映画の想い出(1)
vol. 2 2015-02-01 0
20代の頃、僕は何でもできると思っていた。そして、30歳を目前にした頃、ホウ・シャオシェン監督の映画『海上花』の音楽を担当させてもらった事で、自分がいかに無知で無力であるかを痛いほど感じた。本物の天才を見てしまったのだ。それは嬉しくもあり、とてつもない挫折感だった。その映画で僕は初めてカンヌ映画祭の舞台に立った。レッドカーペットは場違いな気がして恥ずかしかった。その夜、浜辺でのパーティーの途中でホウ監督が『つまらないから、この浜がどこまで続いているか行ってみよう』と言い出し、トニーレオンと僕との3人で真っ暗な浜辺をずっと歩いた。その間、普段は無口なトニーがまるで子供のように監督に喋り続けていた、僕は意味は分らなかったが、とても楽しかった。やがて、監督が『やっぱり、何もないな。でも、楽しかった。』と笑い、僕たちは帰路についた。僕は、ぼんやりと『これが映画なんだ』と思った、何故思ったのかは分らない、ただそう思った。その時、監督は僕に『半野さんは、いつか映画をとるだろう。』と下手な英語で言った。監督はきっとそんなことは覚えていないだろう、僕はただ笑っていた気がする。でも、もしかしたらあの時から、僕の映画への夢は始まっていたのかも知れない。(半野喜弘)