試写会を終えて
vol. 8 2022-04-04 0
4月3日(日)にクラウドファンドサポーター限定試写会を渋谷・ユーロライブにて開催しました。
ご来場いただいた皆さま、オンラインでご視聴いただいた皆さま、映画をご覧いただきありがとうございました。
無事完成し、最初のお披露目をすることができてホッとしております
本作をこれまでご支援いただきまして、心より感謝申し上げます。
2008年に原案となる「記憶代理人」を企画してから14年という長い月日を経て、やっと映画化できました。
今回は映画化までの道程について少し振り返ってみたいと思います。
2008年に埼玉のスキップシティにて長編映画化を目指す企画コンペにて選出され、15分程度のパイロット版映像を制作しました。
それをもとに「記憶代理人」という長編映画用脚本を執筆し、2009年の函館港イルミナシオン映画祭のシナリオ大賞にて、審査員奨励賞をいただきました。
その後、大手メジャー映画会社や映画プロデューサーから幾つも映画化の話をいただきました。
実績のある監督に任せるとか、TVドラマシリーズにするとか、有名俳優を主演に設定を書き換えるなど様々な提案をもらいましたが、私がこだわったのは、自分で脚本・監督をする「映画」にすることでした。
2度ほど、それなりの規模感で商業作品として成立できそうな機会もありましたが、リーマンショックや東日本大震災といった社会情勢も影響し、思うように進みませんでした。
膨大な時間と労力を費やした結果、何も形にならず、大きな徒労感が積み重なりました。
有名監督ですらオリジナル脚本の映画化は難しいと言われていた時代でした。
その後、原作となる小説を書いて、それをとっかかりに映画化しようという提案があり、2年間ほど、貯金を切り崩しながらほとんど他の仕事をせずに、執筆に専念していた時期がありました。
あらゆる犠牲も、映画化できれば報われると信じて、毎日原稿に向かいました。
しかし、その取り組みもまた、担当プロデューサーが会社を辞めたり、出版会社の経営状況が悪化するなどし、またも徒労に終わりました。
気づくともう何年も新しい作品を作っていないことに気づきました。世の中的には映画作家として、何一つ発信していなかったのです。
何度も挫折はしましたが、私はこの企画のポテンシャルを信じていました。
2014年頃から、誰かにプロデュースしてもらうのではなく、自らプロデュースすることで、ほかの誰かの事情に左右されない作品づくりを始めることにしました。
小さくても何かしら作品を発表する方が良いと考えたのです。
手始めに「DEPARTURE」という短編映画を、一人で製作することにトライしてみました。
通常映画は多数の専門パートのスタッフが集まって作りますが、撮影、録音、出演以外のあらゆることをすべて一人でやってみました。ロケ地探しや交渉、スケジューリング、食事の手配、衣装や美術、予算の管理などなど、タスクは多岐に渡ります。
大変ではありましたが、情報の流れを効率化することで、やれないことはないなという感触を得ました。何より、久しぶりに作品を発表できたことに大きな意味がありました。
そのやり方を長編映画でもやれないかとトライしたのが2017年頃に製作した「リバースダイアリー」です。プロデューサーと監督を両方やることの大変さはありましたが、劇場公開や海外映画祭にも繋げることができ、自信を持ちました。
そして次回作として「記憶代理人」を映画化できないかと考え、「消せない記憶」の元となる長編映画用脚本「消失」を執筆しはじめました。
そして2021年、文化庁の助成金(AFF)が実施されることを知り、これまでのノウハウを駆使すれば実現できるのではないかと思い、映画「消せない記憶」のプロジェクトを始動させました。
コロナ禍での製作は様々な困難がありましたが、自分で全ての責任を持つことで、かつてのようにただ誰かの判断を待ったり、映画会社の都合に振り回されることなくプロジェクトを推進することができました。
これが14年間にあった出来事の概略です。
少し映画製作の裏側というか、大変さを知ってもらえたかと思います。
誰かの思惑に左右されない形で、純粋に作りたい作品を作ること。
本作でそれが実現できたのは、クラウドファンドでの皆さまからのご支援があったからです。
すべてのリスクと責任を負い、行動に移すことで、自由な作品づくりができました。
今回の試写でもっとも嬉しかったのは、取材先の方からいただいた「あるお言葉」です。
本作では、誰にでも起こりうる「ある状況」が描かれています。
フィクションとはいえ、実際に同じ状況の方が観ても受け入れてもらえるものにしなくてはなりません。
実際に運営されている施設を取材させていただいて、これまで自分が色眼鏡で見ていたことに気づかされました。
わたしたちの日常の延長上に、同じように存在するもう一つの日常。それを特別視することは当事者の方々も望んでいない。そういう視点でこの脚本を見つめ直した時、後半のセリフが変化していきました。
取材先の方が作品を観てそのことに気づいてくださり、「嬉しかった」とメッセージをいただきました。
そのメッセージを受け取った時に、なぜか涙が溢れてきました。
自己満足な作品になっていないか、エンターテインメントで誰かを傷つけていないかと自問自答しながら脚本を書き続けた日々があって、作品に込めたメッセージはちゃんと届いたんだなと苦労が報われた気持ちになったんです。
これから作品を広めていく中で、沢山の人の優しさやご厚意に、しっかりお返しをしていきたいと思います。
今回作品をご覧いただけなかった方の中で希望される方には、劇場公開時に前売券のお渡しなどで対応させていただこうと思います。
尚、特典のお渡しについてご質問をいただいたのですが、ポスターやパンフレットは劇場公開に合わせて制作しますので、まだお渡しができません。申し訳ございませんが、お待ちいただきたくお願い申し上げます。
素晴らしい機会をいただき、本作にご協力いただいたすべての方々に感謝申し上げます。
これから多くの方に届けるまでにはまだ長い道程がございますが、引き続き応援していただけますと幸いです。よろしくお願い致します。
「消せない記憶」監督 園田 新