祭りの準備_vol.3
vol. 13 2015-04-12 0
日々、祭りの準備は進んでいる、そして確かな手応えも。
今回は、映画音楽作家としての僕の憧れであり、尊敬する作曲家の坂本龍一さんのことを書こうと思う。きっと坂本さんは嫌がるだろうけど・・・。今から15年ほど前、ちょうど坂本龍一さんとのテレビドラマ『永遠の仔』を始める少し前くらいだったような気がするのだが、僕はジャ・ジャンク監督の劇場デビュー作となる『プラットフォーム』という映画の音楽の作業をしていた。ホウ監督の『フラワーズ・オブ・シャンハイ』に続く2作目の映画音楽だった。ジャ・ジャンクのオーダーはいつも途方も無く難しいのだが、その時は確か、『表面には決して見せない中国人の心のなかの痛みや悲しみを音楽にしてほしい、それが我々の内なる歴史なのだ』というようなものだった。僕は自信を持って書いた曲を彼に聞かせたのだが、何か違うという返答。幾度かの書き直しをする状況に嫌気がさしていた。
僕は坂本さんに『こういう状況で・・・』というような愚痴にも似たメールを書いた。その時、坂本さんから届いた返事にはこう書かれていた。『僕もベルトリッチの時、何度も何度も書き直して、すごく悩んで苦しんだ。でも映画音楽を続けた。もし半野君がそれでも映画音楽をやりたいのなら続ければいいし、嫌なのなら辞めればいいと思う。』僕はこの言葉を読み、逃げ出そうとしていた自分の甘さを恥じた。
もしあの時、坂本さんの言葉が無かったら僕は映画音楽を辞めていて、今映画を創ることも無かったかも知れない。きっと坂本さんはこんな話は覚えていないと思う。でもその言葉で僕の人生は変わった。心から感謝し、それ以来、映画音楽作家として、遥か彼方に見える坂本さんの背中を追いかけているような気がする。(半野喜弘)