赤井都さんからのメッセージ「本を読むという自由」
vol. 19 2024-12-15 0
本を読んでいる時は、自由になれる。 そうかつてブログに書いた。その頃、豆本の作りかたの著書本にサインする時は、一言添えて、「作る時間は、自分の時間」と書いていた。一言で書いてしまったけれど、その当時の私の気持ちとして、本に没入していると他のことを忘れて、本来の自分自身を取り戻して、生き始める。そうした数十分なり数時間なりが、とても大切だと感じていた。
個人的に、体に不調を抱えていたり、心配事があったり、辛いと思うことなどが重くのしかかっていたとしても、本に没頭しているしばらくの時間、そうしたことは忘れていられる。 そして、本を読み終わって目を上げた時、違う地平線が見られるといい。 物語の世界の中で呼吸して、本の表紙を閉じた時に、ふとこれまで心が出かけていたことに気づく。戻ってきたのだけれど、同じ世界には見えない。自分の大きさが、まるで変っているかのような。一冊の物語が、心を旅に連れていき、経験を積ませて、元の世界へ戻してくれる。ここから離れる自由を、本はくれる。そして、元の世界の枠組みを、違う角度から見る自由もくれる。
今の私にとっては、身近な人や物事が、もっと大切に感じられたり、空の色が鮮やかに見えたり、というようなことだ。そして、ああよかった、と思うのだ。
『航海記』を読む時間が、本来の自分自身を取り戻す時間になればうれしい。
赤井都(豆本作家・ブックアーティスト)
豆本作家、ブックアーティスト。自分で書いた物語をそれにふさわしい本の形にしたいという思いから、独学で初めて作ったハードカバー豆本で、2006年ミニチュアブックソサエティ(本拠地アメリカ)の国際的な豆本コンクールで、日本人初のグランプリを受賞(MBS book competition distinguished award winner)、2007年連続受賞。その後、10年間かけて、通常サイズの本の西洋伝統的手製本、デコール、書籍の修理と保存をルリユール工房などで学ぶ。2016年、9年ぶりの受賞、また2021年、2022年受賞。
著書に『豆本づくりのいろは』(河出書房新社)、『そのまま豆本』(河出書房新社)、『楽しい豆本の作りかた』(学研パブリッシング)。
2006年より個展、グループ展、ワークショップ講師、豆本がちゃぽん主催など。オリジナルの物語を、その世界観を現す装丁で手作りする、小さなアーティストブックの作り手として、また講師として活動中。
今回、自身が書いた物語『航海記』を全国の書店に届けるため、新谷とともにクラウドファンディングに挑戦中。
photo by Katsuhiro Ichikawa