池袋アートギャザリング公募展と裏小樽モンパルナス
vol. 7 2026-02-26 0
複合文化施設、裏小樽モンパルナスについて広く、深く知っていただくためのアップデート。今回は池袋モンパルナス回遊美術館と、公募展「池袋アートギャザリング(IAG)」についてです。公募展には2024年から「都市間提携・地域連携」の一環として「裏小樽モンパルナス特別賞」を設けていただき、受賞者には、裏小樽モンパルナスでアーチスト・イン・レジデンス(AIR)として2~3週間ほど滞在の上、制作、展示を行い、市民とも交流を図ったいただくというプログラムを提供しています。
「裏小樽モンパルナス」という名前は「池袋モンパルナス」というアートコミュニティ、アートムーブメントへのオマージュとして名付けました。池袋駅が開設された明治後半から昭和初期にかけて、現在の東京都豊島区池袋周辺には「アトリエ村」と呼ばれるアトリエ付き貸し住居群が立ち並び、熊谷守一、長谷川利行、丸木位里、丸木俊、靉光(あいみつ)、寺田政明、松本竣介、麻生三郎(ウラオタルBaza-Artに参加してくれた奈良美智さんの恩師でもあります)、長沢節、野見山暁治など、情熱をもって芸術を志す若者たちが集まり、切磋琢磨しながら生活していました。そのうちの一人が小樽出身の詩人小熊秀雄で、彼が1938年に発表した詩の中で「池袋モンパルナス」という言葉が生まれました。
「池袋風景」
池袋モンパルナスに夜が来た
学生、無頼漢、芸術家が街に出る
彼女のために、神経をつかへ
あまり太くもなく、細くもない
ありあはせの神経をー。
小熊秀雄「池袋モンパルナス」 『サンデー毎日』1938年7月
「池袋モンパルナス 大正デモクラシーの画家たち」(宇佐美承著 集英社文庫)は、アートコミュニティとしての魅力と戦争の時代に翻弄されざるを得なかった若者たちの群像を描いた秀逸なノンフィクションですが、ちょうどこの本を読んでいたのが2021年のウラオタルBaza-Art開催中でした。動き出した空き店舗保存のためのプロジェクトをこの先どう展開していくか考えていた時に、すでに出来ていた「裏小樽」という「地域」と「在り方」を表現するキーワードと、アートコミュニティの象徴としての「モンパルナス」を組み合わせることで、私たちが目指す「アートを中心としたコミュニティ作り」というヴィジョンをユニークに示すことができると思いました。
ウラオタルBaza-Artで奈良美智さんが作品を展示してくれたスペースが建物群の用途を構想する上で中核となり、ここではギャラリーのほかライブ、映画上映も可能なのではと思っていましたが、小樽市外から利用する方々が2階に泊まれるように改修したら便利なのではと、当初から宿泊施設を併設することは念頭にありました。アーチストが長期滞在して制作、展示を行うAIRは裏小樽モンパルナスのコンセプトを伝え、複合文化施設としての特徴を最大限活かせるプログラムとしてぜひとも実現したかったことでした。
豊島区は「池袋モンパルナス」を貴重な文化資産としてまちづくりに積極的に活用していますが、その活動を担っている「池袋モンパルナス回遊美術館」実行委員会の小林俊史委員長に知人を介して2023年2月にお会いすることができました。その場で意気投合し、お互いの活動に共感した上で「なにか一緒にやりましょう」ということで、2024年のIAG公募展から「裏小樽モンパルナス特別賞」がスタートしました。このプログラムの受け皿として、小樽で活動するアーチストや旭川市の小熊秀雄賞市民実行委員会のメンバーら9名で市民団体「心の城綜合芸術工場」を2023年秋に設立。受賞者の選考やAIRのサポートを行っています。ちなみに「心の城」は小熊秀雄未完の第3詩集のタイトルから、「綜合芸術工場」も彼が晩年に着想を得ていた芸術運動の名称から取っています。
IAG2024では中根隆弥さんが裏小樽モンパルナス特別賞の第一回目の受賞者となりました。同年10月末から2週間滞在し、制作、展示のほかギャラリートーク、ライブドローイングなどで広く市民と交流していただきました。
ちなみに中根さんの制作期間中に、THA BLUE HERBのBOSSさんのミュージックビデオ「YEARNING Pt.2」の撮影が裏小樽モンパルナスであり、中根さんの作品も映っています。中根さんはTHA BLUE HERBの大ファンで、この奇跡の邂逅に、感激のあまりずっと固まっていました…。
2025年は公募展の入選作品の展示会場である東京芸術劇場の都合により秋開催となったため、2024年の公募展で次点となっていた高島亮三さんに9月末から3週間ほど滞在いただき、制作、展示を行っていただきました。ギャラリートークのほか、市民参加型のフィールドワークやイベントマッチ(石自慢大会!)も企画していただきました。
中根さんと高島さんには小樽で制作した作品の一部を裏小樽モンパルナスに寄贈いただき、それらは施設内に常設展示されています。
小樽の人々や自然、風景とアーチストが触れ合うことで生まれた作品が、建物の一部として積み重なっていく…。一瞬のインスピレーションがカタチとなって、記録され、記憶される…。この空間がアートを生み、アートがこの空間を創る…。そんな永遠のキャッチボールがここで続いていくなら、これ以上の喜びはありません。
IAG2025では、銅版画を制作する黒石美奈子さんが裏小樽モンパルナス特別賞を受賞しました。今年10月から11月にかけてご滞在いただく予定です。どんな交感があり、どんな作品が生まれるのか、今から楽しみです。
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