言葉の宇宙船 ー 編集|川村庸子(Freelance editor)
vol. 7 2016-08-15 0
今回は、編集者の川村庸子さんをご紹介します。
川村さんは、ある日たまたま手に取った一冊のタブロイドをきっかけに大学生の頃から編集業をスタート。人類進化やゴリラとの境界線、記憶の分有からアートプロジェクトのドキュメントまで、さまざまな本づくりに取り組んできています。
編集|川村庸子(Freelance editor)
1985年埼玉県生まれ。学習院女子大学国際文化交流学部日本文化学科卒。在学中からasobot inc.に参加し、ディレクターとして、企画・編集・地域のリサーチを行う(~2014年)。編集した主な媒体は、『GENERATION TIMES』(ラフォーレ原宿、04~10年)、『earth code』『survival ism』(ダイヤモンド社、10年、11年)、WEB『復興の教科書』(文部科学省、14年)。NPO法人シブヤ大学の企画・運営・姉妹校立ち上げの中間支援(06~10年)。オルタナティブスペース・undō代表(14~15年)。近年は、Art Bridge Institute機関誌『ART BRIDGE』、『トヨタ・子どもとアーティストの出会い この12年間の出会いは何をもたらしたのか?』、大小島真木特製BOOK『鳥よ、僕の骨で大地の歌を鳴らして。』など、様々なプロジェクトに伴走しながら編集を行っている。
川村さんからの本プロジェクトの制作レポートを含めたメッセージです。
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【メッセージ】
語らないこと、語れないことによって、語られることの尊さについてたまに考える。スリーピースバンドのスカスカの音には鳴っていない音が聴こえることがあるし、人は、決して起きなかったことを懐かしみを持って思い出すこともできる。
芹沢と港の話は、いつも予測がつかない。彼らの本には学生時代から触れてきたし、縁があってこれまでもご一緒してきたが、ふたりの話はいつも新たに語られる感じがある。それは、互いの放つフレーズや身振りなどが刺激し合って、きっと本人たちも予期せぬ回路が、ふとつながってしまうんだろうと思う。そんなことを感じさせてくれる対話がある。現場のわたしたちは、その話に耳を傾ける。ときおり不躾に口を挟んだりしながら。そして、その対話に立ち会ったことで、あとからどんどん、あるいは静かにそれぞれが話し出す。まるで何かの扉がひらいたかのように。
自分は、人は、こんなにもその人のなかに堆積しているものがあったのかと驚く。それは、たぶん感性や知性と呼ばれるもので、つまりは時間なのだと思う。その人のなかに流れるいくつもの時間(それはもう死んだ人たちによるものも少なくない)が複雑に絡み合い、他人のそれと呼応し、目の前の時空を歪ませる。この感覚は、ふたりの著書を読んでいるときに似ている。こうした二つの大きな流れが織り重なって、一冊の本に綴じられてゆく。
そもそもプロジェクトブックとは何で、それはどのようにして可能なのか? 未だにいくつもの問いを抱えている。「いま」や「生成し続けるプロセス」を本という物質としてかたちにするなんて、どだい無理な話なのかもしれない。けれど、やってみる。この状況に、プレッシャーを感じながらも、わくわくしている自分がいる。それに、ひとりではない。
何ができて、何ができなかったのか、人がつくるものは、いつもその両方を見せてくれる。それは、つくり手と受け手という関係を超えて、相互浸透する可能性だ。そんなことを思いながら、目の前にある困難に対して、一つひとつあるべきかたちを模索していきたいと思う。本をつくることを通して、ホモ・サピエンスであるわたしたちがこの世界に生きていることの驚きとよろこび、その持続について考え、実践できたら本望だ。
立夏の頃にはじまったプロジェクトは、あっという間に立秋を迎えた。季節が巡って秋になる頃、「ああ、これだったね」と思える場所に辿り着きたい。そう願いながら、毎日、からだのどこかで考え、語り合い、それぞれが手を動かしている。
川村庸子
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ただいま、鋭意制作中です! どうぞ楽しみにお待ちください。