製作日記12『アメリカで映画制作を学ぶってどうなの?』
vol. 12 2018-09-25 0
こんにちは。本日はアメリカで映画制作を学ぶことについて書きたいと思います。
実際にどんなことを学べるのか?アメリカで映画製作するメリットとデメリットは?詳しく書いていきたいと思います。
いつものごとくとても長文になっています。しかも二部構成です。
(10000字までしか書けないらしく、一度に掲載できませんでした。飽きたら読むのをやめてもらって結構です笑)
でも、ここまでアメリカの映画学部の内情を書いた記事はどこにもないと思います。少なくとも私が留学前に調べた本やウェブサイトでここまで詳しいことは知れませんでした。
アメリカの映画学部とは
アメリカの大学の映画学部と聞くとどんなイメージを持たれるでしょう?
エンターテインメントのイメージが強く、毎日映画を見て、感想言い合って、遊んでいる学部に思われますか?正直何やってる学部かわからない方も多いのではないでしょうか。
まず大きく映画学部といっても、細かい学科に分かれています。例えばスターウォーズを監督したジョージルーカスが卒業したことでも知られるUSC(南カリフォルニア大学)ですが、映画学部(Cinematic Arts)のウェブサイトを見てみると、7つの学科があることがわかります。
アニメーション・デジタルアーツ、シネマ・メディアスタディーズ、フィルム・TVプロダクション、インターアクティブメディア・ゲーム、メディアアーツ・プラクティス、プロデューシング、TV・映画脚本の7つです。
つまり映画学部といっても全員が映画制作を学んでいるわけではないのです。簡単に説明すると、
アニメーション・デジタルアーツはアニメや3D、VFXなどの特殊効果の制作を専門とした学科。
シネマ・メディアスタディーズとは映画学のことで、映画をみて批評したり、映画の歴史を研究したり、映画を学問としてとらえて勉強する学科。
フィルム・TVプロダクションは実際に映画やTV番組を制作する学科。
インターアクティブメディア・ゲームはゲームをメインとしたプレイヤーがそのストーリーに直接干渉(インターアクティブ)できるメディアを制作する学科。
メディアアーツ・プラクティスはVRやAR、パソコンやスマホといった様々なメディアに合わせて、それにあったストーリーテリング方法を研究し、実施する学科。
プロデューシングは、映画やテレビなどのコンテンツをビジネスの視点から、製作、配給、宣伝などを学ぶ学科。
TV・映画脚本は文字通り、脚本を学ぶ学科。
と細分化しているのです。あなたがイメージするような、映画を見て批評したりしているのは映画学ですし、実際にカメラを持って映画をつくっているのはフィルムプロダクション学科です。
これらの学科も大学によって異なりますから、映画学部とひとことに言っても学んでいるものは人それぞれです。
私が通うチャップマン大学の映画学部(Dodge College)には9つの学科があり、報道・ドキュメンタリー学科、クリエイティブプロデューシング学科、アニメーション・ヴィジュアルエフェクト学科、フィルムプロダクション学科、フィルムスタディ学科、広報・広告学科、脚本学科、俳優学科、TV脚本・製作学科があります。
USCとの違いは、俳優学科があったり、製作・脚本がTVと映画、ドキュメンタリーで分かれていたり、広報・広告学科があることですね。
私はクリエイティブプロデューシング学科に所属しています。映画の監督ではなく、プロデューサーになるための学科です。
私がこれからご紹介するのは、主にフィルムプロダクション、プロデューシング学科についての一部の授業ということ、また大学によっても細かいプログラムは違いますから、あくまでチャップマン大学の映画学部の話であることをご了承ください。
脚本
2年前に私が書いたSF作品『ジャーニートゥーマーズ』の脚本
