WRO参加報告
vol. 3 2019-05-30 0
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皆さま、こんにちは!
5月11日から18日で作品の設営とWROのオープニングイベントに参加してきました。
日本に帰国してから少し時間が経ってしまいましたが、今回は設営とWRO参加の感想を皆さまにご報告いたします。
初めての海外での設営を終えて
今回私たちはポーランドの国立美術館Four Domes Pavilionの一部で展示しました。ここで展示される作品はヴロツワフの町に点在する他の会場に比べても多く、見に来てくれる人も多そうでよい会場に選ばれたと感じました。
とはいえ、直前まで実験を重ねていたので到着後、休む間もなく設営を始めました。
そこから、頼んでいたものが遅れるやら、遅れて届いたものが頼んだものとと違うやら、トラブル続きでした。それでも設営に必要なものを現地調達するなどしてなんとか設営を終えました。
設営に関するメンバーの感想です。
◆三宅
国内の作業場と展示会場との空間・設備条件の違いに一番苦労した。WROに依頼していたものがきちんと用意されていなかった事も、先方とのコミュニケーションや連絡不足だと感じた。準備期間が短かったとはいえ、もっと実際の条件に合わせて制作を進めたり、設営スケジュールに合わせた道具の荷造りなど、事前準備の大切さを痛感した。
◆堀部
日本で準備をぎりぎりまでしてようやく形になった。これでうまく設営できるだと考えたが現実は甘くなかった。現地でも電子部品屋、楽器屋、家電量販店から必要なものをかき集めてなんとか展示することができた。海外で設営を体験をできてよかったと同時に設営の手順はマニュアル化する必要を強く感じた。
◆石川
海外展示ということで事前に現場の下見をすることができなかったため、その場で見え方を確認しつつ作品を完成させていくのはスリリングながらもライブ感があり楽しかった。技術的にネックだったのは日本と展示場所での環境の違い。例えば電源の電圧が違うことで、機材選定に気をつかう必要があった。変圧器を使用すると機材の挙動が若干変わったり、日本では試せないトラブルが特に厄介だった。
◆ハンナ
アーティスト数が多く、工具を案外借りにくかったため、もっと一式持っていけばよかったと思った。什器部分は今回時間がなくてできなかったことだが、今後は3Dモデルで確実に設計したり、ハードな素材でfixして制作してもいいだろうなと思った。しかし、状況に合わせてフレキシブルに変化させなければいけない部分も大きいのでバランスが難しいと思った。
◆ノガミ
メディアアートの設営に慣れていないメンバーが殆どだったにも関わらず、設営の段取りがぼんやりとしか決まってなかったので、事前準備がもっと必要だった。次からはもっと設営が早くなりそう!海外の展示全般に言える事だが、事前に先方に伝えていても確認していた事でも、当たり前に先方が忘れる事がある。特にWROはスタッフの人数不足でそういったミスが相当数あり、それも懸念しなければならない。全ての機材は予備の予備を用意するくらいにしとく必要があった。
展示会場でお客さんと交流して
設営を滑りこみで終えるとWROビエンナーレのオープニングイベントが私たちの会場で始まりました。WROを1989年に始めたディレクターなどのスピーチがあり、多くの人で賑わっていました。オープニングイベントが終わるとともにたくさんのお客さんが作品を見に来てくれました。
お客さんとの交流に関するメンバーの感想です。
◆ハンナ
子供が興味を持ってくれたのが嬉しかった。子供が親にこれはなあに?と質問して、そこから静電気解説の会話が始まるのも微笑ましい。特に何回も見に来てくれた男の子がいて、言葉が通じなくても作品で交流できた気がする。
◆三宅
英語が苦手なので単語の羅列とジェスチャーだけではあったが、キャプションに書かれたコンセプトだけでなく、自分自身が作品に対して思うことや、制作を通じて付け加えたコンセプトの方をより多く伝えるようにした。前回の未来館での展示や制作風景、クリーニン屋や展示会場でホコリを調達する様子など、写真や動画を見せながら説明する事で、言葉が通じなくても視覚で紹介できたのが良かった。
◆ノガミ
