ガルロチの猫 ⑧ 「落ち着け、それは挨拶だ。」
vol. 19 2026-02-22 0
ダビデ像が服を着て踊っておる。
それも、何度も高速回転したと思ったら、急に停止して逆回転を始めるみたいなことを平気でやっている。この人の足裏と床の摩擦係数は一体どうなっているのか。
ガルロチの柿落とし公演終了後、続いてやってきたのはヘスス・カルモナグループだった。
ヘスス・カルモナとは謎に驚異的な身体能力を持った若くてそれはもうイケメンなフラメンコの踊り手だった。
その頃撮った写真を見ると、今より体つきが華奢だ。
あのガルロチでの公演から9年、ヘスス・カルモナは現代的な舞台作品の創作を続け、栄誉ある賞をいくつか獲得し、フラメンコというジャンルを超えて世界的に活躍している。
そんな彼が率いるグループが1ヶ月間もガルロチの舞台で毎晩ショーを繰り広げていたのだ。
お客さんの入りが少ない日もあったと聞く。いやはや、勿体無い話である。
ちなみに、ショーの撮影が終わった後、ガルロチのオーナー夫人・多加代さんが、ヘスス・カルモナに声をかけ、私を紹介してくれた。
ヘススが「どうだった?」と聞いてきたらしく、私は思わず日本語で「(動きが)速かったです。」と愚直に答えてしまった。
多加代さんが「Rápido」と伝えたのを聞いて、あぁスペイン語で速いって“ラピド”って言うんだと思った。
だから、私がガルロチで最初に覚えたスペイン語はRápidoだ。
ということで、9年前、私は全くスペイン語が話せなかった。Hola(こんにちは)とかGracias(ありがとう)くらいは知っていたような気がするが。スペイン人のそれも強烈なオーラを放つフラメンコアーティストたちを目の前にすると、簡単な挨拶すらままならなかった。
そのオーラにも徐々に慣れてはいったが、それはそれで問題があったのだ。
“辞書に載っている言葉と実用的な意味が違う案件”である。
代表的なところで“Guapa”である。グァパと発音する。辞書によるとGuapaとは“魅力的でセクシーな女性“と記載されている。キャッツアイの泪姉さんみたいな女性のことを指すのかと思いきや、美人であろうがなかろうが、女性全員に当てはまるのがこの言葉。
「¡Hola guapa!(オラ、グアパ!)」と声をかけられたとしても「ヤァ、今日はいい天気ですなぁ。」くらいの意味だ。真に受けてはならない。絶対に真に受けてはならない。しかし、辞書の意味しか知らない私は度肝を抜かれた。
“Encantado”も危険だ。
辞書にはなんと「うっとりさせられた、魅せられた、悩殺された」と表記されているではないか。
悩殺・・・♡
しかし実際には「Encantado(エンカンタード)」と言われたら、それは、単なる「はじめまして」である。女性が発する場合は「Encantada(エンカンターダ)」ね。
また、ものすごく可愛い女性の踊り手さんに「¡Hola cariño!(オラ、カリーニョ)」から始まる実務メールをもらった時は、妙に舞い上がってしまった。翻訳アプリに“cariño”を入力すると愛しい人とかハニーという日本語訳が出てくるのだ。
ハニー・・・♡
そんなこんなで、あの頃は幾度となく心地よい眩暈を経験させていただいたものだ。
今はもう彼らからの褒め言葉も7割引いてから受け取る。スペイン人は大袈裟な表現を好む人が多いし、日本人よりも本音と建前を使い分けるのが上手い。
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