制作日記 14「LOVE SONG」CD1-3 完全版
vol. 28 2024-05-31 0
「LOVE SONG」 original release “Primitive” (2009)
arrangement, programming & vocal 小林祐介 (The Novembers / THE SPELLBOUND), guitar:土屋昌巳, bass:高松浩史 (The Novembers)
【イントロダクション】(後半に土屋昌巳さん、小林祐介さんインタビューあり)
DER ZIBET 、ISSAYさんは僕の人生の中でとても大きな存在です。
最後まで直接お会いすることは叶いませんでしたが、土屋昌巳さんをはじめ沢山の先輩方からISSAYさんの話を聞いていました。彼の美意識や佇まい、哲学や生き様、全てが芸術でした。世代や立場は違えど、僕もそうありたいと心から思いました。(小林祐介)
このアルバムへの参加が決まった時に小林さんから頂いたコメントです。The NovembersやTHE SPELLBOUNDの作詞においても、言葉の使い方にすごく独自のセンスがあって、丁寧に考え抜かれた言葉を発する様は「関ジャム」のラルク特集に出演された時も流石と思わせてくれました。
オファーするキッカケはある方のXの投稿でした。そこで初めて小林さんが学生時代からDER ZIBETを聴かれていたことを知り、なんとか連絡がとれないものか。最終的にThe Novembers、THE SPELLBOUNDを取材されている音楽評論家の方にお願いしたのですが、トリビュートアルバムの依頼をするまでにかなりの時間がかかってしまいました。
3月某日、いよいよご本人との打ち合わせ。駅の近くで待ち合わせをして初めてお会いしたのですが、背の高い小林さんは終始笑顔を崩さないとても人当たりの柔らかな人でした。
小林さんにとって初対面となるプロデューサー岡野ハジメさんのスタジオを兼ねたご自宅でのミーティングでは、お父様の影響で日本のロックを聴き始めたことや、DER ZIBETの再結成第一弾アルバム『Primitive』(2009年)をリアルタイムで聴いてとても衝撃を受けたことについてもお聞きしました。選曲についての話では、小林さんが挙げていただいた曲たちの中に"Primitive"収録の「LOVE SONG」があったこともあり、岡野さんから「じゃあそれで」と。すんなり決まったのでした。
その時、すでに小林さんの中ではご自身でシンセの打ち込みトラックを作って、ベースはThe Novembersのメンバーの高松浩史さんに、ギターは可能なら土屋昌巳さんにお願いしたいと、のちに実現する構想が固まっていたようでした。
その後、小林さんはご自宅で曲のアレンジ、トラックメイクの作業へとーー。途中経過をメールで伺うと、先ず仮歌を先に録って、アレンジを色々トライしているとのこと。そこでトリビュート参加者の中で唯一小林さんがボーカリストでアレンジャーなのだという事に気付きました。
そして制作チームと小林さん、そして土屋昌巳さんのスケジュールが(土屋さん曰く)「奇跡的に」合致したのがその日だったのです。
【レコーディングは土屋さんのギター録音】
4月26日(金)、夏日に迫る気温24℃となったこの日の東京、ゴールデンウィーク前最後の平日の首都高速、幹線道路は車で溢れ渋滞気味。
13時半に土屋さんと一緒にINFANTRON studio(岡野邸)に到着すると小林さんも着いたばかりで、玄関先で「お久しぶりです」と土屋さんにまずご挨拶。
半地下のブースにて土屋さんがギターとアンプのセッティングする間、小林さんはずっと一緒にお話しされていました。微笑ましい師弟関係?のお二人です。
小林さんは自宅でレコーディングを重ね、ボーカルトラックも完成、すでにコニヤンに渡っていて準備万端の状態です。
ベースもThe Novembers(通称ノベンバ?)高松さんがフレットレスでかっこいいのを入れてきてくれています。
高松浩史(The Novembers)
小林さんの追加音源をコニヤンがProToolsに取込み、バランスをとっている間に、土屋さんは小林裕介さんにベンジー(浅井健一)さんが参加するAJICOのライブに行ったお話「すごくサイケデリックなんだよアジコ。UAが凄く良かった」。実は土屋さんに小林さんを紹介したのはベンジーさんだったそうです。
3時過ぎからいよいよ土屋さんのエレキ録り。「Flowers」でも使われたクリーム色のストラトが登場です。
土屋さんから「またあのトレモロを、今度はかけどりで使いたいんです」とのリクエスト。前回「Flowers」の時は一度録ったものにかけていましたが、今日は土屋さんのエフェクターボードに繋いで、アンプを鳴らします。
岡野さんは「ツインピークス(デヴィッド・リンチ監督の伝説のTVドラマ)の感じでいきましょう」。50s, 60sのサーフミュージックと少し怖い雰囲気の融合を目指しているようです。
さて、テイクワン。冒頭から痺れます。「これぞフェンダー!」というお手本のようなサウンド。
4時頃からはギルドのセミアコに持ち替えて、スライドギターを。
そして4時半頃からは再びストラトで。ジェフベックなどのフレーズを弾きながらサウンドを調整していく土屋さん。
4時40分 ギターソロの録りがスタート。二本録って上の階でプレイバック。「渋かった~」とコニヤン。が、土屋さんは「どこに行こうとしてるかわからないですね。正統的なヤツやっときましょうか?」と、さらに6テイクくらい録って、小林さんと一緒にプレイバック。
最後から2番目のテイクに決定!
