金子文子 短歌①
vol. 21 2024-10-02 0
遺著『獄窓に想ふ』
自序
歌詠みに何時なりにけん誰からも
学びし事は
別になけれど
獄窓1
我が好きな歌人を若し探しなば
夭くて逝きし
石川啄木
獄窓2
迸る心のまゝに歌ふこそ
眞の歌と
呼ぶべかりけり
獄窓3
派は知らず流儀は無けれ我が歌は
壓しつけられし
胸の焔よ
獄窓4
燃え出づる心をこそは愛で給へ
歌的価値を
探し給ふな
獄窓6
散らす風散る桜花ともどもに
潔(いさぎよ)く吹け
潔く散れ
(大審院判決前日の歌1926.3.25 )
<己を嘲けるの歌>
獄窓7
ペン執れば今更のごと胸に迫る
我が来し方の
かなしみのかずかず
獄窓8
そとなでて独り憐れむ稔りなき
自がペンダコの
軽きしびれを
獄窓9
自(し)が指をみつめてありぬ小半時
鉄格子外に
冬の雨降る
獄窓10
炊事場の汽笛は吠えぬ冬空に
喘息病みの
咽喉の如くに
*参照文献:金子文子ウェブ記念館 全歌集