7/24 ~デ・ニーロになれない僕と映画~『ラスト・ベガス』
vol. 25 2020-07-25 0
『ラスト・ベガス』(2013)
監督:ジョン・タートルトーブ 脚本:ジョン・クレア
あらすじ
幼馴染のおじさん四人組。体のあちこちが痛むサムと脳梗塞で死にかけたアーチー、妻を亡くし孤独に暮らすパディ、そして自分より40歳近くも若い女との結婚を控えるビリー。ビリーの挙式の前祝いにと、四人はラスベガスで久しぶりに集結する。
若い女の子をナンパしたりカジノで大儲けしたり、酒にダンスにケンカにと、年を取って出来なくなってしまったことを今宵だけはもう一度と、体を奮い立たせて豪遊するおじさんたち。
しかしパディだけは不服そうに一人で塞ぎ込んでいる。それは数年前のビリーとの不和を未だ解消できていないからだった。
ロバート・デ・ニーロを初めて観たのは『マイ・インターン』だ。憧れの先輩に勧めてもらった映画だった。モノマネでしか知らなかったロバート・デ・ニーロは既におじさん。毎朝用意するハンカチを、涙する女性にスッと差し出す素敵なおじさんだった。
ダンディ・デ・ニーロの若い頃を求めて『ゴッドファーザー』シリーズを観た。ロバート・デ・ニーロのしわがれた声は、僕の鼓膜を通って脳みそのしわを増やした。
『レイジング・ブル』の二時間でロバート・デ・ニーロは体型をコロコロ変えた。僕は年々ズボンに乗っていく腹をつまんでランニングウェアを買った。
ロバート・デ・ニーロが正義らしい狂気に憑りつかれていく『タクシードライバー』。世間を呪いながら世間に対して何のアクションも起こせない自分を呪った。
ロシアンルーレットを生き抜いた帰還兵や栄華を誇り衰退していくギャング。ロバート・デ・ニーロは逞しく、時に狂おしくスクリーンを彩っていた。
そんな名優も老いた。本作で演じるのは、先立たれた妻の写真を並べた一人暮らしの家に籠城する頑固で気難しいおじいさん。
そして昨年のヒット作『JOKER』。ロバート・デ・ニーロが主演を務めた『タクシードライバー』などへのオマージュが込められていると言われるこの作品で、老いた名優は次世代の主人公に撃たれて絶えた。
だけど僕たちは、この世界は名優と永遠に別れることはない。無限にあるともいえる映画から探して選んで再生すればいつだって会える。そうだ。映画は出会いだ。別れのない出会いだ。
ある映画で好きな俳優と出会う。その俳優の出演作を辿っていくとまた違う俳優に魅せられる。その映画の監督が撮った他の作品を調べてみれば、タイトルだけ知ってる名作に繋がって、ようやく見てみようという気になる。エンドロールで流れた曲を気に入って、それが通勤中のBGMになる。話題の映画の話をすれば、新作を一緒に観に行く約束ができる。
劇場や家で2,3時間画面に張り付いているだけ、それだけなのにこんなにも世界を広げてくれる映画が僕は好きだ。そして僕もその世界の内側へ足を踏み入れたいと思っている
『マイ・インターン』を観る前と後では僕の映画体験はかなり変化した。邦画のほのぼのしたのを愛でていたいなぁなんて思っていた井の中の蛙。ロバート・デ・ニーロを知ってからは、彼の出演作を追うのと同時に色んなジャンルの映画へ食指が動くようになった。
だから、映画の更に広い世界へと僕を導くことになったあの憧れの先輩との出会いも、僕にとっては忘れがたいものだ。いつかどこかで再会したなら、僕はスッとハンカチを取り出してみせる。それを使うのは、おおかた自分自身であろう。
髙野亮太郎
(毎週読んでくれてた方がいらっしゃったなら嬉しい限りです。
ありがとうございました!)