製作日記13『アメリカで映画を学ぶメリット・デメリット』
vol. 13 2018-10-01 0
こんにちは。更新が遅れてしまい申し訳ありません。今週はハプニング続出で、毎日問題に対処し続ける日々でしたので、記事を書く暇がありませんでした。ようやくひと段落つきましたが、まだまだ油断できません。頭フル回転状態です。
さて、今回の記事は前回の記事の続きとなっています。アメリカでどんなことが学べるか少しはわかっていただけたかと思います。では私が個人的に感じたメリットとデメリットをご紹介しましょう。あくまで私個人の意見ですのでご了承ください。
映画学部の廊下に並ぶサイン入りポスターの数々
アメリカで映画を学ぶメリット
ハリウッドで映画を作る仕事をしたいとか、映画製作を本気で学びたいと思っている人は、アメリカの映画学部に入るべきです。日本では学べないことが多すぎると思います。
1 ハリウッドでバリバリ働く現役のフィルムメーカーたちから講義を受けられる
2 細分化されたそれぞれの分野の技術を、理論的に、実践的に学べる
3 ハリウッド業界ならではの慣習が自然と身につく
4 本気で映画製作をしたい学生に囲まれる
5 英語がつかえるようになる(洋画が字幕なしでみれるように!)
6 映画製作する環境が国、街レベルで整っており、あらゆる手続きがスムースに進む
1 ハリウッドでバリバリ働く現役のフィルムメーカーたちから講義を受けられる
非常に刺激的で、実践的な講義が受けられます。日本でアカデミー賞に出席したフィルムメーカーから講義を受けることはなかなかできません。しかし、こちらではハリウッドで働いている講師から直接指導を受けることができます。例えば、私が前期に受けた講義の教授のアレックス(Alexandra Rose)はオスカーにノミネートされたプロデューサーですし、マーケティングの教授はロードオブザリングシリーズのマーケティングを請け負い、ジム・ジャームッシュの「ダウン・バイ・ロー」でエグゼクティブ・プロデューサーだったラッセル教授(Russell Schwartz)だったりと、一流の講義が受けられるのは、こちらでしかできないことだと思います。
2 細分化されたそれぞれの分野の技術を、理論的に、実践的に学べる
前回の記事で書かせていただいたように、あらゆる映画制作に関する知識・技術・経験を体系的に学べます。映画学部の歴史は非常に長いので、そのカリキュラムは洗練されています。とくに知識だけでなく、実践が多いのが特徴だと思います。
3 ハリウッド業界ならではの慣習が自然と身につく
例えば映画スタジオでキャリアをスタートした際に最初に求められる技能は何かわかりますか?カバレッジを書く能力です。
カバレッジとは何か。大きな映画スタジオには大量の脚本が集まります。しかしプロデューサーや監督はそれに全部目を通す暇は全くありません。そこでインターンや新入社員がひたすら脚本を読みまくり、3ページほどのまとめを書きます。ただのあらすじのまとめではなく、この映画を作る価値があるか、何が問題か、などカバレッジにも書くフォーマットがあり、それを知らないと全く使い物になりません。
そのような業界に入った時に必要な慣習を自然と学べるのです。
なかなか日本で映画を学んでもハリウッドの慣習やコネを知ることはできません。日本で映画を作って世界に行ける人は本当に優秀な監督だけでしょう。もちろん黒沢明、小津安二郎、溝口健二、成瀬巳喜男、北野武、今村昌平、市川崑レベルの才能があれば日本で映画を作っていても世界に羽ばたけます。またCGやアニメーション、特殊メイクなどの特殊な技術がある人も通用する可能性があります。
しかし、圧倒的な才能はないけど、それでも世界で映画制作に関わりたいと思うなら、こちらの映画学校に入るのが一番手っ取り早いのです。ハリウッドで映画を作ろうにも、アメリカの学生が若い頃から学んできている講義のレベルや、経験値があまりにも高すぎるし、業界の慣習・文化・法が違い過ぎて、なかなかその業界に外の国から入り込むことは難しいからです。
才能のないひとこそアメリカで映画を学ぶべきです。努力だけでいくらでも映画製作の技術は学べます。日本では才能のない人が映画を学ぶにはハードルが高すぎます。
4 本気で映画製作をしたい学生に囲まれる
全米から集まった本気でフィルムメーカーを目指す超優秀な学生たちに囲まれます。彼らはみな映画の業界に進むことが当たり前の環境です。さらに卒業生たちとの繋がりもできます。映画業界は完全にコネの世界です。そのコネを作るにはアメリカの映画学校に入る以外に方法はありません。
5 英語がつかえるようになる(洋画が字幕なしでみれるように!)