私だけ1日多く残っていたために、ミュージアムナイト(深夜12時までオープン)のクローズまで作品の様子が見れた。コンセプト文はとても明快で観客は理解してくれたが、別の要素や新しい視点を与えてくれるのでよかった。しかし、ポーランド人はとてもシャイだ。また、オープニングセレモニーが自分は苦手で、その間に作品で待機していた際に来たお客さん数名とたくさん話ができてよかった。こういう人がいない時にいる人はしっかり作品をみたい人たちなので、熱意があって楽しかった。
気になった他の展示作品紹介
設営をなんとか終えてポーランド滞在の残り2日は他の作品を見る時間ができました。メンバーそれぞれが気になった作品を紹介します。
◆斎藤
EMPATHY SWARM 群れロボットの作品は、使用している技術は既存のものだが、暗闇の中でロボットた ち、とインタラクションするという体験としての完成度が高く、タイトルどおりの不思議なEmpathyを感じることができた。既存のメディアを用いていても、表現の仕方によって豊かな体験をもたらすことができるというアートの可能性を感じた。
◆堀部
一言でいうと舞台とメディアアートのコラボ作品。印象的だったのはPCDJコントローラーと舞台俳優の動きが同期していてスクラッチすると俳優の動きの時間を進めたり戻したりが体験できたこと。作品は1時間ほどで暗闇の中で腕や顔面にタブレットやスマホを装着した男女が入り乱れる展開となった。現代舞台はいくつか日本で見たことがあったがメディアアートのコラボは新しく斬新だった。
◆三宅
自身が環境やエネルギーに関わる仕事をしていることもあって、植物や太陽光パネルを使用した作品に興味を引いた。中でも、Four Domes Pavilionの中央広間に一つだけ設置されていたプランターが、美術館の備品ではなく作品の一つだった事に設営時は気が付かなかったのがちょっとした驚きだった(笑)この作品は、人間が言葉を使ってコミュニケーションを取る様に、美術館のプラタナスの樹からヴロツワフの公園の樹と通信できるというもの。
◆ノガミ
VIS.[UN]NECESSARY FORCE_1.01 V.[U]NF_1.01
LUZ MARÍA SÁNCHEZ (MX)
参照:WRO Bienniale
会場には同じかたちで3Dプリントされた白い樹脂の銃が陳列されている。たくさんの窓に置いてあるそれらはコレクションのようで、手にとるとスイッチが付いている事がわかる。引き金をひけない代わりにそれを押すと、どこかの環境音が聞こえて来る。次第にその中に悲鳴や銃声が聞こえて来て、まるで自分がその引き金をひいたような感覚に陥る。それらはYoutubeで集めたメキシコでの銃事件の音声だ。Youtubeで何処か他人事のように思って気軽に行える再生が、銃で再生する事で、自分が当事者として関与していく構図になっている。アート作品は、観客をその文脈や価値観に没入させる役割がある。この作品は単純なシステムだからこそ、観客の日常に世界の別の出来事を意識させる事が出来たのだと思う。レーザーポイントも付いているこの銃で、さっきまで自分が友達と遊んでいた事に引け目を感じてしまう程だ。この陳列棚にある膨大な銃は、観客が自由に操作できるため、作者は非同期の共同サウンドインスタレーションになると述べている。大きく描かれるメキシコの地図に実際の銃声地が書いてあり、何十個も銃を再生させたままにすると、たくさんの銃声の音が渋谷のスクランブル交差点のような環境音に聞こえて来る。メキシコには行った事があって銃声が聞いた事はないが、これが国の環境音と言えてしまうのかもしれない。観客がどうこのインスタレーションが“使われるか”と記載していた事もドライな見え方がして興味深かった。web上で体験できるサイトもあったが、現場で体験した方が感じ方は全く違った。
http://vis1.vis-fuerzainnecesaria.org/
BOTTLED SONGS 3 & 4
CHLOÉ GALIBERT-LAÎNÉ (FR), KEVIN B. LEE (US)
参照:WRO Bienniale
この作品はソーシャルメディアやニュースで話題になった失踪者たちについての、研究者のデスクトップの画面収録だ。誘拐されたイギリスの記者が出ているイスラムのプロパガンダビデオや、フランスのISIS fighterのソーシャルメディアでのアクティビティとメッセンジャーや、現実世界での記録などが交錯している。Googlemap上の架空のレストランを探し求める人々や、サブアカウントや架空のアカウントなど、現実が架空を追い求める事が多々ある。それは会えないアイドルのような偶像を作り出している。モノローグ形式での展示方法で、叙情的にならざるを得ない不思議な作品だった。
