岡山の土産についてアンケートを実施した結果から見えてきたもの。その3「デザイン」
vol. 4 2014-02-16 0
前章までで岡山のお土産に対するアンケートの「支出・価格」「イメージ」の項について、僕の考えを織り交ぜながら読み解いてきました。人がおみやげを買う時、どんなシーンで、どういった動機で、どういう心理が働いて購入を決めるのか、少しずつ明らかになってきたと思います。今回はお土産の売上に密接に関係している「デザイン」についてです。
7)あなたが岡山のお土産を選ぶ上で、パッケージデザインはどの程度重要ですか?
結構重要・・・46%
極めて重要・・・27%
ある程度重要・・・17%
多少重要・・・6%
全く重要ではない・・・4%
この質問、正直少し足りなかったかなあと思っています。もう少し踏み込んだ内容の質問を細分化して作るべきでした。というのも、この質問は「同じ値段なら内容量が多い方が好ましいか?」という質問と同じ意味だからです。パッケージデザインは「極めて重要」「結構重要」「ある程度重要」の上位三つの選択肢で回答が90%ですから、ほとんどの方がデザインはある程度重要と捉えているという結果になりました。でも、これはみなさんが購入する上でデザインを「重要」と考えているのではなく、「デザインが良いに越したことはない」という回答と思っていただいて結構だと思います。
とはいえ、じつはこの質問、お土産の現状をかなり浮き彫りにしている結果でもあります。どういうことかというと、90%の人がパッケージデザインが選ぶ基準になりうると答えているのに対して、お土産のパッケージデザインの現状は、伝統的な和菓子のスタイルを継承した和装デザインのものと、SA(サービスエリア)などで売られているジョークグッズのようなパッケージが大半を占めているからです。でも、お客様がその現状に満足していないかと言うと、そうではないんです。新しく発売されるお土産の大半は「ジョークグッズ」のように派手で目立つものなのです。
しかし、デザインの良し悪し、好きか嫌いか、という判断基準は人によってかなり開きがあるため、どういったデザインが売れて、逆にどういうデザインが売れないのかというのは結果論でしか語れません。僕はあまり好きではないのですが、“デザインコンシャス”という言葉が一部でよく使われていた時期があります。これは正確にはどういう意味で使われていたのか分からないのですが、僕の中では提供する側が「デザイン意識してやってるっしょ!」というノリで、受け取る側が「おれデザインにチョ〜興味あるっす!」というノリなのかなあと捉えてます。僕の言葉で言うと、最近増えてきた「デザインを乗っけた商品」が流通する界隈ですね。お土産はこの界隈とは方向性が逆であることは明白です。なぜなら、お土産はデザインで選ぶのではなく、デザインはお土産を選ぶときに「少しでもマシな物」を探すためのツールでしか無いからです。
大都市のお土産売場を眺めていると売れ筋商品に共通したあるデザインの傾向に気づくことがあります。それは、フェイス(商品の陳列幅)が広く割かれているお土産商品パッケージのオモテ面の図柄が「ファッションセンターしまむら」に並んでいる小中学生向けアパレルのパターンやカラーの傾向と酷似していることです。この理由がお分かりになるでしょうか。「ファッションセンターしまむら」の小中学生向けアパレルのカラーとパターンこそが、日本人の警戒心を解く「お土産デザインの最大公約数」だからです。「カワイイ」とも「カッコいい」とも違う、これこそが、大人になる一歩手前の日本人の幼い感覚に訴えかけ、消費に結びつけるための唯一にして最強のアプローチです。
CMディレクターの中島信也氏が言われた「デザインは警戒心を解くものでないといけない」という言葉が僕の心の中に深く刻まれています。その言葉を話されているのを直接聞いたとき、僕の中の疑問が一気に霧消しました。警戒心を解くと言うのは何か、それは危害を加えられる危険性を感じさせないことだと僕は捉えています。構えたり、いつもと違う自分を装うこと無く商品を受け入れることが出来る。それが購買につなげるための強く静かなアプローチの方法なのです。
先に例として挙げたお土産パッケージの二大パターン「和風テイスト」と「ジョークグッズ」、これは日本人の警戒心を説くための大切なキーワードでもあります。
「和風テイスト」これは日本人の誰もが持つ情景に訴求します。ザラっとして繊維の残った和紙の質感、輪郭がにじんだ毛筆の文字、張り子の人形のようなデフォルメされたイラスト、その要素が懐かしさや安心感を与えてくれます。古い和菓子屋の包装を踏襲したパッケージを手に取ると品質が担保されているかのように感じさせるのです。古くからある価値観に落とし込むことで警戒心を解く、これが「和風テイスト」のデザインが多く並ぶ理由です。
次に「ジョークグッズ」これは自分より劣ったものに感じる安心に訴求します。数年前に「お馬鹿タレント」という流行がありました。これは、勉強のできない、物事を知らないフリをしたタレントが簡単なクイズに見当違いな答えを言うのが面白さでした。日本人は優れた他者に対して猛烈に嫉妬します(まあ、これは日本人に限りませんが)。でも優れた才能を賞賛するよりも、劣ったものを見て安心する方が内心は穏やかさを保つことが出来ます。お土産の場合の「劣っている」というのは置き換えると「ダサい」ということになります。自分が良いと思って買ったものを他人から否定され「センスの無い人間」というレッテルを貼られるのなら、わざとダサく格好悪いものを買った方が批判されないという心理が働きます。「センスのある」というのは非常に曖昧で難しい価値観です。それに対して「ダサい」というのは共通の認識として通用します。そしてその「ダサいお土産」が人の警戒心を解くので大量に流通していて、すでに市場として完成されています。いやいや、すごいマーケティングです。
ここまでで三つのキーワードが出てきました。
「ファッションセンターしまむら」
「和風テイスト」
「ジョークグッズ」
この三つに共通しているもの、それは「考える必要が無い」ということです。考えるというのは、複数の商品を比べた時にどれがより優れているかを、自分の価値観に照らし合わせて選択するという心の負担の大きな作業です。これを省略してあげるのがお土産において優れたデザインということになり、それは「カッコいい」「カワイイ」という価値観ではなく、安心を与える物であり、省力に寄与することだということになるかと思います。
8)あなたが岡山のお土産を選ぶ上で、パッケージに「岡山」や「倉敷」や「津山」などの地名が記載されていることはどの程度重要ですか?
