製作日記6 『キャスティング工程1』
vol. 6 2018-09-17 0
こんにちは。みなさんいかがお過ごしでしょうか。日本はまだ暑いですか?カリフォルニアは程よい気候で、カラッとしていて非常に過ごしやすいです。
今回はキャスティングの工程について書かせていただこうと思います。
キャスティングとは、文字通り映画の登場人物を演じてくれる俳優をCast(役を割り当てる)することです。脚本でしか存在しなかったキャラクターたちが、実際の俳優によって演じられることで、現実の人物となるのですからとても大切です。彼らが映画の物語を進めていくのです。
キャスティングの簡単な工程は以下の通りになります。
1. 脚本を読み、何人のキャストが必要なのかリストアップ
2. それぞれのキャストに求めるものを確定
3. オーディションサイトで募集
4. オーディション
5. 決定(その後リハ、撮影)
となっています。
この工程はプロデューサー、ディレクター、キャスティングディレクターが中心となって進めていきます。
ところで、アメリカで俳優をキャスティングするにあたって、まずはじめに出てくる言葉が「SAG」か「Non-SAG」かという話題です。これは特にインディーズ映画だから出てくる言葉だと思います。
アメリカでは俳優といっても大きく二種類に分かれます。
一つはSAG俳優、そしてもう一つはNon-Union俳優(Non-SAG)です。
SAGとは通称SAG-AFTRA、正式名称Screen Actors Guild‐American Federation of Television and Radio Artistsのことです。日本語では全米映画俳優組合と訳されます。
この団体は日本でいう労働組合みたいなもので、アメリカ全土の映画やTVに出演する16万人の俳優たちが所属しており、彼らの労働条件を一括で管理しています。俳優専門の労働組合ってことですね。(他にもプロデューサー組合、監督組合などそれぞれの役職の組合が存在しています)
現在では、俳優がある程度の知名度を持ち、俳優主体の映画が作られることは当たり前です。例えば、レオナルド・ディカプリオやトム・クルーズ、トム・ハンクスなどがそうで、この俳優が出ているから観に行こうという方も多いはずです。俳優は今では重要な役割で、権力もめちゃくちゃあります。
ところが、ハリウッドが映画製作の街として名を馳せ始めた1920~30年代、俳優の労働条件は最悪でした。メジャーな映画スタジオが強大なパワーを持っており、俳優を数年契約で縛り付け、契約中はどれだけ働かせられようが、映画がヒットしようが、俳優に支払われる報酬は一定だったのです。さらには契約終了後にポイ捨てされることもザラにありました。
そんな俳優の厳しい労働環境を変えようとRalph Morganという俳優が仲間の六人の俳優と共にこのSAGを立ち上げました。
当初はSAGに所属する俳優たちは大手スタジオから嫌われてしまうので、この組合に加入する俳優はあまりいませんでした。
しかしその後、プロデューサー陣とSAGの話し合いが設けられ、今後は俳優に対して正当な報酬を支払うことに同意し、さらに当時の超有名コメディアン俳優エディ・カンターが加入したことにより、一気にSAGの認知度は高まり、当初80人ほどしかいなかった組合員が、わずか3週間で4,000人以上に増えました。
それからもSAGと映画スタジオとの戦いの歴史はいろいろあり、語るとそれはそれで面白いのですが、今回の話からはそれてしまいますのでここでやめておきます。
とにかく俳優陣の労働条件を守るのがSAGの役割です。今では俳優の労働条件は厳しく決められ、映画スタジオやプロダクションは、組合が決めている労働条件に乗っ取った契約を俳優と結ばなければならないことになっているのです。
そのSAGに加入している俳優をSAG俳優(SAG actor)と呼びます。映画スタジオにとってはSAGはある意味嫌な存在かもしれませんが、メリットもたくさんあります。契約が非常に楽になりました。すべての俳優の最低条件が決まっているので、契約上の問題が起こりにくいのです。
さらに私のような学生プロデューサーには非常に大きなメリットがあります。なんと学生映画であれば、SAG俳優を無料で契約できるという決まりになっているのです。もちろん交通費やガス代は負担してあげますが、俳優を無償で使えるというのは学生プロデューサーにとっては非常にありがたいシステムになっているのです。
ここで一つ疑問がでます。無償で映画に出たい俳優なんているのかと。いたとしても大したことないんじゃないの?
いえいえ。そこはさすが世界のハリウッド。アメリカ全土、いや世界中から映画スターを目指してやってくる俳優たちがわんさかいるのです。彼らにとって自分のポートフォリオを充実させることはとっても大事。むしろお金を払ってでも映画に出たいのです。
また学生映画といえば、なんとなくチープで、低予算、安っぽい映画ってイメージがありませんか?正直いえば私もありました。しかしアメリカの学生映画のクオリティーは半端じゃありません。たぶん映像だけを観たら学生映画とは全くわからないと思います。(ただストーリーですぐわかります...笑 結局いい映像をとる学生は山ほどいるのですが、面白い脚本・ストーリーを持っている学生は少ないのです)
ですので、学生映画にでるメリットは十分あります。
さらに言えば、ハリウッドで映画を学んでいる学生、特にUSCやUCLA、Chapmanといった有名映画大学の学生たちは、すでにインターンとして各大手スタジオで働いており、将来はハリウッドの映画業界に進む人材ばかりです。学生といえども将来のルーカス、スピルバーグがごろごろしているわけです。結局はコネが物を言う世界、ここでコネを作っておけばまたいつか使ってもらえるというわけ。
ということで、WIN-WINの関係で学生はSAG俳優を無料で使うことができるのです。(厳密にいえば、学生映画でも商業利用する場合や映画祭で賞を取った際にはのちに報酬を払わなければなりません。あくまで製作時に無料ということです)
そしてもう一つがNon-Union俳優(Non-SAG)。Unionつまり組合に加入していない俳優です。
もちろん組合に加入していない俳優はたくさんいます。というかむしろ加入していないほうが多いです。というのもSAGに入るには入会金3000ドル(約30万円)、年会費200ドル(約2万円)さらに報酬の数パーセントをSAGに支払わなければなりません。俳優として食っていけるレベルなら加入するメリットの方が大きいですが、まだまだ食っていけない俳優にとってはちょっとお高いですね。
Non-Union俳優を使うメリットは、契約が簡単ということです。もちろんこちらもお金を払ってでも映画に出たい俳優ばかりですので、基本無料で契約ができます。
さきほど述べたようにSAG俳優も無料で契約できるのですが、実はそのプロセスはちょっとめんどくさい。SAGを通して契約をしなければならないので、必要書類が山のようにあり、時間もかかるのです。ということで学生は無料でSAG俳優を使えるといっても、基本は好みません。なぜなら単純にめんどくさいからです。
さらにいえば、ここからは勝手なイメージですが、SAG俳優は態度が横柄な人が多いかもしれません。学生をちょっと舐めてるところがあるのかもしれません笑(個人的な印象です!みんながみんなそうではないですよ!)
ということで、アメリカで俳優をキャスティングする場合には、常にSAGかNon-Unionかに別れるという話でした。すみません、他のキャスティングの話が全然進みませんでした。
今後数回に分けてキャスティングのプロセスをご紹介していきたいと思います。いま「シュレディンガー」の製作でもちょうどキャスティングをしているところです。先日投稿しましたオーディションの様子もご覧にいただけたでしょうか?次回は実際のオーディションのプロセスについても書きたいと思います。
長々と読んでいただきありがとうございます。
小澤 隼