トラックに関しては岡野さんから小林さんにキックの位置について、Japanの「クワイエット・ライフ」を引き合いにしてサジェスチョン。「なるほど~」と小林さん。
5時30分、「録りものはおわりですか?」とコニヤンが問いかけると「ちょっと土屋さんに試して欲しい事がある」と岡野さん。説明を聞いて土屋さんがセミアコを下から持ってきて弾きながら考えるうちに「あ、コレかっこいいかも!」と閃いたご様子。
【レコーディング後半は賑やかに】
ここで筆者イトハルは同僚であるHを駅まで車でお迎えに。戻ってみると1F玄関にちっちゃな靴が二つ。??猫好きの近所のお子さん?
螺旋階段を2Fに登ってみると、はたしてキッチンの大テーブルでお菓子を食べていたのは小林さんのお子さんたち、お姉ちゃんと弟君でした。聞くとお母さんも今日はお仕事なので、そんなに遠くないご自宅からタクシーで二人してやってきたそう。
なんだかとても和やかなレコーディング風景。これもご自宅スタジオならではですね。お腹が空いてきたようなので毎度のイトハル家ZOEのお弁当(この日は中華系)を先ずお子さんたちに食べてもらいながらいろいろおしゃべり。お姉ちゃんは将来は歌手になりたいって「パパのお部屋は隣だからいつもパパの音楽聴いてるの」。弟君はテーブルでご飯食べたり、ゲームしたり。そのうち岡野家の猫ちゃんたちがぞろぞろやってきたのでお子さんたちは仲良くなりたいと猫じゃらしを持って追っかけて行きました。
そうこうしているうちにいつの間にかレコーディングは終了したようで、いつも弁当お持ち帰りのコニヤンを除いてみんなでご飯タイム。いろんなお話に花が咲きとても楽しいひと時でしたが、その間にHは小林さんと土屋さんにそれぞれインタビューさせていただきました。
ここまでText:DZTP イトハル
【土屋さん、小林さんにインタビュー】
ギター録りが終わり、一息ついたタイミングで土屋さんと小林さんにお話(ISSAYとの出会いはそれぞれ別枠のインタビューで掲載)を伺うことに。まずは、土屋さんが小林さんと知り合った経緯について。お二人を繋いだのは前述した浅井健一さんだとか。土屋さんは『BANG!』や『C.B.Jim』などBLANKEY JET CITYの傑作アルバムを何枚もプロデュース。現在もプライベートを含めお付き合いがあるそうです。
ある時、ベンジーが小林くんのことを“すごくいいヤツがいるからプロデュースしてあげてくれないか”って。出会ってから30年以上たってますけど、ベンジーがそんなこと言うの初めてなんですよ。実際には“いいヤツだが”のひとことだったんですが(笑)。ビックリして音を聴く前に“会うよ!”って
そんな経緯があり、土屋さんはThe NovembersのEP『Elegance』(2015年)をプロデュースすることになります。当時の対談で土屋さんは“ロックは美感、品格、作法が大事”と語り、小林さんも共鳴。影響を受けた洋楽や考え方も含め、ISSAYが小林さんと出会っていたら3人は意気投合して、一緒に音楽を創ることになっていたのかもしれないーー。「LOVE SONG」でお二人がコラボすることに不思議な何かを感じると伝えると土屋さんは心の内を語ってくれました。
不謹慎かもしれないですが、僕はISSAYくんも櫻井くんも亡くなったと思ってないんですよ。あの2人はどこか遠くに行っていて、いつか、ふっと現れるんだろうなって。いなくなったって思いたくないし、そう思ってしまうとやりきれない。近しい友達もそうなんですけど、認識するとその感情をどう処理していいか分からなくなるから、亡くなっていないことにすればいいっていう方法を思いついたんです
音楽を共に創り、ステージに立つのはほかとは比べようがないぐらい特別で濃密な時間を共有することだと定義づけた土屋さん。そのことは後に詳しく触れるとして小林さんの手による「LOVE SONG」のトラックを聴いた時の感想はというと?
