制作日記 11「マスカレード」CD1-5 完全版
vol. 23 2024-04-16 0
vocal: tezya(tezya & the sightz)/ vocal: michi. / arrangement, track, mandolin & accordion: 藤原マヒト (DER ZIBET) / tuba: 関島岳郎(栗コーダーカルテット)
4月7日(日) 快晴
春うらら。東京でソメイヨシノの満開宣言が出された翌日は、花冷えと曇り模様が続いていた状態から一転して、久しぶりのあたたかな快晴日でした。ちょうど日曜日だったこともあり、街中にはお花見がてら散歩されている方や、遊歩道のベンチで桜の樹を見上げていらっしゃる方々の姿などがちらほらと見受けられます。実にのどかな光景です。
しかし、本日これから制作作業に入る曲のためには精神的なモードをがらりと切り替えねばなりません。トリビュートアルバム『ISSAY gave life to FLOWERS - a tribute to Der Zibet -』には収録時間いっぱいまで数多くの楽曲を収録する予定なのですが、今日はその中でもとりわけ濃密なる馥郁とした香気と、複雑な陰影から生まれる玄趣な味わいが際立つ「マスカレード」(1991年発表の8thアルバム『思春期II-Downer Side-』収録曲)のヴォーカルトラックの確認・選択作業を、岡野邸スタジオにて行うこととなりました。現場に参加されたのは、この曲のアレンジとトラック制作を手掛けている藤原マヒトさん、そしてふたりのヴォーカリスト=tezyaさんとmichi.さんです。
おそらく、皆さんの多くは「マスカレード」がもともとデュエット曲であり、そのオリジナル版はISSAYと櫻井敦司さん(BUCK-TICK)によって歌いあげられた、という件についてよくご存知のことでしょう(ちなみに、2010年にリリースされたセルフカバーアルバム『懐古的未来~NOSTALGIC FUTURE』にも「マスカレード」は同じ二人のデュエットが新録にて収録されています)。
ISSAYと櫻井敦司さんという、他に類をみないとりあわせのツインヴォーカル曲。これをあらたなかたちでトリビュート盤に収録することにしたのは、もちろん、そこには深い追悼の想いがあったからです。そして、我々DZTPとしては今回その想いをtezyaさんとmichi.さんのおふたりに託させていただくことにいたしました。それぞれに卓越した歌唱力、豊かな表現力、さらには上品な“色香”を持っていらっしゃるヴォーカリストであるうえ、ISSAYとの共演経験もあり、以前から相互にしっかりとした面識があるという点も決め手だったと言えます。
「今回のお話をいただいた時は、とても光栄に感じたのと同時に、やっぱりちょっと怖くもあるなと思ったんですよ。だって、「マスカレード」はDER ZIBETのファンの方々、BUCK-TICKのファンの方々、双方にとって凄く思い入れが強い曲のはずですからね。「なんだよ、その歌い方は違うぞ!」「マスカレードはこんな曲じゃない!」って中には感じられる方もいらっしゃるかもしれないとは思うんですが、気持ちとしては原曲の“あの世界観が好き”っていうところから始まっているので、僕は僕なりに、michi.くんもmichi.くんなりに、ISSAYさんから叱られないようにということは意識しつつ(笑)、かなり自由に歌わせていただきました」(tezya)
「僕もこのお話をいただいた時は、正直プレッシャーを感じましたね。とても嬉しかった反面、「ほんとにいいんですか?!」って(笑)。あと、この曲はもともとツインヴォーカル形式ということで、tezyaくんと一緒にやることになったのも最初はちょっと驚いたんです。でも、いざ制作が始まってみるとディスカッション出来る仲間がいるというのは自分にとって楽しくてワクワク出来ることでしたし、ふたりで「どうする?どうする?」っていろいろ試してみたり、という過程も全て含めてとても充実していました」(michi.)
