FUNDED
僕は今、現実の道を歩いている
vol. 16 2020-10-03 0
多分、僕の周りには夢を持っている人がたくさんいる。多分。
その夢が、本当に夢なのか、目標なのかの間に何があるのだろう？と考えたりする。
夢とは現実の対義語だと思っている人とっては、きっといつまでも夢は夢のままだ。
多分、その差があるとすれば、その夢を現実として考えられるのかどうかだけだ。
結局、そこにあるのは学ぶことしかない。
「やりたい」だけならきっと誰にだって言える。
子供が遊園地で指さしているのと変わらない。
じゃあ、それをやるには一体どうすればいいのか、そこからだと思う。
そうじゃなかったら、結局、人任せになる。
「やりたい」ことを人に伝えて、その人がやってくれるのを待つことになる。
もしくは、お金を払ってお願いするだけだ。
それで夢がかなうこともあるのかもしれないけれど。
それはある意味で、夢が現実になったとは言い難いと思う。
まず学んで、どこまで自分が出来るのか、手が届く距離にそれはあるのか。
教えてくれる人はいるのか、独学でどこまでいけるのか。
最終的に人に手を借りるとして、どこからどこまで頼むのか。
そういうことまで、あやふやな中で進めば、それは結局何も残らない。
その夢は、次のステージに進むきっかけにもならないだろう。
学んだことは、知識となり技術となり、次に進むための土壌になる。
もうだいぶ時間がたったけれど。
僕がバンドを始めたきっかけも今ととても似ていたような気がする。
いいようのしれない怒りと、どこにも行けないようなここから前に進むために。
何が出来るだろう？と考えてその末にCDを創りたいと思った。
僕は調べて、自分で録音して、CD-Rに焼いて配るということが出来ることを知った。
そして当時、色々なインディーズバンドが、CDRの無料配布をしていることなども調べた。
そして自分で出来ることを徹底的に調べて、マルチトラックが必要とわかって。
自分のパソコンでどこまで出来るのか調べて。
それから周りの人に機材の相談をしているうちに、偶然、スタジオ録音できることになった。
二人だけでそれを始めたのに、それはいつの間にかバンドにまで膨れ上がった。
僕は相方のギターにとっての兄貴分とまず二人で酒を飲むことにした。
そこで、最初のライブを手伝って欲しい、けれど、それは期間限定とお願いした。
ただ頼むのではなくて、頼む以上はいずれ自分たちだけでやれるようにまでなる。
最初からそう決めていたし、だからこそ、そういうことならと一肌脱いでくれた。
ライブハウスのブッキングも、曲順の組み方、編成、自分のスタイル。
引くべきところ、引くべきじゃないところ。
ほんの数カ月だけど、手伝ってもらって全てを学んだのだと思う。
もしかしたら、悪いところも含めて。
気付けば、自分で色々なことが出来るようになっていた。
勉強というと少し違うかもしれない。
興味があれば、知的好奇心を制限しないでどんどん学んでいく。
ただその繰り返しだったのだと思う。
数か月でアルバムを出して、ワンマンライブをしてと決めたことをやった。
舞台もそうだった。
自分で舞台をやると決めてから、音響さんも照明さんも舞台監督さんも頼めないと気付いて。
知り合いのスタッフさんの現場に、小遣い程度で手伝いに行って全部を覚えた。
僕の最初に作・演出した舞台では、照明プランも音響プランも美術も全部一人でやった。
回路図をひいて、大道具図面をひいて、オープンリールを編集した。
オペレーションだけを知り合いにお願いするという方法しか上演できなかったからだ。
そこには夢があった。
バンドをやるぞ、舞台をやるぞ。
でもそこには現実もあった。
バンドをどうやるんだ？舞台をどうやるんだ？
映画だってそうだ。
最初に、ショートフィルムを創るぞと決めたいつか。
あの日から猛烈にどうやったらそれが出来るのか学んだ。
でも思う。
僕は「やりたい」と口にしたことは、ほぼやりきった。
無理だろ？と言われたことだって、やってきた。
もしかしたら「やりたい」という言葉を口にする時には既になんらかの覚悟をしているんじゃないか。
安易に口に出さないで、ここぞという時に口にしているんじゃないかって。
最初は初期衝動に近い勢いで進んでいるだけだったような気もするけれど。
いつか、その繰り返しが経験になって、その瞬間をちゃんと見つけているような気がする。
このプロジェクトについて考え始めたのはもう一年以上前だ。
周囲にこれを話したのだって、去年の秋ぐらいが最初だと思う。
「やりたい」とはっきり言ったかはわからないけれど。
その後、足りないものが何か、学ぶべきものは何か。
そういうことを積み重ねていった。
そして「やりたい」が「やる」になった。
多分、それは人に何かをお願いすることになった時に、その人に失礼じゃないレベルになったからだ。
自分に出来ること、自分には出来ないこと、足りないこと、持っていないもの。
冷静に自分なりにみつけて、つぶしてきたからなのだと思う。
まさか、コロナなんて来るとは思ってもいなかったけれど。
コロナで生まれた分断は僕のそれを加速させたと思う。
自分が芝居を初めての30年目。
これまでの全てのベクトルがそこを指してる。
何を学んできたのだろう。
誰のどんな思いを今も背負っているのだろう。
僕の内側から発している何かは、どこからやってくるんだろう。
あいつの声が今も聞こえるような気がするのは何故だろう。
学んできたこと。
経験だけは僕を裏切ることはない。
だからこそ、もっともっと学ばないといけない。
「やりたい」と口にしたのであれば。
それだけの責任が生じるのは当たり前のことだと思うから。
そこに覚悟と責任がなければ、何も残らないことを知ってきたから。
僕は今、現実の道を歩いている。
小野寺隆一