4月24日(月)「会田誠の月イチぼったくりBAR」特別番外編 レポート(前編)
vol. 14 2017-05-08 0
4月24日(月)、神保町の美学校で、「会田誠の月イチぼったくりBAR」特別番外編として「根本敬ゲルニカ計画」のキックオフイベントが行われました。
幕開けは映画『トゥモロー・ワールド』(監督:アルフォンソ・キュアロン/2006年)のワンシーンから。
この作品は人類が生殖能力を失った2027年のイギリスを舞台にした近未来SF。EU崩壊。移民排除。それに対抗する反政府勢力。人間の子供が生まれなくなってしまった世界。つまり、今生きている人が死ぬと、人類終了。BGMはキングクリムゾン「クリムゾンキングの宮殿」。劇中、紛争状態の世界各国から芸術省のあるロンドン・バタシー発電所に集められており、ピカソの「ゲルニカ」が印象的に使われています。
映画で描かれるロンドンの街角に「人類が滅んでしまうので新しい精子を提供できないか」という広告が出されているなど、根本さんの代表作『未来精子ブラジル』『21世紀の精子ん異常者』などとも通じるところが多く、今回の企画を象徴する作品といえるのではないか、ということでイントロダクションとして上映されました。
▲根本敬『亀ノ頭のスープ』(青林工藝社)より。
司会を務めるのは今回の「ゲルニカ計画」の発案者でもある太田出版の編集者・穂原俊二さん。会田さん、根本さんを呼び込んだ後、前半は主に根本さん自身による過去の作品紹介。
根本さんのマシンガントークに、会田さん「ロフトプラスワン的でいいですねぇ」と合いの手を入れつつ、「根本さんはとにかくタイトル付けがうまいので、実は今回の新ゲルニカはタイトルも期待しているんです」といったコメントも。
ちなみに会田さんが特に凄いと思うタイトルは『豚小屋発犬小屋行き』だそうです。
その後も、『心機一転土工!』はスポーツ新聞の求人広告に書かれていたフレーズをそのまま使ったものという話や、根本さんの文字系の代表作である『因果鉄道の夜』の初版の色校でタイトルが「困果鉄道の旅」になっているのに気づいて慌ててカバーを刷りなおしたエピソードなど、タイトルにちなんだ話題をはじめ、様々な因果エピソードが語られて前半終了。
▲参加者には会田さん特製豚汁とおにぎりがふるまわれました。出汁が効いていて本当に美味!
休憩をはさんで後半は、「根本敬ゲルニカ計画」についての解説からスタート。企画が生まれたきっかけや、会田さんが画材アドバイザーを務めてくださることになった経緯などが語られました。
会田さん曰く、
「今回の絵はちょっと普通の住環境では作れないくらいのサイズで、そういうものをやった経験が僕にはあるので、そこに関してならアドバイスできることがあるかも、と思って引き受けました」とのこと。これに関しては、レポート済みのキャンバス張り当日、スタッフ全員が実感しました。
さらに、「大きい絵を描くとき、実は一番しんどいのは“足”。踏み台を上り下りしたり、全体像を見るために移動したりするので、ちょっとした登山くらいの辛さ」という言葉は、おそらくこれから根本さんが実感されることでしょう。
特に興味深かったのは、会田さんによるPainting(塗り)とDrawing(線画)のお話。
欧米の美術界では「これはDrawingなの? それともPaintingなの?」と問われることが多いそうです。日本語ではどちらも「絵」で表現できるのに対し、英語では言葉そのものがDrawingとPaintingとに分かれている。そして言葉の違いそのままに、絵にはDrawとPaintの2種類があり、その間にはなんらかの壁があって行き来をするときに抵抗感が生じる。少なくとも会田さんにはそういう実感があるそうです。そして根本さんがPaintをする際には、やはりこの問題が出てくるでしょう、と。
とはいえ会田さんはDrawとPaintの間の抵抗がなければいいと思っているわけではなく、この問題は美術的にとても興味深いことであり、それゆえにこの企画をお手伝いしたいという気持ちにもなったし、『美術手帖』のコンテンツとしても面白いのではないか、とのこと。
この「PaintingとDrawingの間に存在する壁」というテーマは、おそらく今回の「根本敬ゲルニカ計画」にとっての通奏低音なのではないかと思います。 (「後編」へ続く)
(岩根彰子)