言葉の宇宙船 ー デザイナー|尾中俊介(Calamari Inc.)
vol. 4 2016-08-02 0
対談も2回終わり、実際に本をつくっていく工程に入りました。イベントで話されたことをふりかえり、テープ起こしをした原稿の構成をして、ブックデザインに取り掛かっています。
先日、さっそくデザイナーの尾中俊介さん(calamari.inc)から、本のデザイン案が上がってきました!
ここからどんどん更新していくと思いますが、雰囲気をほんの少しおすそわけいたします。
本書のデザインをしていただく、尾中俊介さんは、主にWebデザインを担当する田中慶二さんとともに『Calamari Inc.』(http://calamariinc.com/about)を設立し、福岡を拠点に活動しています。
デザイナー|尾中俊介(Calamari Inc.)
1975年山口県宇部市生まれ。グラフィックデザイナー、詩人。美術関連の印刷物のデザインを主に手がける。主な展覧会の仕事に『歴史する!Doing history!』(福岡市美術館)、『東松照明─長崎─』(広島市現代美術館)、『シアター・イン・ミュージアム』(大分県立美術館)、『みえないものとの対話』(三菱地所アルティアム)、『希望の原理』(国東半島芸術祭)、『曽根裕|Perfect Moment』(オペラシティ アートギャラリー)等。主なエディトリアルデザインに、『AHA!|あとを追う』(武蔵野市立吉祥寺美術館)、『想像しなおし』(福岡市美術館)、『江上茂雄─風ノ影、絵ノ奥ノ光』(福岡県立美術館)、『遠藤水城|陸の果て、自己への配慮』(pub)、『MOTOHIRO TOMII WORKS 2006-2010』(中山真由美・冨井大裕)、『曽根裕|Perfect Moment』(月曜社)等。詩集『CUL-DE-SAC』で第15回中原中也賞最終候補。出版レーベル『pub』(http://pub.calamariinc.com/)発行人。
尾中さんから、今回のプロジェクトブックについてのメッセージをいただきました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・【メッセージ】
Mille Plateaux、Skam、Mego、Schematic、Touch、Raster-Noton、Beta Bodega…。90年代末から2000年はじめ、僕はエレクトロニカばかりを聴いていた。世界中の街にできた小さなレーベルから数多のCDがリリースされていた。 クリック、カットアップ、グリッチという手法の耳新しさにはまったということもあるが、まだ駆け出しのデザイナーだった僕には、それぞれのレーベルの特徴が際立ったジャケットデザインは何よりも新鮮で憧れの対象だった。タイトルもアーティスト名もすべて点字だけのもの、段ボールやエアキャップなど緩衝材だけで挟んだもの、シルクスクリーンで刷ったもの、大きなポスターで包んだもの、タイトルなど入れずに風景写真だけを印刷したもの、厚手の紙にCDをテープで貼付けたもの、むき出しのCDそのまま、など、大手のレーベルにはない「自由さ」がそこにはあった。
その頃、低価格になった(それでも当時の僕にとっては大変な額でありローンで苦しんだが)Power Macやスキャナーを購入し、(音楽ができなかったので)Adobe Illustratorを駆使して、MegoのTina Frankのサンプリングの手法を用いたデザインやThe Designers Republicのユニークなアイコン、Tomatoの文学的なタイポグラフィなどの影響を多大に受けたグラフィックと詩だけのフリーペーパーを友人と二人でつくった。お互いの詩とデザインを批評し合い、ああだこうだと言いながらページを構成、紙やインクの色を指定して印刷し、配布した。一端のデザイナー、詩人、発行人気取りだった。また、詩を書き始めたことで、古本屋に足繁く通うようになり、戦中戦後に詩集を発行していた小さな出版社の存在を知った。大手出版社の制作プロセスに対する批判的態度としての「自由さ」の表明がそこにもあった。それは生産性や効率性よりも自律性を重んじた姿勢でもある。
そして2000年に福岡のリブロで手に取った松本圭二の『詩篇アマータイム』。それはメインとなる長いテキストに他の詩や散文を一行の空きもなく組みこんで一連とした長篇詩であり、これまで見たこともないようなヤバいブツだった。その製作ノートには「作家の領域とポスト・プロダクション的領域との相互侵犯」によって作られたとあり、そのアクチュアリティに触れて以後、僕はその「相互侵犯」のことばかりを考えて詩作やデザインをしてきたように思う。ふりかえれば、先の小さなレーベルや出版社がリリースした作品の多くは、この「相互侵犯」によって出来上がったものであり、それゆえかつての時のなかで当然とされていた制約から逃れ、「自由さ」を獲得できたのではなかったか。
昨今、Zineやインディペンデントな出版の隆興は流行にとどまらないものになりつつある。デザインに関してはますます誰にでもできるようになってきた印象だ(いずれはデザイナーという職もなくなるだろうし…)。とあるガレージのような場所で、小さなチームの編集者がデザインの核心的な部分についてのアイデアを出す。「そこは俺の領分だろ」とデザイナーは苦々しく思うが、狂おしいほどそのアイデアは面白い。デザイン的な思考が編集者にも備わっているわけだ。「こんなの上手くいくとは思えないけどなあ」とか口にしつつもそのアイデアを採用するためにデザイナーは自分の持っている技術を発揮したいともがき、その過程において必要とあらば編集にだって口出しをする。そのような現場があらゆる場所に発生しているように思う。
そんな時代にあって「新しい出版の仕組みをつくること」の実践とは、単に仕組みをつくるというだけのものではないだろう。おそらくこれから出来上がる本は、あらゆる制作プロセスにおいてリミッター解除を可能とする事例の詰まったブツになるはずだ。小さなチームであるからこそ「相互侵犯」を経て、結果としての「自由さ」を手に入れることができる。そしてそれはこの小さな「プロジェクトブック」の大きなエッセンスのひとつとなり、これから生まれるだろう新たな「自由さ」の萌芽となる。
尾中俊介
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さあここからどんな本に仕上がっていくのか、どうぞお楽しみに!