「仮設の映画館」が稼働開始します。
vol. 15 2020-04-24 0
みなさま、こんにちは。
以前にこちらでもご紹介しました「仮設の映画館」の続報がリリースされました。
既報だった想田和弘監督の新作『精神0』の他に、発起した配給会社 東風さんの作品以外にも、配給6社(ムヴィオラ、ユナイテッドピープル、シマフィルム、ノンデライコ、ニコニコフィルム)が加わり、現時点で9作品がラインナップされています。
これらは、現時点では映画館以外では観られない作品です。それをご自宅に居ながらで観て頂けます。
4/25(土)より試運転ということで、『春を告げる町』の上映(と云う名の配信)がはじまります。こちらは3月に京都シネマで公開されたのですが、出町座でも上映したいなぁ〜と思っていた素晴らしい作品で、今回「仮設の映画館」では出町座も上映館に加えて頂いております。この作品、今観るのにとても良いのではないかという気がします。ビジュアルとか予告編ではそう感じる要素が少ないので意外かもしれませんが、とても「面白い」作品です。これが人間だよね、というふうに思いたいし、そうあろうと思う。そんな希望を感じて頂けたらと思います。というわけでみなさま、ぜひご自宅で上映をおたのしみください。
ご覧になる映画館が選べますので、おなじみの劇場でもいいですし、まだ行ったことがない(いつか行ってみたい)劇場でもいい。一律1800円ということで、どうしても会員さんやシニアさん、手帳割の方や学生さんなど、通常よりも高い設定になってしまって申し訳ないのですが…。ただ、もし出町座会員さんでしたら、出町座上映ページで鑑賞された際のお写真を撮っておいて頂いて、後日出町座の受付でご提示頂ければ、会員証のスタンプ押しますので!
出町座ではこちらの4作品が現在「仮設の映画館」での上映が決まった作品です。上映途中で止まってしまった『どこへ出しても恥かしい人』、昨年上映したヤスミン監督の『タレンタイム』、チベット映画第一世代の最前線、ソンタルジャ監督の『巡礼の約束』。3月のフィルメックス特集でのペマツェテン監督作『オールド・ドッグ』『タルロ』観て下さった方は必見!
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さてここまで読んでくださって、薄々気づいている方もいらっしゃるかと思うのですが、出町座は当方シマフィルムが運営しておりまして、つまり上記の映画『どこへ出しても恥かしい人』製作・配給もやっております。今回はこちらの「仮設の映画館」に配給会社と上映館として参加させて頂くことになったというレアケースですね……。ですので、「配給会社」「映画館」どちらの立場の見え方あり(どちらの仕事も私がやっているので…)、今回は配給会社からの視点をちょっと書いておこうと思います。
配給会社としてのこれまでの経過をざっと書きますと……
『どこへ出しても恥かしい人』が2/1(土)に東京の新宿ケイズシネマにて公開スタート。作品としては、ミュージシャン・アーティスト(唯一無二すぎる友川カズキさん!)を追ったドキュメンタリー映画なので、映画ファン向けというよりはそのアーティストのファン、そしてそのカルチャー界隈に向けたPRを中心に考えます。また作品のサイズとしても非常に小さな規模での公開なので(配給スタッフは私ひとりですし)、まず東京の劇場を決めて、そこをいかに盛り上げるかで地方の劇場のブック交渉の材料とする考えでした。大きい規模の映画が取る「全国一斉公開」ではなく、いわゆる「全国順次公開」という形です。つまり「東京で○週間上映でこれだけの動員、これだけの興行収入がありました。客層はこういう世代、傾向で、こういうイベントやこういうキャンペーンを張ると効果的です。だから試算するとこちらのエリアだとこれくらいの動員規模にはなるんじゃないでしょうか」という要素をリアルに提示できるように、ということですね。
で、東京では当初3週の予定だったんですが、初日舞台挨拶アリで2回上映とも満席、映画の面白さ(そのほとんどは友川さんご自身の面白さなんですが)もあって、盛り上がりが感じられたので、ケイズシネマさんとの話で4週間やろう!ということになりました。その時点で、主要な都市の劇場、これまでもお世話になっている劇場さまにお声がけしていきます。同時に、友川さんのライブも、東京や他の地方も決まっていくので、ライブ遠征と劇場上映がうまく時期を合わせられるようにというすり合わせもしていきます。また数年前に遠藤ミチロウ監督・主演ドキュメンタリー『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』もウチで製作配給しているので、その流れで、ミチロウさんの映画でお世話になった劇場さんへブックをかけていこうという考えもありました。で、4月頭に友川さんの大阪なんばのロフト・プラス・ワン・ウエストでのワンマンライブが決まり、それを映画公開記念ライブとして大阪の劇場公開をあわせる、といった調整をかけていきます。関西以外の地方劇場のブックもちょっとずつやります。友川さんサイドとも東京の上映を盛り上げるイベント(大穴狙い競輪予想会を2度もやりましたね…)をご相談したり、地方のライブ予定をすり合わせたりと並走します。