まず映画を作るとなれば脚本がなければ話になりません。ということで脚本の書き方を学びます。脚本に学ぶも何もあるのかと思われるかもしれませんが、実は物語を生み出す上でもきっちりとした理論が存在しています。日本では起承転結が一般的ですが、アメリカではACT1, 2, 3の三幕構成が一般的です。詳しく書くと長くなるので書きませんが、脚本を書くにも決まったフォーマットがあります。それをまずは学びます。
またHero's Journeyという理論が存在し、物語には一連の決まった流れがあります。スターウォーズや、ハリーポッター、ロードオブザリング、ドラゴンボールでも、ワンピースでも、人気作には必ずHero's Journeyというある決まりの上で物語が展開していきます。一見自由に作れると思える物語も実は決まった流れが存在しているのです。逆にいえばこのフォーマットをきちんと学べば誰でも物語が作れてしまいます。しかしこれはあくまで理論で、この理論からどうずらしていくかが脚本家の腕の見せ所なのです。
ということで、アメリカで映画を製作している全員がこのフォーマットを理解しています。なぜならきちんと学問として学んでいるからです。果たして日本で、漫画や映画、ドラマやアニメを将来作りたいと考えている学生で、これらの理論をきっちり学んでいる学生がどれだけいるでしょうか。独学ではなかなか難しいところですね。
またアメリカで映画を学ぶ大きなメリットとして、現役の脚本家やオスカーをとった脚本家から講義を受けられるという点があります。日本の大学の教授といえば、すでに引退した人やそもそも大学に残り続けている学者肌の人が多いイメージですが、こちらでは普段は映画製作の第一線でバリバリ働いており、週に一回だけ学校に来て講義をする教授というのが大半です。例えばうちの大学にはアカデミー賞を受賞した『スティング』の脚本家や『ナッティ・プロフェッサー』の脚本家をはじめとした、現役の脚本家たちから直接脚本の書き方を学べます。
映画史
映画を作るものとしては、これまでの映画の歴史を知っている必要があります。日本で日本史、世界史を学んだような感じで、映画史をきっちりと学ばされます。また嫌という程、昔の映画を見せられます。
試験では、一問一答に加え、論文形式のテストを受けさせられます。はじめてモンタージュ技法を使ったロシアの映画監督わかりますか?そんな問題が山ほどでる上、テキストの範囲が嘘だろっていうほど広いです。これは映画好きでも正直辛い...
少年ジャンプと同じ厚さの映画史テキスト
このテキストからテストが出されます
役職を選ぶ
カメラをはじめとするあらゆる機材の使い方も学びます
もちろん映画製作学部ですから、映画の撮影について学びます。通常は3年生からEmphasisといって、自分がなりたいポジションを選んでいきます。映画を作ると言ってもそこには様々なポジションがあります。映画は1人じゃ作れません。
映画の企画から製作、配給まですべてにおいて関わりたい人間はプロデューサー、映画作品のみを自分の権限で作りたい人間は監督、映像の構図やカメラワークなど純粋に映像のみを極めたい人間は撮影監督、映画のセットのデザインをしたい人間はプロダクションデザイナー、音声に興味ある人間はサウンドミキサーやサウンドデザイナー、コンポーザー(作曲家)、編集だけをしたい人はエディターなど、細かく自分がなりたいものを選ぶのです。そしてそれぞれが必要とする技能は全く違います。それを学んでいきます。
製作現場
いくら学校の授業で技術を学んでも、それを実際の現場で使うことはまた別の話です。そこで、学生は段階を踏んで映画製作の現場を学んでいきます。
まずは2年生時に1・2・3エクササイズと言って、1ロケーション、2アクター、3ページの脚本を元に短編映画を作ります。撮影場所は一箇所、撮影日程は1日(12時間)、登場人物は2人だけでどうやって映画を作るのか実践しながら学びます。脚本のページ数は1ページ一分と換算されます。つまり三分のショートフィルムになります。もちろんプロデューサー、監督、撮影監督などそれぞれの役職がそれぞれの仕事をこなして1本の作品を作りあげます。