留学して語学学校に入れば英語が身につくと思いがちですが、実際はネイティブと話す機会は一切ありません。周りの学生は皆海外からの留学生。全員が同じ立場で、英語が第二外国語。なんとなく自分の英語で外国人とコミュニケーションが取れることで、英語が話せるようになったと勘違いしがちですが、それは皆が留学生からだから。ネイティブの会話の中に放り込まれると、とたんに何を言っているのかわからないし、また自分の発音がまったく通用しないことに気付かされます。
しかし大きな大学に入ってしまえば当たり前ですが、周りはネイティブのアメリカ人しかいません。もうネイティブとしか話す機会がなくなるので、いやでもリスニング、スピーキングの能力があがります。また大学であれば山ほどのテキストを読み、山ほどのエッセイを書かされるので、リーディング、ライティングも劇的に向上します。またもちろんですが、映画を字幕なしで見られなきゃ、なんもできません。いつのまにか全部の英語能力が無理やり引き上げられます笑 (とはいえ、私はいまだに話せるようになったとは言えません... もっと勉強せねば)
6 映画製作する環境が国、街レベルで整っており、あらゆる手続きがスムースに進む
日本の映画業界ももちろん素晴らしいと思います。特に2Dアニメーションに関しては世界一でしょう。ただ、なかなかブロックバスターフィルムと呼ばれる高予算の実写映画を作るのはなかなか難しいのが現状です。なぜなら市場が小さいからです。そしてこちらにいてとても悲しくなるのが、日本の映画市場がいまやアメリカからまったく相手にされていないことです。映画市場もガラパゴス化しています。それが悪いことだとはまったく思いませんし、むしろ独自の市場であることは良いと思います。しかし市場の大きさが広がることはありません。
さらに日本で映画をとる環境が整っていないのは大きな問題だと思います。ハリウッド映画を見ているときに、日本が舞台になっているのに、実際は変な日本語と中国語が混じった怪しいアジアの街で、全然日本じゃないと笑ったことはありませんか?
例えばパシフィック・リム2でも、怪しい日本が舞台でしたね。ところがこれはアメリカが100%悪いとはいえないのです。むしろ日本のせいでこんなことになっていると知っていましたか?
