苗植え(著者からのメッセージ)
vol. 14 2021-08-19 0
苗植え
戦後拡大造林…という言葉をご存じでしょうか?
焼け野原になった日本で、復興のために植えられたたくさんのスギやヒノキが、いまはすっかり育って、伐られるのを待っています。
いまの時代、苗植えをしたことがある木こりは、昔に比べたら少ないかもしれません。
林業では、木を伐り出して木材という素材を生産する仕事を林産(素材生産)、その林を育てる仕事を育林(造林保育)といいます。
高性能機械化された林産の仕事と違って、育林の仕事はあいかわらず手仕事の重労働を伴うことが多い営みです。
私が高知で取り組んでいる自伐「型」小規模林業も、育林の手間を最小限に抑えて自然の摂理に委ねようという理念に基づいて行われる林業の方法のひとつです。
この本では、林業の方法論については多くを書いていません。
それよりもむしろ、林業の現場に立つ労働者・生活者の一人…私が感じた思いを注いでいます。
私は故郷の岐阜の山で、苗植えや下刈りや間伐…保育の仕事もしました。
そのとき、苗を植えながら、なにかロマンのようなものを感じました。
それ以来、高知でもヒノキを一本伐り倒すたびに、この高く太く育った木の苗を植えた人…いまはもうこの世には居ないであろうその人は、なにを思って苗を植えたのだろう…そんなことに思いを馳せるようになりました。
この本には、林業の現場に立つ人々へのリスペクトを注ぎ込みました。
木こりのみなさんと、これから木こりになるみなさんと、彼らが産した木を使うみなさんにも知っていただきたい。
語られることのない多くの物語に思いを馳せてほしい。
名も無き木こりたちの物語です。
ヒサカキ・ソヨゴ