通じて、『奇跡のリンゴ』で知られる青森県弘前市のりんご農家、木村秋則さんに出会います。木村さんが提唱する「自然栽培」を知ったことで、“自然と人は共生できるかもしれない”と思うようになったのです。現代の食の生産現場は環境破壊の最たるものですが、自然栽培の考え方と技術は、自然の営みにできるかぎり沿いながら、農作物を育むというものだったからです。
さらに、“自然と人の共生”を確信する出会いとなったのが、矢野智徳さんによる「大地の再生」です。忘れもしない2014年11月末、山梨県上野原市にある矢野さんの本拠地「杜の園芸」(当時)で行われたワークショップに参加したときの衝撃は忘れられません。
同年末に季刊書籍『自然栽培』(東邦出版)が創刊されました。編集に携わるなかで「地球のしごと未来のしごと」という連載を設け、その第1回で、矢野さんの取り組みを記事にし、文末を次のように結びました。
「矢野さんは、いまあるものを決して否定しない。人と自然の営みを近づけていくための仕事を実直に積み重ねていく。微細な世界から地球全体、遠い未来までも見渡しながら。」
長年にわたり全国各地で展開してきた「大地の再生」がドキュメンタリー映画『杜人』として映像化されました。大地が呼吸を取り戻していくすがた、人の手で自然が甦るすがたを多くの方に観ていただきたいです。
「時雨出版」温野まき