なお、あらためてご紹介させていただきますと、tezyaさんはかつて高校時代にSUGIZOさん、真矢さん(LUNA SEA)とPINOCCHIOというバンドを組まれていたことがあるそうで、その後はGrace ModEを経て、1994年には筋肉少女帯の橘高文彦さんが起ち上げたソロプロジェクト・Euphoriaに参加。さらに、1995年にはD'ERLANGERのSEELAさんらとFiXでメジャーデビューもされています。また、ATOMIC ZaZaやMeGAROPAでの活躍後に2007年からはtezya & the sightzとしての活動を開始して、今現在に至っていらっしゃいます。もちろん、ISSAYとの共演も幾度となくあり、その際の楽しそうな様子がtezyaさんのSNSにあげられていたのも実に素敵な想い出です。
「僕、ISSAYさんにはずっと一方的に憧れていた時期があったんです。若い頃に、とある関係者の人から「あなたはISSAYっぽいところがある子ね」って言われたこともあって、勝手にシンパシーを感じてたところもあったんですよ。その後、大人になってからはさまざまな場所で共演させていただく機会に恵まれまして、僕はこれまた勝手に“お兄ちゃん”のようにずっと慕わせてもらってました(笑)」(tezya)
一方、今回の「マスカレード」で櫻井敦司さんのパートを歌われているmichi.さんは1992年に結成したMASCHERAで1997年にメジャーデビューし、その後はソロプロジェクト・S.Q.FやLa'cryma ChristiのKOJIさんと組んだALICE IN MENSWEARでの活動を続けてきていらっしゃいましたが、昨年からはソロワークスを始動されています。
「もう僕にとってのISSAYさんは神様なので、過去には何度かタイバンさせていただいたり、イベントに一緒に出させていただいたことはあるんですけど、何時もご挨拶させてもらって、握手をしていただいて、というところくらいが自分的には限界でした(苦笑)。そういう意味では、個人的なお付き合いをさせていただいてました!とは言えないくらいの関係性ではあったんですよね。とにかく、ISSAYさんの存在は以前からずっと僕の中で完全にレジェンドなんです。だから、初めてお会いすることが出来た時は「…この人、ほんまに実在してたんや!?」って内心で思っちゃったくらいです(笑)」(michi.)
そんなtezyaさんとmichi.さんは、今回のレコーディングをいわゆるリモート形態で進めていくことになりました。基本的なアレンジとトラック制作はマヒトさんが統括しているのですが、さまざまなアイディアのやりとりはプロデューサーの岡野ハジメさんも含めて全員が非対面で行い、歌もtezyaさんとmichi.さんは自宅スタジオにてそれぞれに自身で録り、データをやりとりしていかれたそうです。
つまり、この日のスタジオ作業はヴォーカルトラックの確認と選択が主眼でした。岡野さんからは、tezyaさんとmichi.さんに対して「確認をしていく中で、場合によっては歌を録り直す可能性が出てくるかもしれない」との通達があったというものの、実際には作業が始まってみると両者の録って来てくださった素材だけで充分ことたりてしまうことに。よって、大変残念ながら今回の制作日記ではおふたりの“熱唱ショット”を公開することは出来ません。あしからず!
さて。ここからは、アレンジャーとしてのマヒトさんにもコメントをもらっていくことにしましょう。今回の「マスカレード」について、サウンドの方向性はそもそもこのように考えていたといいます。
「僕が最初に考えていたのは、ブリティッシュフォークのイメージだったんですよ。ドノヴァンとか、LED ZEPPELINのアコースティックなナンバーのような感じを、この曲にあわせると面白いかな?と思って。普通のベースではなく生音のチューバを使う、というアイディアもその時点で既にありました。ただ、そこからスケッチを作って岡野さんにお送りしたところ「なんか僕にはダンスビートっぽいものが聴こえる」っていうことで(笑)、4つ打ちのキックとかクラブ要素も入ってきたんですね。あとは、歌っているおふたりからもDepeche Modeみたいなエレクトリックな要素も混ざったら面白いんじゃないか?という提案があり、さらにアレンジを重ねていったんです。ヨーロッパ的でデカダンな空気感も欲しかったので、その部分については自分でアコーディオンを弾くことにしたんですけど、最終的には自分が思い描いていたよりも摩訶不思議で面白いものが生まれたな、という手応えを感じています。原曲とはまた別のアングルから見た世界になってますね」(マヒト)
