素晴らしき映画音響の世界!
vol. 12 2021-12-19 0
制作ノート(2)
勝亦さくら さんによる映画音響をご紹介します
昨年公開されたドキュメンタリー映画『ようこそ映画音響の世界へ』でも何かと話題となっております、映画音響の世界。
皆さん、映画の「音」を何気なく聞いていませんか...?
今回は、映画の中の「音作り」Foley(フォーリー)について解説しつつ、勝亦さんからご寄稿いただいたノートを掲載します。
Foley(フォーリー)とは?
音響制作者ジャック・フォーリーさんの名前が由来とされ、登場人物の行動や周囲の環境に起因する音(足音、衣擦れ、ドアの音など)を別で録音した音、その効果音をフォーリーと呼びます。一般的には劇映画にフォーリーを付ける事が多いです。例えば、ドアの音。「ギィ〜」と奇妙な音が鳴ると不穏な空気感を醸し出せますし、「バン!」と大きな音が鳴ると登場人物が怒っていたり、急いでいるなど、その時々の状況が音に現れます。
音で「演じる」ことで、生きた音を作品に取り入れられ、観客は更にその世界に浸る事が出来ます。フォーリーを「演じる」人を「フォーリーアーティスト」と呼ぶこともあります。
「名付けようのない踊り」はドキュメンタリーですが、田中泯さんの踊りの世界観を「音響」でも表現することが必要だと確信した犬童監督。この難題を勝亦さんに託しました。
実際のフォーリーの作業風景をスマートフォンで収録させていただきました。予告編でも流れている、能舞台で泯さんが踊るシーンにフォーリーを付けているところです。
実施の映像を観ながら、能舞台の軋みを絶妙に表現されています。泯さんのダンスに音を付けるという作業は、とても難しいことだと想像出来ますね...。
また別のフォーリーの様子です。本編をご覧になった時には、どこのシーン音を付けていたのかわかるかもしれません。
この映像の奥にピンク色の子供用の簡易プール見えます。このあとに掲載した勝亦さんからご寄稿いただいた文章の中に、「オイル」について記述があるのですが、この簡易プールに「オイル」を溜めてフォーリーを行なったということです。残念ながらその様子は映像に残しておらずご紹介できないのですが、本編をご覧になった際にフォーリーの様子をご想像いただくのも面白いかもしれません。
それでは、音響効果/勝亦さくら さんからのノートをお届けします。
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「名付けようのない踊り」ノート
劇映画でもドキュメンタリーでもない音づくりにしたいという監督の言葉から音仕上げがスタートしたこの作品ですが、田中泯さんが生きてきた、そして今生きている様を音としてどう表現するかがテーマだったと思います。
その中で映像を観ながら動きに合わせて音を収録する「Foley(フォーリー)」という作業に特に重きをおきました。
足音、衣擦れ、手を叩く、食べる、といった人物の動きにまつわる音です。
劇映画ではそれら全ての音を収録しているのが常なのですが、ドキュメンタリーはリアルをそのまま伝えることがテーマなので、後で付けたというような誇張する表現はあまりしなかったりです。
ですが今回は田中泯さんの動きを誇張しすぎるわけでもなく、でも生きてる感がでるような、収録時の音の出し方、最終的なミックスでのバランスが重要でした。
オイルプールシーンは、実際にオイルを大量に用意し、簡易のオイルプールを作りました。泯さんに絡みつくオイルを音としても足すことで、より踊りが活きればという思いでしたが、実際オイルをつかって音を出すというのは簡単ではなかったです…(笑)
オイルの粘り気が立ちすぎて気持ちの良くない音もダメですし、逆に品よく音を出すと何も音がしない…。。
そのちょうど良いところを仲間と一緒に探って、泯さんの踊りを観ながら自分たちもオイルを体に纏わりつけて収録していきました。粘り気を調整したり、種類を替えたりといったパターンを収録し、その後の編集作業で組み合わせや加工をして最終的な形にしました。
仲間と「あんなにオイルを体に纏わらせることは今までもこの先もないだろう」とたびたび話します。音を感じるようなシーンではなく泯さんの踊りの一部になっていれば良いなと思うところです。
「頭上の森林」シーンは、始めの打ち合わせで監督から「映像がシネカリ風なのでフィルムの感じを、泯さんから発生している何かは映像に合った何かということではないのかもね」という難解な宿題をいただき、さてどうしようかとなりました。
フィルム感を出す為に、16ミリの映像フィルムに花道の剣山を擦り付けて映像と合わせてみました。不思議とアンプの電子的な音がするという発見があり、それをベースに構築してみました。目や鼻や耳から発生する何かは、自然のもの、木のつるや葉っぱや藁といったものを生きてるかのごとく映像に合わせて手で表現しました。
それらを森の風などの中に加えて、最終的には泯さんのナレーションと口笛の中にミックスしました。なんとも不思議なシーンになったと思いました。
そして全体を通して一番大事にした「田中泯さんの踊り」をとにかく生きてるようにと心掛けて、足音、衣擦れを収録しました。
同じような踊りが到底できるわけもないですが…映像の田中泯さんにひたすら集中して音を出していくと、終盤の「蜘蛛との踊り」の頃には自分も踊ってるかのごとく気持ちが良くなってきました。決して同じように踊れてるわけではなく気持ちの話です。(笑)
実際の踊り時間は映像よりもっと長いので、この集中力とパワーで踊り続けることにフォーリーを通して本当に凄い事だなと実感しました。田中泯さんから奏でてるようになってる事を願います。
色々な音素材を仕込み準備したあと、監督と共に最終的なミックスを行います。
今回はトータルミックスをZAKさんが担当されたので、連日ミックスを緻密に共に行いました。微妙な音のバランスや素材の取捨選択で見え方感じ方が大きくかわるので、監督からのオーダーをお聞きしながら少しずつ丁寧にバランスをとっていきました。
田中泯さんの生き様に魅了されながらでしたので、音の表現も楽しいに尽きました。
この映画は、田中泯さんの踊りとともに世界を飛び回っているような、大地、地球に包まれてるような作品であるように思います。映画づくり楽しいな、改めて思う作品でもありました。
多くの方に届いて広がっていってほしいです。
音響効果 勝亦さくら
京都・鴨川で音ロケをしている様子
音響のミキシング作業の様子
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プロフィール [音響効果:勝亦さくら]
神奈川県出身。日本映画学校卒業後、音響効果会社カモファンにて主に映画作品に携わる。その後フリーランスとなり活動中。主な音響効果担当作品は、「ヒメアノ〜ル」(16/吉田恵輔監督)、「退屈な日々にさようならを」(16/今泉力哉監督)、「帝一の國」(17/永井聡監督)、「モリのいる場所」(18/沖田修一監督)、「友罪」(18/瀬々敬久監督)、「猫は抱くもの」(18/犬童一心監督)、「体操しようよ」(18/菊地健雄監督)、「あの日のオルガン」(19/平松恵美子監督)、「タロウのバカ」(19/大森立嗣監督)、「最高の人生の見つけ方」(19/犬童一心監督)、「影裏」(20/大友啓史監督)、「Mother」(20/大森立嗣監督)、「子どもはわかってあげない」(20/沖田修一監督)、「星の子」(20/大森立嗣監督)、「さんかく窓の外側は夜」(21/森ガキ侑大監督)、「キャラクター」(21/永井聡監督)などがある。