映画「演者」製作プロジェクト┃
映画「セブンガールズ」製作から３年、もう一度下北沢から世界へ

６日目終了。
最初の一週間の最後の日がやってくる。
本日も共に歩んでくださる方が増えました。感謝。

今回リターンの中に「絵コンテ」というものを追加した。
前回にはなかったものだし、監督によって書いたり書かなかったりするものでもある。
プロフィールに書いてある僕が最初に創ったショートフィルム「オクリビ」では全てのカットの絵コンテを書いた。
今回もそれが必要になると僕は思っていて、それでリターンにも加えようと思った。
ちなみに前回のプロジェクトでは、リターンでも撮影でも絵コンテはなかった。
全てのシーンなのか、カットなのかもわからない。
どれだけ書くのかもわからないけれど、絵コンテを今回は書くと決めている。
それは「オクリビ」で撮影打ち合わせなどスムーズに進んだ経験からかもしれない。

撮影スタッフの持つ経験と知識は膨大だ。
絶対に太刀打ちが出来ない。
だからこのクラウドファンディング次第ではあるけれど出来れば撮影は頼みたいと思っている。
こういう絵にしたいと伝えた時に自分ではどうやればいいかわからないものも一瞬で答えが出る。
イメージの共有が少しでもしやすくしたいと思っている。
そこは絶対に重要になってくると今から予感がある。

なぜならば、僕が監督をするのであれば、最大の武器は一つしかないからだ。

映画監督と言っても色々な出自がある。
今だったら学校で映画を習った若手監督が多いのだろうか？
CM監督からの人もいるし、MV監督からの人や、テレビのディレクター出身もいる。
映像作家的な人もいるだろうし、様々な分野からの人がいる。
これからはきっとYoutube出身監督だって現れるだろう。
例えば作家的要素が強い人であれば、物語性こそ一番の特色になる。
映画マニアがそのまま映画監督になったというような場合だってある。
映画の持つ面白さみたいなものをたくさん仕掛けとして導入したりするのが特色だろうか。
映画監督の出自はその監督の持つ特色になると思う。

僕の持っているものは芝居しかない。
70年代アングラ演劇の演出家から芝居を習い始めて。
現代口語演劇ブームや、軽喜劇、第三世代と呼ばれた小劇場ブーム。
様々な中に身を置いて、芝居とはなんだろう？と考え続けたことだけが軸になる。
今、映像における演技というのはどういうわけか二極化している。
「半沢直樹」や、コメディタッチの演技は大きな演技と呼ばれる。
一方でナチュラルな演技と俗称されるようなものがある。
そのどちらも演技で、どういうわけか作品ごとに偏っていたりする。
そして不思議なほど、こっちが好き、あっちが好きと線引きが入っている。
こういう演技の作品が得意な監督、とかそういうジャンル分けが自然に出来ているように思う。
でも本当はそんなものはなんにも存在していない幻想だよ。
先日、深夜番組でナチュラルな演技なんてものは存在しないとある役者さんが言っていたけれど。
恐らく長く経験した俳優ほど、そこに線引きする意味は余りないことを知っていると思う。
たぶん、僕が映画を撮影するということはそういう線をとっぱらうことだ。

実は先日、毎週見ているわけではないけれどたまたま「半沢直樹」を観ていた。
今回のシリーズでの悪役を演じている柄本明さんの芝居のすごみに感動を通り越して笑ってしまった。
劇的な一面と、日常的な一面とを自由に行き来しながら、緊張感が一瞬も緩まない。
ご存知、東京乾電池の座長でもある。
あの芝居に、ナチュラルだとか大きな演技なんて簡単に言ったら一笑に付されるだろうと思う。
そんなことじゃねぇんだよって言われるだろう。
そして恐らく最終回までの組み立てもしてあることに恐怖さえ覚えた。
多分、まだ毎週続く連続ドラマの中で一度も見せていない顔や、聞かせていない声を隠し持っている。
あれだけの芝居なのに明らかに自分の中でピークをまだ作っていない。
最終回で最大のカタルシスを生み出すための芝居を演じ続けていた。
とんでもねぇなと思ったのと同時に、これをきちんと作品に落とし込むことがきっと自分に出来ることなんだと感じていた。
柄本明さんはすごい。小劇場という現場でコメデイをやり続けた俳優。
演じるとは何なのか考え続けてきた、積み重ねてきた、そういう俳優。
きっと何が凄いのかちゃんと説明できる人がほとんど存在しない俳優。

映画と演劇の最大の違いは監督の存在なのだと思う。
演劇には演出家が、客観視点として存在しているけれど、監督とは少し違うかもしれない。
映画監督にとって俳優は、被写体でありピースだ。
それが演技であろうと、その場で生まれた感情であろうと、作品にとって良ければ構わない。
俳優を精神的に追い込んで、張り詰めた精神状態を撮影したってOKが出る。
演技で構築した張り詰めた状態よりも、素晴らしいものが撮影できたと言う人だっている。
それはそれで間違っていない。
なにしろ、本物を、本当を、求めているのだから。
本当に精神的にギリギリの状況を撮影できるのであれば一番良いというのは理にかなっている。
そして俳優は、自分の知らない自分を出してくれた！なんてことを口にしたりもする。
世界的な監督が、本番じゃない時間もカメラを回していてそれを映画に使ったりだってする。
そして俳優は、演じてない素の自分を撮影しておいてくださったなんて発言もする。
映画とは監督の視点そのもので、むしろ演技的な何かを忌避している部分だってあると思う。
演技ではこの表情は出ない！なんて称賛だってあるのだから。
ある意味で何が出てくるかわからないけれど、何かを狙うことだって出来るはずだ。

僕が芝居を最初に教わった師がとある舞台をやった時にフランス人のお客様が来たそうだ。
言語の壁があるというのに、信じられないほど高く評価されてフランスに招待したいと言われたのだという。
当時の日本の演劇のレベルはとんでもないレベルにあると大変興奮していたのだそうだ。
実際に、当時、ヨーロッパに渡った小劇場作品はいくつもあった。
そのことをほとんどの日本人が知らないだけだ。
僕の師は最終的に断ってしまったと悔いていた。
それが一体、何を評価してだったのか、きちんと考えるべきだと思っている。

だからこそ撮影まで進んだ時に芝居に集中したい。
本物を、本当を、撮影したい。
それをもっともっと徹底的に考え尽くした作品を創ってみたい。
そこからしか生まれない緊張感や、深さをそのまま収めてみたい。
だからこそ、絵コンテなどの事前準備を徹底的にやりたいと思ったのです。
自分が持っている最大の特色があるとすればそこなのだから。

どんなものを撮影したいのか伝わりにくいのはわかっているのだけれど。
きっと実際の映像が出来るまでは伝わらないのだけれど。

とにかく何枚でも絵を描いて。
何回でも構築しなおして。
「演者」とは何かを表現できないかと企んでいる。

最初の一週間の最後の日がやってくる。

小野寺隆一