次に3年生時に、AP(Advanced Production)作品を2本作ります。脚本は8ページになり、撮影日程は三日に拡大されます。その分キャストもクルーも増え、製作予算も平均1500ドル(日本円で約17万円)ほどになります。
そして最後の4年生時に、Thesis(卒業製作)作品になります。脚本は15ページ、撮影日程は6日間、予算も少なくとも1万ドル(120万円)、多いところでは3万ドル(360万円)を超えます。
そうやってどんどんと映画の規模を拡大しながら、実践の中で映画製作を学んでいきます。ちなみに1年生の時から経験を積むために、スタッフとしてAPやThesisの製作に携わっていきます。
映画学部に編入するのが難しいのは、3年生からだと無経験のままいきなりAP作品をトップの立場で作らなけらばならなくなるため、非常に大変だからです。
私は留学生の上、編入生なので、最初にいきなりAPを作るのは非常に大変でした。なにしろ私以外のスタッフは全員アメリカ人で、すでに映画製作現場を知り尽した学生たち。その彼らを何もわからない外国人の私がトップになって映画を作らなければならなかったのですから。今思い出してもよくやったと思います。
ソフトウェアの使い方
パソコンルーム。ここで編集やVFXを学びます
映画が実際のフィルムで撮られていたのはもう遠い過去。今では映像の編集をするのにパソコンは欠かせません。現在ハリウッドの第一線で使われている編集ソフトAVIDをはじめとして、VFXのAfter Effects、3DアニメーションにはMaya、3DS Max、Xsensのモーションキャプチャーソフトとスーツ等の使い方を学びます。プロデューサーであればMovie Magicというスケジュール予算管理ソフトの使い方を知っていなければ話になりません。それらのソフトウェアの使い方を授業でみっちり学んでいきます。
映画学部の校舎・設備
スタジオを併設したキャンパス
これは学校ごとに違うでしょう。例としてチャップマン大学をあげるなら、巨大なスタジオが3つあり、大型シアターを備え、あらゆる映画製作に必要なソフトウェアがインストールされたパソコンが百台以上あります。
学校のシアター。ここで毎日のように最新の試写から過去の作品まで上映されています
私たちが作る映画『シュレディンガー』もここで上映されます
映画学部には上のような大型劇場をはじめとして、小型の上映ルームなどが多数あり常に映画を見られる環境にあります。昔の名作から、最新作までとにかくたくさん映画を見ます。また毎週のようにゲストスピーカーとして第一線の映画製作者たちが講義にもおとずれます。
ディズニーのアニメーションは常に試写会が行われ、製作者たちのセッションがあります
映画製作のために貸し出されるカメラは、ハリウッドで普通につかわれるハイエンドデジタルシネマカメラのArri Alexa、Sony F5/55、RED One Camera、Sony F-65 Camera、Sony A7s Mk2です。またプロップ(小道具)スタジオもあり、映画の小道具もよっぽど特殊なものでなければ借りることができます。映画を作る環境に囲まれています。
シュワちゃんが州知事だった頃にスタジオが建てられた。シュワちゃんは名誉卒業生です
インターン
アメリカ、特にロスで映画を学ぶということは、ハリウッドが近くにあります。つまり映画製作の業界が目の前にあり、インターンをする環境が揃っているのです。日本のように新卒一括採用という文化のないアメリカでは、インターンとして会社に入ってから、自分のキャリアを積み上げていくのが一般的です。日本のインターンは形ばかりの1日職業体験みたいなもんですが、本来のインターンは社員としてその会社で働くこととなんら変わりがありません。アメリカの映画学生は1年生のうちから、あらゆる大手映画スタジオでインターンとして働き、コネと経験を作っていくのです。
とりあえず文字制限のため今日はここまで、明日にアメリカで映画を学ぶメリット・デメリットについて書いていきます。
ここまで飽きずに読んでいただき本当にありがとうございます。すごいです。とっちらかった記事ですみません。
小澤 隼