柳本さんが自ら作成し、自宅に保管していた膨大な資料ファイル、コレクションの実物が展示された会場は、広い倉庫でありながらものすごい量の物が出すエネルギーに溢れています。
今回はクラウドファンディングプロジェクト*、展示会期ともに終盤に差し掛かった会場で、展示会のキュレーションをされた熊谷彰博さんにお話を伺いました。
*クラウドファンディング中のプロジェクト
とにかく物を集めまくった柳本さんの人生
「柳本さんは幼少期からとにかく物を集めてきました。時には重複したものを売ったりしながら資金をためて、さらに物を買ってということを繰り返してきたんです。次第に、物そのものよりもその背景にある文脈のほうに価値があることに気づき、時代に合わせてアーカイブを編集して展示を企画していくうちに世間の注目を浴びるようになりました。独立してからは、そのアーカイブを出版物にまとめるようになります。エアラインチケットやタグなどをまとめた本がきっかけでエアラインブームに火がついたこともありました。最近ではデザインディレクションや企業や店舗のアドバイザリーなどを行っていました。」
会場内のコレクションを見回してみると、オリンピックや万博、ジーンズのタグなど価値が出るものやそれを予測するコレクションはもちろん、旅行先で集めた洗剤のボトルやプラスチックのマドラーなど、その蒐集は物自体の値段によらず全方位的だったことがわかります。
できるだけ長くこのアーカイブの可能性を保持するために
「ここの入場料も含めて、クラウドファンディングで集まったお金は展覧会の制作・運営費とアーカイブの保管・運用の費用に充てます。今まで柳本さんは、自身のアーカイブを編集して出版や商品開発、企業のディレクションを手掛けて運用してきました。アーカイブの可能性をつくるために展覧会を開催したため、この後はまだ検討中ですが、一時的に保管ができるだけで考える余裕が生まれます。例えば、本にまとめたり、個人や企業、美術館などに貸し出したり、柳本さんが構想していた活用されるアーカイブとしての行方を捜しています。」
いざクラウドファンディングプロジェクトを始めてみると、温かい反応に驚かされたのだそう。
「クラウドファンディングをやってみると、本人の人柄もあってとても温かい反応に驚かされました。この展覧会の制作・運営は皆有志なので、仕事をしながら制作しました。個人的にもとても忙しい時期を重なり、心が折れかけたりしたんです。そんな時にクラウドファンディングのコメント欄をみると、柳本さんとの思い出や展示を楽しみにしていますという声がたくさんあって本当に励まされました。SNS上で交流があっただけの方もいて、誰にでも分け隔てなく同じ話ができる柳本さんの人柄があってのことなんだと思います。」
どんなものでも貴重品のように大切に
スーパーマーケットにある日用品や希少価値の高いものも等価に扱いたい。このプロジェクトのきっかけになるそんな想いを起こさせたのは、柳本さんのコレクションに対する並々ならぬ姿勢だったようです。そんな柳本さんらしいエピソードを熊谷さんは聞かせてくれました。
「少し前に、ある展示で「とるにたらないもの」をいろいろな人から集めて展示することがあり、柳本さんには世界中の洗剤の空ボトルを送っていただいたことがあったんです。5,60本の洗剤ボトルが入ったダンボールを開梱したときのこと。洗剤ボトルのひとつひとうに緩衝材が丁寧に巻かれていたんです。「とるにたらないもの」でも、大切に扱っているんだなというのがとても柳本さんらしかったです。どんなものでも自分にとって価値があるものは、貴重品のように扱っているんだなって。」
プロジェクトと展示の会期は残すところあと数日。貴重なコレクションが一堂に会した様子はこれからなかなか見られないのだそう。愛情をかけられたたくさんの物が並ぶ様子を見ると、物へのあなたの視点も少し変わるかもしれません。
柳本浩市展 「アーキヴィスト ー 柳本さんが残してくれたもの」
YANAGIMOTO KOICHI, ARCHIVIST
会期: 2017年4月29日(土)~6月4日(日) 会期中無休開場時間: 12:00-18:00 会場: six factory 東京都目黒区八雲3-23-20入場料: 一般500円、大学生200円(学生証提示)、高校生以下無料