Martine Neddamのhttp://mouchette.org/ というweb作品も、架空の少女の日記を体験でき、”あなたの今のクリックで彼女は死にました。なぜ死ななければならなかったのでしょうか”みたいなテキストが出て来たり、類似点が多い。インターネットでの現実感の無さを実感する、というのがポストインターネット(死語?)には多い。
WROフェスティバルの感想
◆堀部
WROは1986に第1回が行われ今回が30回目であり、WROに訪れたときに年表を見て改めて長く続いているイベントであることを実感した。WROの作品をさまざまな会場に見に行くことで作品だけでなくブロツワフの町の様々な側面をみることができた。具体的にはいわゆる観光地で華やかな旧市街、ホテル付近の少し落ち着いた雰囲気の街並み、生活感あふれるスーパーやコンビニである。また毎晩行われるパフォーマンスはどれもライブゆえの緊張感がありどれも面白かった。
◆ハンナ
Human Aspectというテーマは、Humanという言葉を使いつつも、人間を相対化するものに思える。
◆ノガミ
今回、国際交流基金の助成のお陰で日本人アーティストがたくさん来る事ができた。作品のキャプションをよく見ると、全ての作品に協賛もしくは助成金がついている事がわかる。覚えている範囲では日本、フランス、ポーランド、ドイツ、オランダ、オーストリアの順で多く、次にアメリカ、イギリス。デンマーク、インドネシア、香港、クロアチアスロヴェニア、エストニア、メキシコのアーティストは1人ずつ。メディアアートのフェスティバルは大抵ヨーロッパで行われるが、ヨーロッパ作品の傾向はかなり強い。今回のフェスティバルでは作品の多様性は正直そこまで感じなかったが、国でみると多様性を取り入れようとしているのがわかる。しかし、それでも目に入る作品は資金がしっかりとしている印象が残った。西洋以外の国が更にこういう場所に入って行けるようになるといいなと思った。SIAFも含めて、これから日本との繋がりが更に強くなっていくので、一緒に新しいシーンを見ていきたいと感じた。コンサートもいつも劇場で行われておりしっかりしていたので、次はライブで参加したいと思った。
今回のWROで展示して感じたこと
最後に今回のWRO参加のメンバーそれぞれの感想で締めくくりたいと思います。
◆ハンナ
旧市街に点在する作品群。第二次大戦時かなりの戦渦を受け、市民の手で資料をもとに復旧されたという街の来歴も気になる。
今回前後のスケジュールがタイトで慌ただしい参加になり、十分に見ることができなかったのが残念だった。
◆堀部
アーティストと研究者のコラボ作品がいくつかあり、それらの作品には親近感がわいた。自分がアートとどう向き合うかを改めて考えることができた。
◆三宅
私達の作品は、その場で得られるホコリの構成要素が不明であるという特性上、実験を繰り返しながら調整し完成させていくという時間を伴う作業ではあるが、苦労すればするほど、ホコリが動き始めるのを見た時の感動が大きかった。
また、展示会場にいると、地元の学校の生徒が授業の一環で美術館を見学に来ているのを何度も見かけ、現地では美術と教育がしっかり結びついているのを感じた。美術館や博物館はその国の歴史や文化、宗教観、社会を知るための教育ツールとしてきちんと活用されており、良いアートを見る・知る・考えるという事は、より良く生きることに繋がっているのだと感じた。
日本のアートシーンでも、アートに興味のある人だけでなくもっと身近なものと捉えられるような作品づくりを目指して行きたい。
◆ノガミ
以前の展覧会から様々な要素を加えてアップデートし、機能上の制約で決まっていた事柄たちを見直し、コンセプトに近いかたちで展示する事ができた。そこに執着できなければ、作品はおぼろげなものになるし、自分の作品とは言えなくなるんじゃないかと、みんなとの制作で感じた。自分の作り出したものに責任を持ち、成長させていく気持ちを、これからも持ち続けていきたい。
今回の海外での展示をメンバー全員で行えたことは皆さまのご支援のおかげです。
この場をお借りして改めまして感謝申し上げます。
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