アメリカのフィルムメーカーたちは日本が大好きなことが多いです。黒澤明や宮崎駿、大友克洋や小島秀夫など日本のクリエイターたちがハリウッドのフィルムメーカーに与えている影響は多大です。ハリウッドの監督たちは本当は日本で映画の撮影がしたいのです。オーセンティックな日本の街や自然を使って映画を撮りたいと思っています。
ところが日本で撮影する際は、許可をとる過程が非常にめんどうで、多大な費用がかかります。国から映画製作に対する補助が一切ありません。そんなときに、中国や東南アジアの国々が、うちで撮影したらとっても安く済むよと声をかけてきます。税金は免除するし、撮影の手配もこちらが全部済ませますから、自由に使ってくださいと。それならそっちでいいか、VFXでなんとかなるし...といった具合に日本が舞台なのに撮影地が日本ではないという事態が起きているのです。
これがどれだけ大きな観光資源の流出に繋がっているか日本の政府が理解しているとは思えません。映画の撮影地はそれだけで観光地になります。それを理解しているアメリカの各州は、映画制作に対し、こぞって税金免除や支援を行い、映画のロケ地として使ってもらおうと努力しています。それはアメリカだけではなくアジアの各国も同じ。映画の撮影地として使われる多大なメリットを知っています。ところが日本はそれがない。大きな利益損失を招いています。
ということで、日本とは違い、アメリカは映画制作に関して寛容なので、どんなに小さなインディーズ映画であっても、きちんと手順を踏めば、すべてをスムースに進めることができるのです。
セッションやララランドの監督の最新作Firstmanを一足先に学校の試写会でみました。事前に最新作の試写会が行われるのも映画学部の特権ですね。
アメリカで映画を学ぶデメリット
1 資金
2 語学
3 カルチャーショック
1 資金
まずは資金でしょう。留学にかかる費用や、映画学部はべらぼうに高いです。
しかしその分奨学金もめちゃくちゃ充実しています。全額免除や、多額の奨学金を得ている学生はたくさんいます。日本のように返す必要はありません。お金がなければ勉強さえすれば補えます。本気で学ぼうとする学生にはアメリカは答えてくれます。
2 語学
次に語学。英語ができなければ授業もわからないし、映画製作の現場でも使い物になりません。
これはとにかく早いうちに英語を学び始めることです。10代のうちに留学ができればほぼ問題ないと思います。なんとかなります。留学が難しければインターナショナルスクールに通うという手もあるでしょう。インター出身の日本人がそれなりに通用しているの見ます。でも私はインター通っていないので実情はわかりませんが。
20代過ぎてからだと、ネイティブになるのはほぼ難しい気がします。私は20代半ばでこっちに来たので、無理やり英語を身につけています。それでも普通にコミュニケーションがとれ、学校の講義は全く問題なく理解できるレベルになるので、とにかく勉強すればなんとかなるということです。映画を学びたいという熱い気持ちがあれば、語学など勝手について来ると思います。
(あくまで最低限の英語力のことをいっています。私はいまだに喋る方はぜんぜんです。
ちなみに日本ではTOEICの点数が謎に神格化されていますが、あんなもん英語力のなんの基準にもなりません。もしTOEICの点数で英語力を誇っている人がいたら、その人は間違いなくニセモンでしょう。満点とっても英語ができるとは思えません。英語が本当にできる人がTOEICを受けたら、あのテストがなんの意味もなしてないことがわかります。満点取っているのに全然ペラペラじゃありませんっていう人はそこそこ英語ができると思います。本当にペラペラな人はそもそもTOEIC受けてない可能性が高いです。)
3 カルチャーショック
そして文化の違い。これはもう本当に衝撃だと思います。日本という国が恵まれすぎています。この文化の違いについてはまた一本分の記事になるので、番外編として時間のあるときに書きたいと思います。とにかくカルチャーショックがでかいですが、行って慣れろというしかできません。
デメリットを克服する方法
これらのデメリットをカバーする唯一の方法は、努力あるのみです笑 私は昔からなんの才能もなかったので、間違いなく言えます。努力あるのみ。なんかここだけ急に精神論で古い考えのような気もしますが、それしかない、というかそれしか私には方法がありませんでした。
少しでもなんか才能があったらなとたまに悲しくなりますが、ないもんはしょうがないです。時間を人よりかけて、努力し続ける。ラッキーマンや天才マンでない方は、努力マンになるしかありません。(古いネタわかるかな)
資金がなければ、勉強しましょう。返さなくとも良い奨学金が得られます。英語が話せなくとも、Youtubeや映画やドラマで生の英語に触れる機会はいくらでも作れます。こっちに来てしまえば勝手に身につきます。勉強さえすれば全てはカバーできます。
最後は根性論ですみません。私がデメリットを克服した唯一の方法がそれしかありませんでした。たぶんもっといい方法もあるはずです。探せば道はひらけます。
以上、前回から続く「アメリカで映画制作を学ぶメリット・デメリット」でした。前回に続き、ここまで読んでくれたあなたはすごいです。ありがとうございます。ダラダラと書き流したので、とっちらかっていたかと思います。すみません。次回はとうとう決まったロケーション、俳優陣の紹介ができればと思います!
小澤 隼