非常に小林くんらしいなと。ただ、最初は勝手にもっとロックというか、ラウドな方向でくるのかなと思っていたんです。もちろん、音楽的にデリケートな側面があるのは知っていましたし、The Novembersにもそういうタイプの曲はあるので、意外ではなかったんですが、ふわっとしているサウンドなので、どういうギターを弾いたらいんだろうと。そんな中、偶然、一致したのが『ツインピークス』の世界観だったんです。岡野さんのサジェスチョンなど、自分以外からのアイディアも出てきたのでギター録りは楽しかったですね
*土屋さんのインタビュー、続きはこちらの制作日記EXTRAで https://motion-gallery.net/projects/DERZIBET/updates/51299
土屋さんのギターは想像を超えて素晴らしかったという小林さんは「LOVE SONG」への溢れる想いを熱く語ってくれました。高校生の時、DER ZIBETの音楽に出会い、自身がプロになってからは、多くの方たちにISSAYと会わせたいと言われていたそうです。
「LOVE SONG」はとても好きな曲なんですが、DER ZIBETの中でもストレートなポップソングの1曲だと思うんですね。「木霊 – ECHO」(『HOMO DEMENS』)も候補曲にあげていたんですが、僕なりのISSAYさんへのレクイエムになるような曲に関わらせていただきたかったんです。“約束のない今を君と生きたい”という歌詞は僕自身、言葉にするだけで苦しいんですが、今、ここにISSAYさんはいないけれど、それでも僕たちは自分の人生を生きていて、DER ZIBETの音楽が流れるたびにISSAYさんはそこにいる。“約束のない今”という言葉が今回、改めて歌詞を読みかえした時に刺さってきたんです。僕らがDER ZIBETの音楽に想いを馳せたら、きっとISSAYさんの魂がいろいろな人たちを幸せにするだろうって。“これからも一緒にいるよ”って言ってくれるような気がしたんです
歌を先に録音してからトラックを制作した理由は「LOVE SONG」のメロディとISSAYの歌に宿っているものに共鳴したかったから。テーマは歌ありきのレクイエムを創ること。そんな想いが切なさと包みこむような愛に満ちた小林さんのボーカルへと繋がっていったのです。
「LOVE SONG」は誰かに宛てた恋文のようにも聴こえるけれど、自分にとっては“LOVE”がとにかく大きくて‥‥“人類愛”とか“生命愛”とか、人生そのものの物語がこの1曲に凝縮されているような説得力があったんです。こういう言い方が正しいのかは分からないけれど、ISSAYさんへの喪失感、ポッカリ心に穴が開いたような気持ちで聴いた時に、そういうふうに考えざるを得なかったんです
*小林さんのインタビュー、続きはこちらの制作日記EXTRAで https://motion-gallery.net/projects/DERZIBET/updates/51314
溢れる想いを込めて歌った曲にこの日、土屋さんが弾いたギターが「今しかないものを記録するんだ」と言っているようで「“今を生きること”は土屋さんのギターそのものだな」と感じたという小林さん。魂が共鳴しあうことによって生まれたカヴァー「LOVE SONG」が尊い楽曲になったことは言うまでもありません。
Text:DZTP(H)
「LOVE SONG」収録のDER ZIBET『Primitive』ハイレゾ版も配信あります。