『出稼ぎの村、少年の涙』(はちどり小学校)〈後編〉
vol. 20 2014-02-22 0
この連載では、2013年7月に行ったカンボジアでの上映会の様子を、ツアーに参加したメンバーの上村が綴っていきます。
上映準備中、映画俳優顔負けの表情をする子に出会いました。
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し、しぶい!!!
これは・・・話しかけない方がよさそうか・・・
でも、仲良くなりたい・・・
思い切って話しかけると・・・
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フレンドリーに、カンボジア語を教えてくれました!
時々、「そんなのも分からないの?」という感じでしたが・・・(笑)
勉強します。
そんなことをしているうちに、上映準備が整いました。
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(集まって来る子ども達)
やなせうさぎの登場と共に、映画が始まります。
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子ども達、あっという間に釘付けに・・・
その表情をご覧あれ。
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良い表情を見せる子ども達の中でも、ひと際気になる子がいました。
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彼、とても表情が豊かなんです。
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何に驚いてしまったのでしょうか!?(笑)
主人公のパルが都会で笛の修行をするために母親と別れるシーン、
彼は・・・
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涙を流していました。
前回の記事で紹介したように、この村の子ども達の親はほとんどタイへ出稼ぎに行っていて、離ればなれに暮らしています。
自分のそんな心境と映画のシーンが重なったのか、感情が雫となってこぼれ落ちていました。
感動によって流した涙の効用を調べると、こんなことが分かりました。
1985年に涙の研究によって注目されたアメリカのウィリアム・H・フレイ博士は、
「タマネギを切ったときに出た涙」と「映画に感動して出た涙」を分析して、成分の違いを比較したそうです。
すると、「映画に感動して出た涙」からは、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)という成分が検出されました。
このACTHは、ストレス反応として分泌されるホルモン。
涙と共に体外へ排出することでストレスも一緒に出て行くことになり、
実際に血液中のACTHが減少したそう。
親と離ればなれに暮らす生活は、少なからずのストレスになっていると思います。
あのワンシーンで、少しでも彼の心がリラックスできたことを願います。
さて、ストーリーはクライマックスへ!
厳しい修行、ライバルとの競争に打ち勝ち、パルはついにコンテストで優勝します。
そのシーンに、子ども達からは大拍手が!
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次はこの子達がパルのようなヒーローになれる番が来ますように。
映画が終わり、僕らが宿泊から通訳まで頼っているイキイキゲストハウスのオーナー・サムナンさんから、子ども達へ「夢を追いかけること」の意味が語られます。
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サムナンさんが語り終えると、隣の教室から笛の音色が・・・
よく聴くと、さっきまで観ていた映画「ハルのふえ」のテーマソングです!
「もしかして、パルがここへ・・・!?」
と、思ってくれていたら大成功(笑)
我れ先にと隣の教室に移動すると、そこには・・・
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本物のフルーティストが!
左側でピアノを演奏しているのが、前回ご紹介した浦田彩さん。
右側で太鼓を叩いているのが、心優しきパンクロッカーの相磯紘平さん。
そして真ん中にいらっしゃるのが、カンボジアで音楽の授業をされているフルーティストの高松玲奈さん。
あまりの音色の美しさに、本当に鳥肌が立ちました。
演奏が終わると、今度は子ども達がフルートを吹く番!
みんなでパルを目指します。
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こんな風に、とっても真剣な表情で挑みます。
・・・が、これ、けっこう難しいのです。
なかなか音が出なく、失敗した時に出る風だけが抜けるような音に、周りの子ども達は大笑い(笑)
だけど、何度もチャレンジしてうまくいった時の嬉しさは大きいです。
音が出ると、にっこり。
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このワークショップを考えたのには理由があります。
このような形に決まった時の、CATiCのFacebookに投稿された記事をここに貼ってみます。
やなせたかしさん作の『ハルのふえ』。
主人公のパルが笛と出会い、
母の愛と努力の末に夢を叶えて笛吹きになる・・・
家族愛と夢の尊さを教えてくれる心あたたまるお話です。
これを観た子ども達にも、世界観を広げた夢を抱いて欲しい。
日々の生活が夢とリンクすることで、
毎日をワクワク過ごして欲しい。
そして、夢を追いかける子ども達を応援できる団体でありたい。
そんな想いから、今回の上映会では、
映画上映後に各学校でワークショップを開催することになりました!
実際にカンボジアで音楽活動をされている日本人をお招きし、
映画に出てきた曲の演奏や、
子ども達が楽器に触れる時間を作ります。
夢を「見る」だけではなく、夢に「触れる」。
そんな機会になったら嬉しいです。
映画を観て、登場人物のストーリーを追体験する中で、「こんな生き方もあるんだ!」と夢を広げて欲しい。
それが、この団体が立上がった理由でした。
そんな中で、映画を観て、新しい「夢を観る」だけでなく、
実際にその「夢に触れる」。
そんな機会を作りたいという想いからの企画でした。
・・・
こうやって農村部を渡り歩いていて、気付かされることがあります。
物質的な面では分かりませんが、豊かな面もたくさんあるということ。
「映画がなければそこに笑顔はないのか?」と聞かれれば、
少なくとも僕らが回った場所に関しては「NO」です。
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だけど、映画によって更に豊かになる表情も、確かにありました。
それもまた事実です。
ずっと続いて来た議論ですが、
「生きる上で必ずしも必要ではないものを届ける意味ってなんなのか?」
この問いを、僕らも考え続けますし、ぜひ僕らの活動を見守ってくださる皆様とも考えてみたいです。
「自分たちは絶対的に良いことをしている」
その驕りにはよ〜く注意をしながら、試行錯誤から逃げずに歩み続けます。
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次の上映場所となる農村では、そんな視点も持って子ども達の親にもインタビューをしてみました。
親達が子ども達に抱いている想いとは・・・?
次回、『子どもの夢は、親の夢』(イキイキスクール)をお送りします。
過去の記事
■第一回:『サンデーちゃんの夢』(一二三日本語教室)
■第二回:『出稼ぎの村、少年の涙』(はちどり小学校)〈前編〉
■第三回:『出稼ぎの村、少年の涙』(はちどり小学校)〈後編〉
■第四回:『子どもの夢は、親の夢』(イキイキスクール)
■最終回:『夢は「仕事」、職業は「知らない」』(スロラニュ小学校)