vol.ⅷ マハロの世界と私
vol. 8 2026-02-04 0
vol.ⅷ【マハロの世界と私】20260204 山田
美術をつとめました、山田藍衣です。
今回は、マハロの世界に魅せられた1人の人間目線から、語らせて頂こうと思います。
少し、お付き合いいただければ幸いです。
何度目の改稿だったでしょうか。
終電間際の電車に揺られていた私に、マハロからLINEが届きました。
『改稿できた!』
添えられた1件のファイル。開くと、そこには初期の脚本から何度も書き直され、磨き上げられた物語がありました。たぶん、9回目くらいだったかな。「ベースはこれでいく」という言葉には、確かな自信が滲んでいました。
読み進めるうちに、涙が止まらなくなりました。
幸い、深夜の車内に人影はまばらで。
私はただただ、マハロの世界に呑み込まれて、その濁流に終われるように、泣いていました。
映画『みずひたしのくに』の美術監督という仕事は、そんな彼女の世界を具現化する手伝いでした。マハロと対話を重ね、探し、見つけ、提案する。その繰り返しの日々。
「これ、どうかな?」
「良いね、それでいこう」
「じゃあ、これは?」
「……それはちょっと、やりすぎかも」
「だよねえ」
そんな会話を何十回、何百回と交わしたでしょうか。正解が見えず苦しむこともあったけれど、「これだ!」というピースを見つけた瞬間の高揚感は格別でした。この世界を作り上げる一員になれたことが、心から嬉しかった。
撮影前夜、一睡もせずにミシンを動かして小道具を仕上げたときも、体はボロボロのはずなのに、そこからどこまでも走っていけそうなくらいワクワクして、眠気なんて一切感じないまま準備をしたのも、不思議と昨日のように思い出せます。
突拍子もない設定と、そこに存在する温かい記憶。彼女の描く物語とその登場人物はどこかキラキラしていて、でも確かに生きている。未熟な美術監督だったけれど、少しでもその世界の支えになれていたら、と願わずにはいられません。
初めて会った川崎の河川敷。汗だくで走り抜けた夏が過ぎ、いつの間にかマフラーを巻いて鼻先を赤くする季節になりました。
1年にも満たない短い時間の中で、彼女の世界を何度も覗き、触れ、私はその虜になってしまいました。夏、縁側に寝転んで汗をかきながら見上げた星。冬、凍えながら3時間散歩した深夜の公園で踊ったこと。 いつの間にか口癖がうつってしまうほど、濃密な時間を過ごしてきました。
『みずひたしのくに』は、そんな愛おしい時間を運んできてくれた作品であり、私の大好きな友達が描いた世界です。「嘘みたいな青春」なんて言葉は散々みんなが言っているけれど、本当に、そう呼ぶほかない夏でした。
どうか、この世界が一人でも多くの人に届きますように、お力添えいただければと思います。
仁平が描いた山田の藍衣
vol.ⅷ【マハロの世界と私】
以上
山田藍衣
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