紛争前のシリアでの記憶と光景(JIM-NET イラク事務所現地代表 斉藤亮平)
vol. 2 2021-01-31 0
JIM-NET 海外事業部の斉藤亮平です。
2007年~2009年の2年間、私はシリアへ青年海外協力隊(音楽隊員)として派遣されていました。
「シリアに暮らしていた」というと、大抵の人からは「危なくなかった?」と聞かれますが、当時のシリアの記憶と言えば、パン屋から薫ってくる香ばしい焼きたてのホブズ(パン)匂い、毎朝どこからともなく聞こえてくるフェイルーズの歌声、金曜日の朝の静けさ、道を封鎖する羊の群れ、夜遅くまで空き地に木霊する子どもたちの遊び声。そして最も色濃く脳裏に焼き付いているのは、教え子たちの歌う声とその姿です。
慣れないアラビア語での指導、自己主張の強い子どもたち、常に何かと格闘しながら過ぎてゆく日々でしたが、堂々と、晴れ晴れと、朗らかに歌う子どもの声は向日葵のような存在で、いつも私のどこかを照らしてくれていました。
それらの日々は、限りなく平和な日常で、明日も明後日も当然のように繰り返されるだろうと思っていました。
▼音楽クラブで日本の歌を歌いたいとリクエストを受け、皆で歌った「さんぽ」
+++
子どもたちと過ごした学校以外にも、シリアには愛すべき出来事や景色がたくさん散りばめられていました。
世界で最も古い都市のひとつとされる首都ダマスカスを始め、多くの遺跡や城が点在するシリアはユーフラテス川や豊かな自然にも恵まれた国で、多くの文化が混在していました。
農業も盛んで(トマトやジャガイモは1キロ30円ほど)、その素材を生かしたシリアの料理は周辺国も認めるほどです。
また人々はホスピタリティに溢れ、「ちょっとこっちに来て、座っていきなさい!」と、勤務先から帰宅するまでに何件か軒下をはしごしてお茶をごちそうになることも珍しくありませんでした。「今度はご飯を食べに来なさい」と本当に迎えてくれた人たちに何度出会ったことか。そんなことが日常の一コマであり、また彼らもそうした文化を誇りに思っていました。
▼アラビアのローレンスが「世界で最も美しい城」と称した十字軍時代の城「クラック・デ・シュバリエ」(世界遺産)
▼ある晴れた日のオリーブ畑と芝桜。シリアはかつてオリーブの生産が世界6位だった。
▼橋の上で声をかけられて以来、頻繁に訪問していた村の家。家庭料理が絶品。
▼シルクロードの東西交易路の隊商都市として栄えたシリアを代表する遺跡「パルミラ」(世界遺産)
▼ハマ市及び郊外には16の水車が点在している。
▼首都ダマスカスに聳えるカシオン山。休日ともなると多くの人が訪れ、ダマスカスの夜景を楽しむ。
▼ダマスカス郊外グータ村の子どもたち。
子どもたちが歌う「さんぽ」でもいいし、牧歌的なシリアの光景でもいい。シリアという国のイメージに、少し異なる色を加えられたらと願っています。
長引く紛争下での情勢不安や物価高騰の中、何とか明日を生きるシリア人への医療を皆さんで少しずつ支えていただけたら嬉しいです。
JIM-NET イラク事務所現地代表 斉藤亮平