ただこれ言い訳なんですが、私、出町座もやってるので、どうしてもちょっとずつになってしまうんですね。本来は一斉にお声がけしなきゃならないのですが…ということでこの時点でまだお声がけ出来ていない(したいけど手が追いついていない)劇場さんがいくつもあります。で、そうこうしているうちに東京公開の後半には新型コロナウィルスの影響が出始めてきます。友川さんのライブも3月、4月とどんどんキャンセルになっていきます。東京公開の予定期間はなんとか終わりましたが、追い上げがまったく出来ず、名古屋、横浜、大阪、京都の上映へと流れていく頃には、何も出来ぬままに上映予定が走り、日々の上映はだいたい一桁の入りが続くという状態。友川さんには舞台挨拶出てきて頂くわけにいきませんし、小さい規模の作品なので大きな広告を打ったりも出来ません。新聞などの媒体記事でご紹介頂いたりをなんとかねじ込むくらいですが、そもそもこの時点で「皆さん劇場へお越しください!」と言えないわけで、「お越しの方はくれぐれもご自身の体調を見極めてくださいませ。ご無事をお祈り致します」というなんとも情けないお声がけしか出来ないつらみ。SNSですら宣伝ができません。とにかく為す術なく日々の上映回は消化されていき、それぞれの劇場さんのことも心配だし、こんな数字ですみませんというしかない。
そして4月上旬〜中旬には上映中の劇場自体が休業となり、興行の流れも止まりました。これからお声がけしようと思っていた地方の劇場さんにも、この状態ではご連絡できません。いつ劇場が再開できるかもわからないなか、みなさんそれぞれの場所を維持するために奔走し出している状態です。休業中ヒマでわけはなく、家賃交渉、スタッフの雇用をどうするか、公的支援について探ったり、雇用調整の手続きや各所とのやり取りでてんやわんやですから。ウチ(出町座)もそうだし。
配給会社としても、映画館での興行でお客さんに映画を観てもらってはじめて収入が得られます。劇場と収入をわけて、その取り分で製作費、配給宣伝費を回収していく。基本的に劇場公開用として制作された作品は、製作費の8割がたを一次(劇場公開の収入)で回収しないとキツイです。今回は楽曲使用料も友川さんの曲にかかると同時に、友川さんがちあきなおみさんに提供した名曲「祭りの花を買いに行く」(超名曲!)も劇中で使用しているので、それも高かった…。製作費にはそうした経費も含まれています。
二次利用(ソフト化、放送・配信)はまた幾分かの収入にはなりますが、規模が小さい作品だとそれも小さいので、いかに劇場でお客さんに観て頂くかにかかっているのです。そこがじわじわと、そして最後に完全に息の根を止められてしまった…という4月。無論、製作費の回収は出来ておりません。こうしたアーティストの映画は、劇場公開のあとに(あるいは並走して)、ライブと上映をかけあわせたライブハウスやホールでのイベント上映というものも重要な収入源になるのですが、それもこの状態ではゼロです。
本作の規模ですと、だいたい全国で20劇場、20イベントくらいで興行してやっと製作費回収するかどうかというところですが、東京と愛知の2劇場の上映までで動きが止まったので(その上映自体も通常通りとはいかない成績)…後はお察しくださいと言うしかない状態です。
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ここで、彼の国アメリカの様子をみてみましょう。
アメリカも3月から全国の劇場が閉鎖になり、新作の公開が次々と延期の報道が畳み掛けられました。その中で、劇場公開を断念して「配信」に移行する作品も多くあったんです。つまり、ざっくり分けると、大きな作品は公開延期に。中小規模の作品は公開を回避し配信に。という分岐点が生まれました。後者の中には、一般客が配信で視聴する際に「本来だったらどこの地域のスクリーンで観ていたか」を選択してもらい、それによって劇場への収入分配になっているという情報も目にしました(ただこれはあくまで一部で実施されている限られたケースです)。なるほど。それですべての映画産業がうまくまわっているわけではなかろうものの、そうした形態は現状に対するひとつの施策になりうるだろう。ここ日本でも。
