「脳天パラダイス」を鑑賞して
vol. 72 2020-11-28 0
71日目終了。
11週目が始まった。
そして11月最後の週末。
目標としている100人まであとわずかだ。
最後の瞬間まで前進していくしかない。
今日は新宿武蔵野館まで、映画「脳天パラダイス」を観に行った。
ご縁があったというのもあるのだけれど、観ておかなくちゃなって思っていた。
ちなみにこのMotion-galleryで最近までクラウドファンディングもやっていた。
僕が予告編を観て、とにかく観たいなぁと思ったのが柄本明さん。
柄本さんが弾けてコメディをやっているのを観て、わ!と思った。
少し年齢が高めの人は、志村けんさんとの女郎屋コントを覚えているかもしれない。
ただ意外に、元々、コメディの世界の人だったことを多くの人が知らない。
まだ小劇場ではアングラ劇が元気だった頃から。
関東のコメディ劇団と言えば、東京乾電池と東京ヴォードビルショーだった。
その東京乾電池の主宰が柄本明さん。ヴォードビルショーが佐藤B作さん。
柄本さんは、何をやっても笑いが起きてしまう状況をみてコメディをやめる決断をする。
それ以降の東京乾電池はコメディではなくなった。
若い演劇人で、東京乾電池がコメディだったと知らないヤツがいてびっくりした記憶がある。
狙って笑いを取ることが出来る人にとって、なんでも笑いが起きることに疑問を持つのはすごくよくわかる。
志村けんさんが、柄本明さんを誘ってコントをした理由も、その笑いに対するセンスや、笑いの間を熟知している安心感があったからだと思う。
その後の柄本さんの活躍を観れば、コメディをやっていたなんて知らなくても当然かもしれない。
実際、僕も映画館で今村正平監督の「うなぎ」を観て、すごく驚いた記憶がある。
そしてそれ以降、コメディ的な部分はあまり見せていないと思う。
実は僕が実際に舞台で初めて柄本さんを観た時は、すでにコメディをやめてからだった。
多分最初は、スズナリの初演の「煙草の害について」の一人芝居だったと思う。
普通に舞台に上がってきて、自分で幕を開けて一言「はじめます」
そのままアコーディオンを弾き始めて、それがオープニングだった。
実はもうそこで完全に心を掴まれた。
一瞬で笑っている自分がそこにいたから。
そんな柄本明さんが、コメディ的な役を演じているぞ!?と。
なんか、好きなように暴れていそうだぞ!と。
それも主演は、いとうせいこうさん。
作家であり、日本で初めてラップ音源を出した人であり、MCやったり、何者だかわからない人。
でも演劇人にとっては、重要なコメディ舞台人でもあって。
ラジカル・ガジベリビンバ・ビンバシステムという伝説的なユニットからはじまって、外れがないシティ・ボーイズライブにも出演し続けているからだ。
この二人が絡んだら、どんな芝居をするのだろう?と気になって仕方がなかった。
そしたら、もう。
絡む、絡む。
この二人のシーンの全てが楽しくて。
とあるシーンでは、もうまったくの不条理な会話を見事に成立させていて。
不条理劇というのはテキストになっているのを読むと意味がわからないのです。
何せ、不条理だから会話として成立してなかったり、無意味なことがあったり。
どうやって演じるのよ?という役者はたくさんいるのです。
それを役者の想像力や、演出家のアレンジで成立させていく。
ましてやそれをシーンとして成立させるのは、大変なことで。
二人がものすごくナンセンスな会話を日常会話のように成立させていて。
もうそれだけで至福のひとときでした。
そして柄本明さん、全編通して好きなように暴れていました。
満腹でございます。
バカで、アホで、ナンセンスで。
なんか思いついたこと全部ごった煮にしたような作品。
そこに柄本明さんがいることの幸せよ!
小劇場の世界には天才がたくさんいます。
柄本明さんやいとうせいこうさんは、劇場にいた時から有名だったけど。
世の中にあまり名前の知られていない天才もたくさんいるのです。
演出家でも俳優でも。
あ、こいつ面白いなぁってやつがゴロゴロいます。
それと天才じゃなくても、年輪を重ねて味がある俳優もいます。
演劇は刹那のもので。
上演したら記憶になっていきます。
だから僕は代表作を映画化したいと思ったのです。
そしてそれが一つの潮流になればいいなって。
当時、そのまま劇団員が出演しちゃう映画なんてなかったのです。
大体、劇団の代表作の映画かは、キャストが有名俳優に入れ替わってた。
その後、いくつかの劇団が劇団員出演のまま映画を製作しています。
「セブンガールズ」はそのスタートになれたなって思ってます。
それを機に、小劇場の世界の天才たちが少しでも世に出るといいなぁ。
演劇の方が素晴らしいとか、映画の方が素晴らしいとか、時々言う人がいるけれど。
どっちも素晴らしいし、そこに実は壁なんてないと思います。
ただ演劇は刹那で、劇場に来た人にしか知られないだけだと思うのです。
やめてしまった天才たちのことを時々思います。
僕はそこからさらに一歩踏み出したい。
もう一度新しいスタートを創ってみたい。
下北沢の小劇場で公演された作品を、出演者そのままで映画化して世界に持っていきたい。
これはもう映画化だけじゃない、次のフェーズだと思うのです。
世界に行けば日本人の俳優はほぼ全員が無名のようなものです。
そこで認知されることは大事な大事な一歩になるんじゃないかって思うのです。
僕は残念ながら天才とは言えないのですけれど。
でも自分が教わって来た事、感じて来た事、積み重ねて来た事に嘘がないと信じていて。
それをそのまま映画にしたら、それはそれは素敵な作品になって。
こんな作品観たことがない!と言われるようなものが出来るんじゃないかって。
そう思ったのです。
堺雅人さんや佐々木蔵之介さんや阿部サダヲさんなどなど。
すでに主演級の小劇場出身俳優がいる。
物語を支えるバイプレーヤーも、殆どが小劇場出身だったりする。
その個人が凄かったんだと、もちろん思います。
思うけれど、まだまだ伝わってないぜって思っています。
僕の夢は、僕の夢だけではなくて。
誰にもまだ知られていない、柄本明さんや。
世の中が気付いていない、いとうせいこうさんや。
とにかく、ものすごい高度な演技を続けている俳優たちの夢にだってなる。
そんなふうに思っているのです。
結構、本気でそんなことを考えているのです。
72日目がはじまります。
11月は残り3日。
目標にどこまで近づけるでしょうか。
小野寺隆一