原曲とは別アングルからのアプローチという意味では、曲の後半にとあるギミックが入っているのも今回の「マスカレード」ならではの大きな特徴だと言えるように思います。なんでも、そのアイディアはtezyaさんによるものだったそうですが、ギミックそのものの正体については『ISSAY gave life to FLOWERS - a tribute to Der Zibet -』が完成した際に、コレクターのみなさまご自身の耳でぜひともお確かめください。きっと、誰もがこの曲を聴いているうちに異世界へと誘われるに違いありません。
「やっぱり「マスカレード」はシアトリカルな要素を持ってる曲ですし、ISSAYさんと言えば歌だけではなく演技の面での表現活動もいろいろなさっていた方ですからね。今回はここに、ぜひ“こういうの”を入れたいなと思ったんですよ。聴いてるうちに現実なのか、幻想なのか、過去なのか、未来なのか、ここはどこなのか、全てがだんだんと錯乱していくような感覚を伝えるために必要だったアプローチがあの手法だったんです」(tezya)
「あれって、僕の声とtezyaくんの声が全く違うタイム感でズレながら重なっているところが凄く面白いんですよね。あと、それとはまた別にクワイアが入っている部分は僕が『オペラ座の怪人』からインスパイアを受けて入れたところなんですが、tezyaくんがすぐに「これ、『オペラ座の怪人』でしょ?」ってわかってくれて。それがちょっと嬉しかったです(笑)」(michi.)
以心伝心なおふたりが繰り広げる、令和版「マスカレード」。それは18世紀のフランスで外相をつとめたシャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴールが、エスプレッソの味わいについて言及した「悪魔のように黒く、地獄のように熱く、 天使のように純粋で、そして恋のように甘い」というあの言葉にも似た、めくるめくひとときをもたらす絶佳な曲としてあなたを必ずや惹きつけることでしょう。
Text:DZTP(S)
ここから追記分
DZTPイトハルです。さて、その後「マスカレード」はマヒトのアレンジ構想としてベース部分をチューバにするというアイデアを本人のつてで栗コーダーカルテットの関島さんに依頼、それを自宅録音で送っていただき、さらにマヒトがアコーディオンに加えて自宅でマンドリンを弾いて(芸達者!)トラックにさらに磨きがかけられていったのでした。
そして5月20日に岡野さんMIXが完成、すると曲の最後にダースベイダーの足音?のような今まで聞いてなかった音が入ってました〜マヒトによる効果音(本人曰く「イビキ」)だそうです。
そしてマスタリングが済んでアルバム全体の音源を聴いてもらったボーカリスト二人の感想をご紹介!
マスタリング聴きました。最高の作品に寄り添うことができて本当に光栄です! ずっとリピしてて今日眠れませんでした。まだ心臓がバクバクしてます。マスカレードももちろんですが、特に初っ端のDer Rhein最高過ぎです! 本当に、音楽ファンだけにとどまらず、たくさんの方に聴いてほしい作品だと思いました。100年-1000年と伝説が続きますように (michi.)
このトリビュート、中学生の頃JAPANに夢中になり、高校時代SUGIZOと一緒にDEAD END. RED WARRIORS. ZIGGYのコピーをしていた者としては冷静に考えてもこのラインナップと全体のクオリティの高さに今、夢でも見てるのかと思うくらいの熱量に情報処理が出来ないでいます。そしてDER ZIBETの楽曲とISSAYさんの歌詞の素晴らしさを改めて感じました。どのトリビュート曲を聴いてもやはりISSAYの声が脳内再生されます(実際にはユカイさんが参加した曲だけは、もうユカイさんのオリジナルでしたがw)。ISSAYさんを知る事ができ知り合えた事が本当に嬉しいです。曲並びも最高です。マヒトさん、他の曲も聴かせて頂きましたが天才です^ ^ 一生の宝モノがまた一つ増えました! 有難うございました! そしてラスト曲のISSAYさんの声で泣いてしまいました… (tezya)
こんな感想をいただけて制作委員会としてもとても嬉しいです。
最後に一つだけご紹介。藤原マヒト/ソロアルバム「六号通りの憂鬱」(2021年)も機会があったら聴いてみてください。サブスクで聴けます!