心が揺さぶられること
vol. 21 2020-10-08 0
20日目終了。
昨日の朗報もそうだったけれど。
いつだって報せというのは急に届くものだ。
日々は連続しているけれど。
それはそれぞれの一人一人の日々の連続でしかない。
誰かの連続は自分にとっては連続していないものだ。
だから予想も予測も出来ないし、いつだって急に届く。
今年に入ってから今日まで。
いったいどれだけ考え続けただろう。
それが今日、ようやく辿り着いた日になった。
そんな日には色々重なるのかもしれない。
舞台「東京しもきたサンセット」が開幕した。
本当は6月に上演するだった作品だ。
新型コロナウイルスの報道がまだ加熱する前から僕たちは話し合った。
今はまだ何もわからないけれど、公演中止もあり得るよと。
その日から、政府や自治体、専門家会議の発表を逐一チェックした。
その時は、ロックダウンはないだろうと思うけど、、、なんて話をした。
それでも、何が起きるかわからない状況での公演の準備はリスクが高すぎた。
チラシを創るべきか、チケット発売を開始するべきか。
深刻なダメージが残れば、幕が開かなくなる可能性もあった。
あの日、とにかく今はどうなるかわからないから待とうと言った。
結果的に、緊急事態宣言が発令された。
6月には宣言が解除される可能性も報じられていたけれど。
6月の第一週の予定だった公演はさすがに中止せざるを得なかった。
劇場側に連絡をして、延期で出来ないかと相談をした。
多くの劇団が先が見えない状況に中止を選ぶ中、延期にするべきだと思った。
それは、公演の中止という発表は、あまりにもお客様に光のない発表だったから。
ステイホームという家を出れない期間に。
公演はするんだと発表する事こそ、大事なことだと思ったから。
それから数週間に一度、更新され続けるガイドラインを幾度読んだだろう。
最新の情報を入れ、他の劇団の状況を知り、新たな試みについても検証していく。
何よりも、お客様を危険な状況にしたらいけないと思った。
それはもちろんお客様にとってもそうだけれど、もしも、そんなことが起きたら、仲間たちがどれだけ傷つくか想像するだけで恐怖だった。
コロナ禍での演劇界、小劇場の周辺の状況は、理不尽なまでに厳しかった。
新宿でクラスターが発生した時にふざけたコメントを残したコメンテーターだけは忘れない。
なんにも劇場の事なんか知らないで、好き勝手に言ってくれたもんな。
文化の死だとか、演劇の死だとか、そんな大層なことよりも僕は心の問題ばかり考えていた。
演劇が救ってきた何かがある。その何かがなくなってしまえば誰かの心が止まってしまう。
あの苦しい日々を過ごした先に向かって、情報を集め続けた。
一般社会の状況と、演劇という狭い世界での状況のスピード感があまりにも違う。
そのことを少しでも甘くみれば、仲間たちを大きく傷つける可能性がある。
それでも延期した10月の公演を中止するという考えは1mmもなかった。
ガイドライン上はもう平気になったことでも、今はそのまま前のガイドラインに則している。
それはとにもかくにも、安心して観劇してもらいたいからだ。
たった一行の「怖かった」という言葉がSNSに上がることに恐怖し続けた。
劇場さんは当初の打ち合わせからの変更も伝えてくださっている。
ただ独自のガイドラインをどこに置くかはこちら次第なのだ。
アクリル板越しに、ほぼ非接触にも関わらず、手袋着用。マスク、フェイスシールド。
そのものものしさに驚いてしまう人もいるかもしれない。
そこまでする必要性はないと思う人もいるだろう。
少しだけでもユーモアのようなものまであるといいなぁと願いながら。
とにかく今は千秋楽まで、無事完走出来ることが第一目標。
そしてそれこそ、お客様も仲間たちも守る最低限のラインだと思っている。
人は慣れる生き物だ。
恐怖感にすら人は慣れてしまう。
「もう大丈夫だ」といつの間にか考えてしまう自分がいる。
そのたびごとに、自分を打ち消してきた。
今日、突然の報せがあって、心臓がバクバク言い出して、混乱しているその時。
リハーサルが始まった。
そこには今日までずっとマスクを着用して稽古してきた役者がマスクを取って出てきた。
その瞬間に、涙がじわじわ染み出してきた。
今日までやりづらかったよなぁ。
今日まで頑張ってきたよなぁ。
色々厳しいこと言い続けて悪かったなぁ。
良かったなぁ。やっと相手の顔を見て芝居出来るなぁ。良かったなぁ。
長かったなぁ。
本当に長かった。
コロナと戦い続けたんだよ。
それでも冷静に。
リハーサル後に全員にうがいするようにお願いしようと思い直した。
マスクを外しても、こまめにうがいをすれば時にマスク以上の効果がある。
それは自分の感染リスクだけではなく、その逆も含めての効果という情報だった。
長い戦いが報われた瞬間に立ち会いながら。
同時にまだその戦いが続いているのだと思い直した。
リハーサル後の少し上気した皆にとっては、またしてもなんか言ってるぜだったかもしれない。
それでも、皆、うがいをしていた。
きっとどんどん千秋楽に向けて慣れていってしまう。
だからこそ、余計に注意し続けていかないといけない。
なんせ、僕自身が慣れ始めていることに何度も気付くのだから。
初日の幕が開いた。
出演者が一人でも発熱があれば中止する。
そういう約束で進んできた。
そして、皆が体調管理をしてきた結果が出た。
初日終演後に飲みに行かないなんて、30年の俳優人生で初めてだ。
積もる話もある。溜まっているガスも抜きたい。
でも仕方がない。
お客様たちは皆、約束を守って観劇してくださった。
それは感動的なことだった。
受付や場内の仕事は一人であり安全対策もあり忙しいけれど。
その忙しさを忘れるほど協力的にしてくださった。
僕たちは何と闘っているのだろう。
これは心の問題だ。
何よりも大事な心の問題なのだ。
舞台上も客席も、全ての人の心がいっぱいになれたのなら。
その時がきっと本当に報われる時なのだと信じる。
考えすぎでもいい。考えすぎるぐらいがちょうどいい。
今日は、報せに、リハーサルに、初日に、心が揺さぶられた一日だった。
クラウドファンディングを開始してから3週間の日々が過ぎようとしている。
残りちょうど100日。
きっとまだまだ急な報せが届くだろう。
良い報せが続くといいなぁ。
僕は戸惑いながら考えながらそれでも歩き続けていく。
小野寺隆一