応援メッセージ(10)
vol. 10 2026-08-29 0
伊藤由貴子さん(元神奈川県立音楽堂館長)
初演の困難さゆえに「再演不可能」と言われた『散乱系』を、2018年に神奈川県立音楽堂で再演することになったのは、芸術総監督だった作曲家・一柳慧の推挙があったからだった。
当時、一柳は山本についてこうコメントをしている。
「山本さんの作品は、まともには演奏できない、ひとひねりふたひねりやって、さらに曲の演奏を困難にしていながら、それを乗り越えて演奏の場を開拓しているところが面白い」。
ただ現場は大変。客席上に絹糸を「安全に」張るという作業は、まさに「大実験」。その長さと強度を満たす絃を伝統的手作業で製作するというのも、とんでもない発注。
迎えた本番日。ホールの変貌ぶりには目を見張った。ホールに張り巡らされ、振動にゆらめく箏糸たち。頭上から降り注ぐ音と舞台上の音楽を一体として聴く体験。まるで楽器の中にいるよう。
生活環境の全てを電気に依存した現代社会への疑問から出発し、「糸電話」という極めて素朴な原理をつかって、こんな巨大な現代音楽空間を作ってしまう芸術の力。そこに確かな希望を、私は感じる。