そうこうしている時にこの「仮設の映画館」立ち上げの報が飛び込んできて、「来た!」と思いましたね私は。疾風のように東風の木下さんに電話して話をうかがいました。木下さんはアメリカに倣ってということではなく、あくまで想田監督と東風スタッフさんたちと話し合った結果、こうした形を立ち上げてみようということになったとお話してくださいましたが、これに賛同する劇場、配給会社はどんどん集まってもらえれば、という姿勢は最初から一貫してらっしゃいました。例えばシステムを立ち上げた東風さんが、他の配給会社が「仮設の映画館」を使用するのに手数料を徴収するかというと、そういうこともまったくない。必要経費はみな一様にかかるvimeo有料視聴にかかる経費とJASRAC等への配信にかかる楽曲使用料などのみです。その「場=器」自体は作るけれども、後は基本前提を共有して、それぞれの配給=劇場で「興行」を打っていきましょう、というスタンス。つまり、これまでの「興行」が打てない現在、それでも少しでも、仮想でも仮設でも、観客、劇場、配給、製作者の関係から成り立つ「興行」の形を維持しよう。そういうアクションなのです。このまま何もしなければ、為す術なくこの未曾有の大波に飲み込まれてしまう。企業としては、劇場公開を諦めてソフト化や配信等の「二次利用」に舵を切って、少しでも流れる血を押し止める行動に出ることが正解かもしれない。でも、やれることは本当にそれだけしかないの?そうじゃない。わたしたちがこれまで培ってきた映画文化は、こっちにあるはずじゃないか。
「仮設の映画館」に配給会社としても参加させて頂くことになり、みるみる全国的に休館が相次ぐ状況になり、ご連絡を躊躇していた劇場さまへもお声がけをしています。すばやく呼応してくださるところもあれば、そうはいかないところもあります。「今は対応できなくてごめんなさい!」というところもあります。みなさん、それぞれの戦いをしています。すでに予定の上映を終えた劇場(ケイズシネマさんや、名古屋シネマテークさん)にも加わって頂きました。上映はしていても、観に行けなかった方もいらっしゃるだろうから。そして、『どこへ出しても恥かしい人』の「仮設の映画館」参加館には、映画館ではない「APIA40」さんも入っています。APIA40は東京のライブハウスです。遠藤ミチロウさんや友川さんが主戦場にしているハコです。今、ライブハウスもすべての公演がキャンセルになり、APIAでやるはずだった友川さんのライブも複数キャンセルになっています。いつか本作の上映と友川さんのライブをセットにしたイベントができたらいいなぁと思っていたこともあり、イレギュラーですが今回の参加劇場として加わって頂きました。いつもAPIAでライブを楽しんでいるみなさんにも、今はライブは無理だけど、本作をAPIAにいるイメージで観て頂けたら。そういう意図です。
当方の【未来券】のご購入や【ミニシアター・エイド】へのご支援も、多くのみなさまから多大なるお力添えを頂いていて、本当に感謝にたえません。と同時に今、観客のみなさんにご支援頂くだけでなく、映画を観る=観て頂くという関係性を築くことを維持できないか。そういう思いもあるのです。
これについて「やっぱり映画館で映画を観るのと違う」と感じられたり、「鑑賞料金に映画館の環境代が含まれてないのに1800円?」と思われたりすることもあるかと思います。
そういったご意見やご感想も受け止めつつ、運営していかねばなりません。ですが、いまのこのアクションは、やがてみなさまに映画館で映画を楽しんで頂ける日が来るまでのものです。
仮設の映画館で作品をご鑑賞頂く際には、こちらのマナーCMが付きます。
こちらをご覧頂ければ、その思いも伝わるのではないかと思います。
どうぞご理解のうえ、明日からの上映スタート、見守って頂ければ幸いです。
『春を告げる町』、素晴らしい作品ですよ。
出町座/シマフィルム 田中・拝
〔仮設の映画館〕オリジナルマナーCM
制作:restafilms 監督:北川帯寛 ナレーション:岡崎真紀子(ユーロスペース) アニメーション:石川正史 編集:遠山慎二 音楽:遠山聖子 アートディレクション:成瀬慧 写真提供:全国の映画館スタッフのみなさん
◆ポータルサイト運営 http://www.temporary-cinema.jp
合同会社 東風
ーーーーーーーーーーーーマナーCM ナレーション原稿ーーーーーーーーーーーー
ご来場まことにありがとうございます。 上映中は出来るだけ、携帯電話など音の出る電子機器は電源をお切りください。 また、上映作品の撮影、録音、録画などは固くお断りします。 もうひとつ、ご来場の皆さまにお願いがございます。状況が改善したら、ぜひ〔本物の映画館〕に足をお運びください。ここは〔仮設の映画館〕です。 それでは、どうぞ最後までごゆっくりご鑑賞ください。
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