言葉の宇宙船 ー 写真家|齋藤彰英
vol. 8 2016-08-17 0
今回は、本が生まれていくプロセスを撮影してくれている、写真家の齋藤彰英さんを紹介します。齋藤さんは、これまで海女文化や塩の道など、太古の記憶が感じられるランドスケープを、歩きながら網膜で触れるようにして撮影してきました。
齋藤彰英 Saito AKIHIDE
1983年静岡県生まれ。写真家。フィールドワークを通して体験した土地に残る文化や風土、あるいは地質学的な観点でリサーチした土地を含めた作品を制作している。現在は、糸魚川静岡構造線をリサーチの対象とし、縄文期の黒曜石や塩の物流の道として踏み固められた「塩の道」、始原的な様式をまだ残す秋葉信仰「火祭り」などを撮影している。
展示歴:
「浮即沈」(グループ展「Rituals」/東京/2016)
「神の漁場」(グループ展「神の漁場」/東京/2016)
「いつか」(個展/静岡/2015)
「沈着」(個展/静岡・神奈川/2015)
「深く、より深く」(信濃大町美術祭「食とアートの回廊」/長野/2014)
「共沈する景色」(個展/静岡・神奈川/2013)
「AXIS」(グループ展「不可解のリテラシー」/東京/2013)
「”憶”へのまなざし」(「原始感覚美術祭」/長野/2013)
「網触共沈」(個展/神奈川/2012)
「視触」(グループ展/神奈川/2011)
ウェブサイト:http://saitoakihide.com
齋藤さんからのメッセージです。
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【メッセージ】
今回のプロジェクトに関わるきっかけは、Art Bridge Instituteが同タイトルで開催した二人の対談イベントを撮影したことに始まります。
これまで時間の堆積や痕跡が感じられるランドスケープにカメラを向けていた私にとって、対談を撮影することはあまり経験のないジャンルでした。しかし、対談の中で彼らが青年時代に触れた新しい文化や、その思い出が詰まった雑誌について話が及ぶに連れ、二人の表情や仕草に彼らが培ってきた体験や知識、あるいは衝動が鮮明に立ち上がってくるように見えたのです。その光景は、山肌に露出した地層を見るかのようでした。これをきっかけに、豊かな経験を有する彼らの地層を、継続して記録してみたいと思い、プロジェクトに参加しています。
私は、写真家活動の一環として多摩美術大学メディア芸術研究室に所属しており、日頃から新しい才能を持った学生たちに触れる機会が多くあります。同時に、かつての美大生たちが持っていた根拠なき自信や衝動が、現在の学生たちに感じられない場面も多く見受けられます。何か物足りなさ感じるのです。
しかし、それは学生だけに当てはまる問題ではなく、私自身を含め社会一般の「風潮」にも現われており、様々な事柄において想定範囲内に目標を定め、そこに着地できる簡潔なルートを見つけることを良しとする傾向を感じることは少なくありません。
そうした中、このプロジェクトから生み出される一冊の本は、私たちにとって一つのものづくりの指針になってくれるのではないかと感じています。なぜなら、二人が紡ぎ出す言葉の連なりは、目的地を定めるのではなく、純粋な好奇心・衝動・記憶を推進力にして、無限の広がりを持った宇宙を目指しているからです。
そして、さまざまな時代や分野を横断しながら発せられる彼らの言葉が、いまこの時代にどのように提示されるのか? 私も乗組員としてその景色を写真に込め、一冊の本に表現していけたらと思っています。
齋藤彰英
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今回は、本も一冊ずつ撮影する予定です。
齋藤さんによる重層的なドキュメントを、どうぞお楽しみに!