「人は失敗もする」ことを受け入れ、対人援助を続けること 〜中田雅久さんとの対談〜
vol. 14 2023-07-17 0
【映画「過去負う者」NEWS 】7-17-2023 舩橋淳
罪に問われた障害者への支援をしている東京TSネットの共同代表・弁護士の中田雅久さんとお話ししてきました。
障害のある人が刑事事件に至ってしまう背景には、適切な支援につながっていなかったという事情があることが多いそうです。
東京TSネットでは、罪を犯し被疑者・被告人となった障害者に、刑務所へ入所する前に様々な福祉的支援を行う「入口支援」。それ以外にも、受刑して出所した後、その人がその人らしく地域で暮らせるよう、時には福祉や心理の専門家が一緒に相談し、サポートしてゆく「出口支援」。両方を行われているそうです。
山本譲司さんの「獄窓記」(2003年)で、刑務所の中にいかに障害者と高齢者が多いのかということを指摘し世間で注目をされたそうですが、依然解決は見えない難しい問題です。
中田さんたちが大切にされているのは「対人で相談に乗ること」。
「犯罪に追い詰められてしまう人は、大ごとになる前に相談するのが苦手な人が多い。困っていても「こんなことで相談できない」と抱えてしまい、どんどん自分で自分を追い詰めてしまう。それは自分なりの見栄があったり、スキを見せたらヤられるという力関係の中にあったり、もしくは、障害により知的能力に制限があることで、相談すること自体が苦手だったりします」(中田さん)
自分は本当は嫌でも更生支援で勧められた仕事を受けてしまい、仕事に就いたら長続きせず辞めてしまったり。だからこそ、本人がどのように生きたいのか、どんな暮らしがしたいのか、心を武装解除して相談できる場を作ることが大切とのことです。
「刑務所の中は「勝手にしゃべるな!」という抑圧的な締め付けにより、個人の自主性、自由意志をどんどん剥奪してゆくシステムで、その中で生きた受刑者が、刑を終え娑婆に出た途端、『今日から自分ひとりで自由にどうぞ』では、本人は戸惑ってしまう。」(中田さん)
懲罰主義の日本の刑務所制度の根本的な問題だそうです。
精神疾患がある人は、職場に行くことがすでにしんどい、という人も。
それなのに無理やり就職してもらっても、破綻してしまうことも多い。そういう場合は生活保護の申請に同行するなど、無理して働かなくとも生きていける暮らし方をサポートするそうです。
また、本来は、刑務所の中で、自炊など生活能力を養うプログラムを実施したり、まずは人とちゃんと話せるようコミュニケーション能力向上のためのセラピーを受けてもらったりすることが必要ではないかとも問いかけます。
本人と向き合って状態を把握し、医療的なアセスメントも行い、そして最も大事なのが本人の意思をちゃんと聞き取り、その人にあった働き方や暮らし方を見出してゆくサポートをすることこそ、この社会に必要な支援ではないか、ということでした。
ポイントは、あくまで対人援助、対人相談に時間をかけること。
ガチガチの計画書を作ってプラン通りに、「決めたんだからやりなさい!」と強要する考え方をする人もいるそうですが、そうではなく、個人個人できることもやりたいことも違うわけだから、制度ありき計画ありきではなく、本人ありきの「人に寄り添う支援」こそが重要だそうです。
「罪を犯す奴は、たるんでいてけしからん!正すべし!というイデオロギー先行ではなく、人間は失敗もする、時には欲望に憑かれて悪いこともする、私自身もそうだし、みんなもそうではないか。そこからのやり直しに付き合うことこそ、誰も取り残さない優しい社会ではないか」と中田さんは言いました。
これは時間も熱量もかかること。いやぁ、本当に頭が下がりました。
中田さん、すごいことをされています。
(舩橋淳・「過去負う者」監督)
東京TSネットHP: https://tokyo-ts.net/