全く重要ではない・・・25%ある程度重要・・・25%
多少重要・・・24%
結構重要・・・14%
極めて重要・・・12%
岡山のお土産のパッケージに岡山の地名は必要か。このアンケートではその答えは「NO」でした。パッケージに地名を記載することに対して75%の方がネガティヴ寄りな回答をしています。じつはこの結果は現状を反映していません。その理由はアンケート回答者の年齢分布が実際と異なるからです。このアンケートの回答者の年齢層は30代が50%、40代以上が40%、20代以下が10%という分布です。でも実際にお土産売場での購買力のバランスは60代以上の方にかなり偏重しています。これを前提として、以下にデータを読み解いていきます。
さて、パッケージに「岡山」という文字の書かれた岡山のお土産、はっきり言ってこういった商品のほとんどは岡山の会社が作っていません。作っているのは岡山以外の地域の工場で、販売している会社も親会社は岡山にありません。これを僕は「越境メーカー問題」と言っています。一括表示に岡山の地名を入れるために岡山県内に営業所だけを設置して、社員はルート配送要員のみという形態をとり、グループ内の工場で大量に製品を作り、ラベルを貼り換えて全国に出荷します。そのような越境メーカーは岡山以外、47都道府県ほぼすべての地域でその土地のお土産を企画して販売しています。
このような越境メーカーでガリバーと呼ばれる企業が一社あり、年間売上は200億円あります(お土産以外の事業も含む)。そのような越境メーカーは、手っ取り早くその土地で売れる商品を作ります。その土地の名産とされる果物を使いどこにでもある饅頭やカスタードケーキに練り込み、地名だけを変えたパッケージに詰めて販売します。これが結構売れます。なぜなら、岡山のお土産メーカーで積極的に岡山の地名をパッケージに入れる企業は多くないからです。地名の入ったお土産という狭義のカテゴリーでライバルがいないのです。どうして在岡山のお土産メーカーは積極的に岡山の地名を入れないのか、それは自社のブランドを売り込みたいという思いと、代々続く老舗の中では古くから作り続けてきた商品の名前をおいそれと変えられない事情があるからです。
僕が卸していた岡山駅内のお土産売場では、県外メーカー製品が売場の70%の面積を占めるという状態でした。でもこれが売れるのです。瀬戸大橋が開通してから岡山のお土産売場には四国のお土産も並ぶようになりました。その中で岡山らしいお土産を簡単に探すためには、パッケージに「岡山」の文字が書いてあり、「白桃」や「マスカット」というキャッチがあれば手が出ます。新幹線の時間が迫っている場合など、なおさら分かりやすいものに手が伸びるのではないでしょうか。また、高齢の方には「分かりやすい」というのはかなりの訴求になるのは事実です。ここを越境メーカーは狙ってきます。そして売場と売上を地元メーカーから奪っていくわけです。
ここまでお土産のパッケージデザインと、パッケージに地名を入れるかどうかについて書いてきました。長く書きましたが、お土産のデザインに必要な物はただひとつ「分かりやすさ」です。警戒心を解き、選ぶ時間が無い状況でも判別しやすく、何を選べば良いか考えなくても済むデザイン。これこそがお土産デザインの基本の基本です。
あれ?ももたんのデザインって分かりやすかったっけ?と思われる方も多いかもしれません。「ももたん」のパッケージデザインは、ここに書いたデザインの考え方から二歩も三歩も踏み込んだマーケティングを行い、持てる全ての資産を投げ打って実践や検証を繰り返して得られた、僕の考える究極のブランディング理論から成り立っています。みなさんにお教えしたいところなんですが、まだ「ももたん」も始まったばかりなので、もうちょっと計画が実現したらそのうちお披露目したいと思います。
お土産は単に商品ではない。お土産は単にデザインをデザイナーに作らせれば良いのではない。僕はそう考えています。僕は1日24時間ずっとお土産のことを考えています。それは代々続く老舗メーカーが何十年、何百年かけて築き上げたブランドを、たった数年で作ろうと言う途方も無い計画で事業を立ち上げたからです。そして岡山で生まれた「ももたん」、岡山の「お土産」を日本の「おみやげ」に育て、そして世界の「OMIYAGE」に広げようと考えています。もし賛同していただけるならプロジェクの概要をご覧ください。
https://motion-gallery.net/projects/momotan
ここまで読んでいただいてありがとうございます。僕の「おみやげ」に対する思い、「ももたん」に込めた思いを少しでも感じていただけたら幸いです。もし共感していただけたら、このクラウドファンディングに応援してやって下さい。金銭で応援ができないという方も、ぜひこのアップデート記事をSNSでシェアや拡散して下さい。どうかよろしくお願いいたします。
ナショナルデパート株式会社
代表取締役 秀島康右(ひでしまこうすけ)