《美しきフェロニエール》髪型についての考察
vol. 1 2026-09-15 0
ご覧頂きありがとうございます。
今日は《美しきフェロニエール》、描かれている女性の髪型についての考察です。
この髪型、後ろはどうなっている?
レオナルド・ダ・ヴィンチの《La Belle Ferronnière(美しきフェロニエール)》を修復していて、ふと気になったことがあります。
それは、**「この女性の髪は、後ろではどうなっているんだろう?」**ということです。
正面から見ると、髪型はとても印象的です。
額のあたりから髪を左右へきれいに流し、顔の両側に沿わせています。左右の形も整っていて、髪の一本一本を細かく描くというよりも、大きな面として髪の流れを捉えているように見えます。
この整った髪型を見ると、どこか意志の強さを感じさせる女性にも見えてきます。
もちろん、髪型だけから人物の性格を判断することはできません。
それでも、顔の表情だけではなく、髪のまとめ方や衣服、姿勢まで含めて見ていくと、この肖像画から受ける印象は少し変わってきます。
では、後ろの髪は?
そこで画面を少し細かく見てみました。
正面から見える髪は、左右にきれいに流れている。
ところが、頭部の後ろ側、肩の近くにわずかに見えている部分を見ると、髪をまとめているような描写があります。
私には、それが単に髪を後ろへ流しているというより、編み込んだ髪のようにも見えました。
もちろん、この小さな描写だけから「この女性は編み込みの髪型だった」と断定することはできません。
しかし、そう考えて改めて作品を見ると、正面から見えていた整然とした髪の流れにも、別の意味が見えてきます。
前から見える部分は非常に整えられていて、後ろでは髪をまとめている。
つまり、この髪型は「自然に髪が流れている」のではなく、かなり意識して整えられた髪型だったのではないかとも考えられます。
肖像画では「髪」も人物を表す
肖像画を見るとき、私たちはどうしても顔に目を向けます。
目、口、鼻、表情……。
しかし、人物を形作っているのは顔だけではありません。
髪型、衣服、装身具、姿勢、背景。
それらを一つずつ見ていくと、画家が人物をどのように見せようとしていたのかが少しずつ見えてきます。
《美しきフェロニエール》でも、額から左右へ流れる髪の形は、顔の輪郭を強調すると同時に、視線を自然に顔へ集めています。
そして後ろ側の髪をどのようにまとめているのかを想像すると、この女性がどんな身なりでこの肖像画に向き合っていたのか、さらに興味が湧いてきます。
デジタル修復だから見えてくるもの
今回のデジタル修復では、こうした細かな部分もできるだけ確認するようにしています。
もちろん、見えなくなってしまった部分を想像で描き足すことはしません。
現在残っている画像の中に何が描かれているのかを確認し、色の変化や汚れ、ひび割れなどによって見えにくくなっている部分を整理していきます。
そうすると、修復前には気づかなかった小さな描写が目に入ってくることがあります。
今回の「後ろの髪」も、その一つでした。
「髪型を修復する」というより、髪型をもう一度よく見る。
デジタル修復をしていると、そんな瞬間があります。
そして、一度気づいてしまうと、もう以前と同じようには作品を見ることができません。
この女性の髪は、本当は後ろでどのようにまとめられていたのでしょうか。
編み込んでいたのか、それとも別の方法でまとめていたのか。
今残されている小さな描写から想像するしかありませんが、そんなことを考えながら500年以上前の肖像画を見るのも、名画の楽しみ方の一つなのかもしれません。
今回のデジタル修復では、こうした細部にも目を向けながら、《美しきフェロニエール》をもう一度見つめ直しています。
