日本大学危機管理学部 鈴木秀洋 准教授からメッセージが届きました。
vol. 12 2021-09-29 0
「今できること」日本大学危機管理学部 鈴木秀洋
大川小津波訴訟判決(確定)は画期的である。
東日本大震災は想定外の災害と言われ、いくつもの人災的要素が隠され、類似の原告遺族の敗訴判決が続く中で、「事前の組織的な防災体制構築義務」を明らかにした点で、画期的である。かつて行政の法務・危機管理を担当し、現在行政法の学者としての立ち位置から分析しても、歴史を動かした判決と評価できる。
この裁判を担当した吉岡弁護士と齋藤弁護士は、私が日本で最も尊敬する弁護士の二人である。両弁護士の覚悟と真摯な思いが伝わってくる。それは、遺族とともに膨大な科学的知見や物的・人的証拠を収集し、緻密に積み上げ、練り上げた書面が物語る。
しかし、前例のない訴訟は困難の連続である。
また、遺族たちは、二次被害、三次被害にも曝され続けた。この判決を勝ち取るまでにどれだけの涙を流したことか。心無い批判や脅しにどれだけ苦しめられてきたことか。
真実を明らかにしたい、そして子どもに報告をしたい、たったそれだけの僅かな願いが、この日本でどれだけ大変なことなのか。そして、裁判の勝訴の後も、誹謗や苦しみが続く。やるせないのは、判決が指摘しているにも関わらず、未だ抜本的な学校防災の仕組みの改善・構築がなされたとは感じられないことである。行政が積極的に遺族に歩み寄り、胸襟を開いて、地域の学校防災をともに作っていこうという真摯な働きかけは見えない。
津波は必ずまた来る。
絶対に同じ過ちはしない。齋藤弁護士が涙ながらに語るように、「みんなのお父さん、お母さん達は、本当に頑張ったよ。」。そして、今も、未来の子ども達のために声をあげ続けているよ。そう私も伝えたい。
しかし、そろそろ、そのバトンは、私達社会が引き受けねばならないのではないだろうか。
あの日の子ども達を救うために、今だからこそ考えられる事前防災策を講じた上で、できるなら、もう一度あの日前の子ども達に会いに行きたい。もう一度抱きしめたい。
でも、それはできない。
今できることは、あの日のことを現在を生きるすべての人々にしっかり伝えること。そして、未来の子ども達のために声をあげ続けること。
この映画は、「子ども達の未来の命を守る」、そのための映画である。